ブルーフェイス、YBN・コーデイ……渡辺志保が選ぶ、2019年ブレイク候補ラッパーの新譜6選
こんにちは。今回は、2019年にブレイクしそうな注目のラッパーたちを紹介したいと思います。
まず、まさに今、絶賛大ブレイク中なのはブルーフェイス。現在、シングル「Thotiana」(日本語の発音は“ソティアナ”が一番近いかなと思います。thotは“軽い女”という意味のスラングなので、むやみに使用なさいませんよう)が全米でじわじわとバイラルヒットを記録し、現在、ビルボードの総合チャート20位まで上り詰めています。ブルーフェイスはウエスト・ロサンゼルス生まれのラッパー。193cmという長身を活かして、もともと大学のフットボールチームでクォーターバックを務めていました。2017年頃から音楽スタジオに入るようになり、2018年6月にデビューミックステープ『Famous Cryp』をリリース。オフビートと呼ばれる、わざとビートにズレるようなフロウでラップする独特なラップスタイルを披露する彼のラップ動画がネットで拡散され、2018年11月にはあのリル・ウェインらを輩出した名門老舗レーベル、<Cash Money Records>の支部である<Cash Money West>と契約。2019年になってからも彼の勢いはさらに加速し、西海岸コンプトンの人気ラッパー、YGを招いた「Thotiana Remix feat. YG」を発表すると、先日はさらにカーディ・Bを迎えた「Thotiana Remix feat. Cardi B」というバージョンも発表。カーディといえば、2月10日に開催されたグラミー賞にて年間最優秀ラップアルバム賞を受賞したばかり。女性のソロラッパーとしては初となる快挙です。そんなベストタイミングでカーディを召喚したブルーフェイスは、まさに今、最もバズっているラッパーと言えるでしょう。現在、SNSを中心に「Thotiana」の楽曲を用いた「#ThotianaChallange」が目下大流行中ですので、皆様もぜひ参加してみては。ブルーフェイスのバズ、どこまで続くのかとても楽しみです。YGの他にも、西海岸の大物先輩ラッパーたちとのコラボなども期待できそう。
西海岸の大物といえば、あのドクター・ドレーも「こいつはヤバい!」と太鼓判を押した若手ラッパーが、YBN・コーデイ。コーデイはノース・カロライナ生まれですが、ラッパーとしてのキャリアにより集中するため、現在はロサンゼルスを拠点にしている若手ラッパーです。YBN・ナミアー、YBN・オールマイティー・ジェイと行ったメンバーで構成されるYBNコレクティブの一人。YBNからは、一足先にYBN・ナミアーが「Rubbin Off the Paint」や「Bounce Out With That」といったシングルヒットを放っており、昨年YBNメンバー勢揃いして発表した『YBN: The Mixtape』も肉厚なベースが特徴的なサウンドと、それぞれの個性的なフロウが炸裂する好盤でした。そして、このコーデイですが、YBNきってのリリシストとも言われています。小さい頃から、父親が好んで聴いていたジェイ・Zやナズ、ラキムにクール・G・ラップらの曲に親しんでいたそう。昨年9月にはコモンとラプソディーという、現シーンを代表するリリシスト、そしてアクティビストとしても知られる大先輩2名に並んで『Young, Gifted and Black』と題されたトークセッションにも参加しています。ちなみにこのセッションに参加したラッパーはこの3名のみで、いかにコーデイが次世代にとっての代弁者として注目されているかが伝わってきます。J・コールが若手ラッパーたちに苦言を呈した「1985」へのアンサー曲として発表された「Old N****s」という楽曲でも「そもそもヒップホップが誕生した時も、おっさん達はダサくて理解できないと言ったはず。でもそれが今じゃ、最も聴かれている音楽ジャンルまでに成長した。最近じゃ俺のアイドルだった人たちが性暴力などで逮捕されちまってる。カニエ・ウエストやR・ケリーはどうなんだ? 俺が信じられるのは、神とモス・デフ、そしてタリブ・クウェリだけ」と、同世代を代表して力強くラップします。すでにドクター・ドレーやアンダーソン・パーク、H.E.R.といったミュージシャンとも一緒にスタジオに入った経験もあるそう。2019年に入ってからは、1月末に新曲「Locationship」をリリース。楽曲の中ではジェイ・Zの名曲「Girls, Girls, Girls」の一節を引用しながら、スマートに(?)女性を誘います。
次に紹介したいのは、NYを拠点とするサットモース。彼のMC名は“Thutmose”と表記するのですが、これは古代エジプトのファラオであるトトメスに由来する名前なので、もしかしたら“トトメス”、と表記する方が正しいのかもしれません。ただ、発音により近いのは「サットモース」となります。私が彼の名前を知ったのは、昨年10月に発表されたデビュー作『Man On Fire』がきっかけでした。このアルバム、「ナイジェリアから引っ越してきたウマーくんです。みんな、ウマー君に挨拶できるかな?」という、先生が生徒に呼びかける教室のワンシーンからスタートします。このイントロの通り、サットモースはナイジェリアの首都ラゴスからの移民。彼が8歳の時、家族とともにニューヨークのブルックリンに越してきました。しかしその数カ月後、彼の家にSWATがやって来て、サットモースの父親に銃を向けるという出来事に見舞われたそう。『Man On Fire』の終盤には、その当時の出来事を再現するかのようなインタルード「SWAT」が収録されており、その後、なんとエリカ・バドゥのポエトリーリーディングから幕を明ける印象的な一曲「Pressure」が続きます。先日も、不法滞在の容疑にかけられて人気ラッパーの21サヴェージが逮捕され、その後釈放されるという出来事があったばかり。『Man On Fire』を聴いて、若いながら自身のバックグラウンドをこうして作品に落とし込むことのできるサットモースの才能に驚いた次第です。本作には、他にもデザイナーやジェイ・クリッチといったブルックリンの新鋭MCらが参加。そして、兼ねてからGユニットやテラー・スクワッドら、ニューヨークの王道ヒップホップサウンドを多く手がけてきたベテランプロデューサーのスコット・ストーチ(!)も参加しており、今後も幅広くファンを獲得していきそうな予感。プラス、彼は話題を集めている『スパイダーマン:スパイダーバース』のサウンドトラックにもフィーチャーされています。
さて、次は注目の女性ラッパーを数組紹介したいと思います。まずは、メリー。ハーレム出身で、父親はフランスとキューバの血を引き、母親はドミニカにルーツを持つという、南米に深いルーツのある彼女。去年スマッシュヒットを記録したシングル「Icey」では、英語とスペイン語を交えたリリックを披露しています。2017年にYouTubeにアップしたカーディ・B「Bodak Yellow」のカバーでは、歌うようなフロウが印象的。現在21歳の彼女ですが、すでにユニバーサル傘下である大手レーベルの<Interscope Records>と契約を獲得済み。あのリアーナも前述した「Icey」をInstagramにポストしたり、ミーク・ミルのアルバム『Championship』にフィーチャーされたりするなど、着実にバズを作り出しています。最近出演していたニューヨークの人気ヒップホップラジオ局「HOT97」に出演した際に、過去に経験したマネージャーとの辛い経験や、若い女性アーティストであるがゆえに陥ってしまいがちな業界のダークな局面についても赤裸々に話している姿(途中、感情的になって泣き出してしまう場面も)がとても印象的でした。最新楽曲「HML」は、ニューヨークはブロンクス出身の人気ラッパーであるア・ブギー・ウィット・ダ・フーディをゲストに迎えたレゲトンチューン。ここではスムーズでキュートなメリーのボーカルが存分に味わえます。