カニエ・ウエスト、Gang Starr、ダベイビー……ヒップホップシーンをさらにかき回すアルバム5選

DaBaby『KIRK』

Da Baby『KIRK』

 今年の顔となるラッパーを選べと言われたら、ダベイビーの名前を挙げる方も多いのではないでしょうか。今年の3月に発表したデビューアルバム『Baby On Baby』がヒットとなり、特にシングル「Suge」はネット上でも大きくバズり、プラチナムシングルに。彼の楽曲を多く手がけるプロデューサー、ジェットソンメイドの手腕も手伝って、瞬く間に旬のフロウを作り出したのでした。「Suge」のヒット後、たった数カ月の間にチャンス・ザ・ラッパーやYG、J.コールやミーガン・ジー・スターリオン、リゾにリル・ナズ・Xらと数多くのコラボ作品も発表し、前作から6カ月という驚異の短スパンで2枚目のオリジナルアルバムをリリースするに至ったのでした。今回も、やはり軸になるのはとことんベースを効かせたサウンドと、ファニーかつストリートマナーを兼ね備えたダベイビーのフロウです。「BOP」はアップデート版「Suge」とでも言いたくなるようなパンチのある1曲。ニッキー・ミナージュとの「iPHONE」やミーゴスとの「RAW S**T」とはゲストとの良バランスを見せつけるような楽曲です。そして、ダベイビーの活動初期から彼のバックグラウンドに根差く信仰心を表現した「GOSPEL」にはチャンス・ザ・ラッパー、グッチ・メイン、そして注目の新鋭シンガーであるYKオシリスが参加。今回も勢いある内容で、前作同様あっという間にアルバムが終了します(前作は31分、今作は35分)。今年のトレンドを語る上で絶対に外せない作品であることは間違いありません。

Youngboy Never Broke Again『AI YoungBoy 2』

Youngboy Never Broke Again『AI Youngboy』

 1999年、ルイジアナ州のバトン・ルージュに生まれたヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン。NBAヤングボーイの名でも知られる新人ラッパーですが、保護観察期間中の違反行為によって3カ月間収監されており、釈放後初の作品として『AI YoungBoy 2』がリリースされました。まさに最近の若者! という感じですが、彼のファンベースは基本的にSNS〜ネット上にあります。2019年10月11日にリリースされた本作は、なんとビルボードの“総合アルバムチャート”で1位を獲得しました。ニールセンが発表した数字によると、本作は発売初週で11万枚相当のセールスを記録。うち、アルバムとしてカウントされたのはわずか3,000枚分で、他はすべてストリーミング再生でカウントされた数字によるものとのことでした。ということは、『AI YoungBoy 2』をチャート首位まで押し上げたのは、ストリーミングで単曲再生された楽曲が作り上げた数字が主ということになります。今作は初週1億4500万回の再生回数を記録したとのこと。ちなみにカニエ・ウエストの『Jesus Is King』は約1億9700万回の再生回数だったとのことです。両者のキャリアを世界的な知名度を考慮すると、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインがストリーミングで築き上げた数字はなかなかのものではないでしょうか。

 しかもこのアルバム、ワーナー傘下ではありますが自身のインディレーベルからのリリースで、特に目立ったプロモーションもしておらず、大物ゲストが多数参加しているわけでもありません。唯一、Quando Rondoとノーキャップという同世代ラッパー2名がフィーチャーされています。彼が支持されている理由の1つは、なんと言っても生々しいリリックにあります。本作でもそのキレ味は抜群。そして何より、SNSやYouTubeで培ってきたファンベースのデカさを再度実感させられるアルバムでした。加えて、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインは現在、ジュース・ワールドの新曲「Bandit」にフィーチャーされており、こちらもチャート急上昇中。ますます人気が加速していくのではないでしょうか。

Guapdad 4000『Dior Deposits』

Guapdad 4000『Dior Deposits』

 聞き慣れないラッパーかもしれませんが、個人的にリリース日以来ヘビロテしているのが、カリフォルニアはオークランド出身のラッパー、グワップダッド4000のデビューアルバム『Dior Deposits』です。フィリピンとアフリカンアメリカンとのミックスとのことで、カンボジアやマニラにも親戚が住んでいるとのこと。彼が応えているインタビューなどを見るとアジア人としてのカルチャーにも自覚的で、そういった意味でも応援したくなるアーティストです。今年リリースされたJ.コールによる一大レーベルプロジェクト『Revenge of the Dreamers III』にも参加しており、そこで彼の名前を知った方も多いと思います。約3年かけて仕上げたというこのアルバムは、その甲斐あってか御大のE-40の他、モジーら同じ地元の注目アーティストらも参加。「Izayah」にはアトランタのキー、ヒューストンのマクソ・クリーム、そしてマイアミのデンゼル・カリーといった個性の強いラッパーらが集結し、ユニークなマイクパスを聴かせてくれます。そして、グワップダッドが最も得意とするのは、シンガーとのナイスなケミストリーを生み出すことではないでしょうか。リード曲としても知られる「Gucci Pajamas」ではソウル界のレジェンド、チャーリー・ウィルソンをフィーチャーし、さらにはチャンス・ザ・ラッパーまでもが参加するという濃厚な一曲。官能的かつどこかドリーミーな魅力もあるミッドチューンで、新人とは思えぬ完成度の高さ! トーリー・レインズとの「Stuck With It」も何度もリピートしてしまう良曲。すでに次作も制作中であり、なんとスヌープ・ドッグやアンダーソン・パークらも参加する予定だとか。さらにはあのドレイクも注目する存在ということもあり、今後のヒップホップシーンに新たなスパイスを加えてくれそうなアーティストです。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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