Poppin'Party、Aqours、LiSA、梶裕貴、IDOLiSH7、ヒプマイ……2019年声優/アニソンシーンをライター4氏が総括
須永兼次
2019年アニソンの顔は、「紅蓮華」と「お願いマッスル」に
基本的にアニソンというジャンルは、アニメ作品のヒットに比例して広まっていく傾向があります。ただ、特に昨今はアニメ作品の本数が非常に多いので、作品自体が話題にならないと逆に埋もれてしまいがちなんですよ。そのなかでも今年の顔は、アニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマで「紅蓮華」(LiSA)、『ダンベル何キロ持てる?』のオープニングテーマ「お願いマッスル」(紗倉ひびき/CV.ファイルーズあい、街雄鳴造/CV.石川界人)でしょう。
LiSAさんの「紅蓮華」は元々、物語と親和性が高い楽曲なのですが、ストーリー序盤の主人公・炭治郎の心情と重なるように、シングルでは〈ありがとう 悲しみを〉となっている箇所を、TV ver.では〈何度でも立ち上がれ〉と差し替えているんです。元々のLiSAさんのシンガーとしての実力に加えて、こうした細かい部分までアニメに寄り添っている点も視聴者の支持の高さへと繋がっていったのではないでしょうか。一方「お願いマッスル」も同様に作品との親和性が高い楽曲ではありますが、仕掛けもポイントのひとつ。楽曲にはボディビルならではの掛け声がガンガン入ってきてフックになりましたし、MVは筋肉アイドルの才木玲佳さんとボディビルダーの横川尚隆さんが出演したストーリー仕立てのMVも、非常にインパクトがありました。楽曲自体の質の高さや気持ちよさに加えて、こうした仕掛けもあいまって急速に広まっていったように思います。
アニソンシーン注目の作家は
楽曲制作面で今年特に活動が印象深かったのは、まずfhánaの佐藤純一さん。『ナカノヒトゲノム【実況中】』ではfhánaとしてエンディングテーマ「僕を見つけて」を手掛けただけではなく、オープニングテーマや挿入歌全曲の作曲を担当したこともあって、fhána以外への楽曲提供の増えた年だったんです。他にも今年は『上野さんは不器用』のオープニングテーマ「閃きハートビート」(伊藤美来)や、『けものフレンズ2』のエンディングテーマ「きみは帰る場所」(Gothic×Luck)を手がけています。今後、彼の提供曲がさらに増えて、新たな角度からシンガーの魅力を引き出してくれることに期待しています。また、今年の夏にアニメ化されたメディアミックス作品『Re:ステージ!』で、TVアニメの主題歌をはじめコンテンツ初期から楽曲提供をしている伊藤翼さんも注目のクリエイター。そのほかにも『ウルトラマンR/B』などの作品の主題歌や、雨宮天さん・内田雄馬さんらの楽曲も手がけている伊藤さんは、歌唱する声優やアニメに応じた様々なアプローチをみせてくれる、幅広い音楽性をもつ方です。
あと、個人的に注目したいのが、音楽集団・MONACAに所属している高橋邦幸さん。劇伴を手掛けることの多い方なのですが、今年秋クールに放送された『アサシンズプライド』のエンディングテーマ「異人たちの時間」が、非常に清らかで素晴らしい楽曲だったんです。勢いのあるボーカリストの楽曲を今以上に手がけるようになった際、どんな引き出しを見せてくれるのか非常に楽しみですね。
2020年以降のアニソンシーンの潮流
音楽評論家の冨田明宏さんとお話したなかでお聞きして共感したことなのですが、2009年に水樹奈々さんが『紅白』に初出場したことで彼女が「声優アーティスト」の到達点となったように、今度はLiSAさんが『紅白』に出演することで、彼女に憧れてアニソンアーティストを目指す人が増えてくるかもしれないな、と思っています。実は今、アニソンアーティストは不遇の時代だといわれています。というのも、アニソンアーティストの楽曲はアニメ自体がヒットしないと曲も注目を浴びしにくく、アーティストの存在も広まらないといった傾向があるんですよ。それもあって、現状では「シンガー」専業としてアニソンを歌う方への注目度が、どうしても声優アーティストよりも低くなってしまっているように思うんです。そんななかでLiSAさんが『紅白』に出場されることで彼女に憧れる人が増えたら、今後アニソンシーンもより面白くなっていくように思います。
また、サブスクリプションサービスに関しても無視できなくなってくると思います。今年は水樹奈々さん・茅原実里さん・坂本真綾さんといった声優アーティストや、JAM Projectなどのアニソンシンガーが続々サブスク解禁したことが話題になりました。この流れに乗ってさらにサブスク解禁するアーティストが増えれば、新曲の配信もより戦略的になってくるのではないでしょうか。たとえば、CDの発売を待たずにアニメの初回オンエアとともに主題歌をフルサイズで配信し、即時的に評判を広げていく……というような戦略も、今後はさらに活発になってくるかもしれません。
(取材・文=北村奈都樹)