小沢健二の「個」は普遍に至るか? imdkmの『So kakkoii 宇宙』評

小沢健二『So kakkoii 宇宙』

 小沢健二による13年ぶりのアルバム『So kakkoii 宇宙』を今年きっての話題作と呼ぶことに異論はあるまい。その評価についてはさておいて、とりあえず作品に耳を傾けてみる。再生してまず耳を捉えるのは、リード曲「彗星」の、ホーンセクションやストリングスを従えた多幸的でゴージャスなアレンジだ。アレンジのバラエティも含めて、多くの人が『LIFE』を引き合いにだしたくなる気持ちはわかる。

「彗星」

 面白いのは、16ビートの軽快なグルーヴを軸にしながらも、歌にしたがって変則的に伸び縮みする小節。ポップミュージックの常道として、4の倍数に相当する小節数で展開する、という暗黙のルールがある。それをあえて逸脱することによってリスナーの注意を惹く工夫は珍しいわけではなく、オザケンだってよくやってきた。例はいろいろあるけれど、わかりやすいものでは、「強い気持ち・強い愛」はAメロが7小節単位で反復する。

「強い気持ち・強い愛」

 としても、本作は妙な逸脱がとかく多い。楽器の編成から見ても「強い気持ち・強い愛」を彷彿とさせる「彗星」は、Aメロが7小節単位で構成上も「強い気持ち・強い愛」を踏襲しているかのよう。しかし加えてこの曲、サビは3小節単位で進む。「流動体について」も改めて聴くと小節のグルーピングが妙で、Aメロは4小節、3小節、2小節、4小節という具合にフレーズが分かれている。6/8拍子を軸に4/4拍子がところどころクロスする「いちごが染まる」はリズムのニュアンスの変化がここちよい一曲だが、ここでも4小節、5小節、4小節の変則的なグルーピングが登場する(しかもそれが反復する)。

「流動体について」
「いちごが染まる」

 一呼吸おいてもよさそうなところで、たたみかけるように次のフレーズが登場する。このように余剰や不足、先走りを抱え込みながら突き抜けていく歌がR&Bやソウル的なアレンジと組み合わさることで、奇妙な瑞々しさを放っているのが印象的だ。定型の力をこれでもかと振り切り、とても濃厚な「個」が際立つアルバムとなっている。Adobe Illustratorで自らデザインしたというアートワークにも、オザケンの「個」がみなぎっている。

 そう考えると、いかにもオザケンでござい、といった『LIFE』期ふうのポップスよりも、「失敗がいっぱい」や「シナモン(都市と家庭)」のような、親密さを濃厚に漂わせたマシンファンクこそしっくりくる。また、「彗星」で称えられるような、世代を越えてなお暮らしに脈々と生き続けるクリエイティビティには、『Eclectic』のハイファイさやアーバン志向とも異なる、簡素だが繊細に組み上げられたこれらのベッドルーム的なビートこそ、ふさわしいだろう。

「失敗がいっぱい」
「シナモン(都市と家庭)」

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