ヒプノシスマイク、各地域ならではの音楽カルチャーを感じとれる楽曲群ーーオオサカ&ナゴヤ・ディビジョンから分析

 声のプロフェショナルである「声優」と、声を使った音楽表現・歌唱法の「ラップ」、そして少年マンガ的な熱い物語を織り成す「キャラクター」の要素を融合させ、音楽作品を原作にライブ・コミック・舞台・ゲームといったメディアミックス展開を行っている、男性声優によるキャラクターラッププロジェクト・ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-。「ディビジョン」と呼ばれる各地域を代表する3名のメンバーからなるチームが、それぞれの領土とプライドを賭けてMCバトルで競い合う、というストーリーがコンテンツの大枠としてあり、その各キャラクターを演じる声優が実際にラップを音源に吹き込んだりライブで披露するわけだが、本作の特徴はそこで生み出される楽曲のクオリティがとにかく高いこと。楽曲制作には、日本のヒップホップシーンで活躍するラッパーやクリエイターが多く関わっており、サウンドやリリックにヒップホップ好きの心をくすぐるネタを満載していることから、今や声優/2.5次元コンテンツのファンのみならず、あらゆるリスナーの心を掴む作品へと成長している。

 今年4月にシリーズ初のアルバム作品『Enter the Hypnosis Microphone』(このタイトルはもちろんウータン・クランの1stアルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』のオマージュだろう)を届け、オリコンウィークリーチャート初登場2位を獲得。同年9月には4thライブ『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 4th LIVE@オオサカ《Welcome to our Hood》』を大阪城ホールで2日間に渡って開催し、全国の映画館でライブビューイングも実施されるほどの盛況ぶりだった。その大阪公演において『ヒプノシスマイク』に新しく参戦することが発表されて話題となったのが、本稿で紹介するオオサカ・ディビジョンの「どついたれ本舗」とナゴヤ・ディビジョンの「Bad Ass Temple」の2組だ。

 『ヒプノシスマイク』には、それ以前からイケブクロ、ヨコハマ、シンジュク、シブヤの名前を冠したディビジョンが存在していたが、面白いのは彼らの音楽性が各地域ごとの実在するヒップホップシーンなり音楽カルチャーの特色を反映したものになっていることだ。例えばヨコハマ・ディビジョンのMAD TRIGGER CREWは、N.W.Aやスヌープ・ドッグらUS西海岸のギャングスタラップの流れを汲むウェッサイ系のサウンドを得意としているが、これは実際の横浜のヒップホップシーンにおいて同系統のサウンドが伝統的に人気であることと関係しているはず(日本語ラップにおけるウェストコーストサウンドの先駆者であるDS455は横浜を代表するグループとして知られる)。また、シンジュク・ディビジョンの麻天狼によるチーム曲「Shinjuku Style ~笑わすな~」はラッパ我リヤが提供したものだが、ここで聴かれるハードコアなスタイルに、新宿を拠点に活動するMSCおよび漢 a.k.a. GAMIらのスリリングなストリートライフを重ねる人も多いことだろう。

 そんなわけでオオサカとナゴヤの新ディビジョンは、どのようなサウンドを引っ提げて『ヒプノシスマイク』に殴り込んでくるのか、注目を集めていたわけだが、いざフタを開けてみたら、両雄ともまさにそれぞれの土地柄を盛り込んだ100%本気の楽曲に仕上がっていた。

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