シングル『ZETSUBOU FUNK』インタビュー
buzz★Vibesが目指す、自由なユニット像「オンラインサロンのような空間でありたい」
絶望した時にこそ回りを見たほうが、救いの扉を見つけられる
ーー「ZETSUBOU FUNK」の作詞は、森久保さんが担当。普通は絶望と言うと、肩を落として落ち込んでいる様子が浮かぶけど、それをあえて明るく笑い飛ばしているような雰囲気だと思いました
森久保:『カフカの東京絶望日記』というドラマのテーマが、まさしくそういうものなんです。小説家のフランツ・カフカが、現代の日本社会で生活していくなかで、たくさんの理不尽や絶望を感じ、最終的には爆発するんだけど、それによってみんなが何かに気づいて、ちゃんと生きようとし始める。簡単に言うと、そういうことの繰り返しのお話です。絶望した人を見て自分に気づくというところが、すごく面白いと思って。シニカルだけど描き方はポップだし、シュールさもあって。それをうまく曲として表現できないかと思いました。曲が圧倒的にファンキーで明るいので、言葉はあえてそれに反したものを乗せたら、ドラマの世界観に近くなるんじゃないかとも思って。
ーー〈アイデンティティが無いデンティティ〉など、言葉遊びも面白いですね。
森久保:それは、ドラマのセリフにも出てくるんです。4話分くらい見て、気になった言葉を全部拾っていって作詞に反映させました。そのぶん作品に寄り添ったものになったと思います。
Shinnosuke:歌詞のセンスがすごいよね。これが森久保くんの声でメロディに乗るから、余計にキャッチーなものになるんです。
ーーそしてカップリング曲「Earth goes round」は、とてもメロウなバラードソング。
森久保:イメージとして、シネイド・オコナーの「Nothing Compares 2 U」というプリンスが書いた曲があって、そういう隙間のあるゆったりしたサウンドの中でフレーズを繰り返していくような、シンプルなものはどうだろうかと話した覚えがありますね。
Shinnosuke:でもCDのバージョンじゃないからね、という話をしたんじゃなかったかな。同じ曲でプリンスのバージョンがあるんです。それで、ライブでピアノがすごくいいバージョンあって、それにインスパイアされて作りました。
森久保:でも最初は、もっとトラックが壮大だったんじゃない? それで、デモから構成を2〜3度変えていって。途中でGuns N’ Rosesの「November Rain」みたいに最後が盛り上がっていく展開を付けたけど、それもしっくりこなくて。最終的に宇宙っぽい世界観だったものから、キャンプファイヤーを囲んでアコースティック演奏をしているくらいの世界観に、落とし込もうということになって。弦も16本くらいあったものをカルテットに減らして、どんどん引き算していってできたがこの曲です。
ーー歌詞がRUCCAさん。森久保さんは、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズのキャラクターソングで、RUCCAさんとはお馴染みですね。
森久保:最初は僕が書こうと思っていたんだけど、オケの方向性が定まるまでにけっこう時間がかかってしまったので。それで、RUCCAさんならいろんなジャンルを書いているし、合うんじゃないかと思ったんです。
Shinnosuke:森久保くんから、俯瞰で別の方が歌ったものを客観的に歌いたいというコンセプトが提示されていて、ウルトラ寿司ふぁいやーとコラボするのと同じ感覚で、作詞家さんを外から招くのもbuzz★Vibesとして面白いんじゃないかと。
ーーShinnosukeさんは、初めましてだったんですか?
Shinnosuke:僕は初対面だったんですけど、でも狭い業界なので共通の知人がいて。それにSOUL’d OUTのライブも観に来てくれていたらしくて、「え〜!」って。「先に言ってよ〜」って(笑)。
ーー〈星空〉という歌詞が出てくるのは、先ほど出てきたキャンプファイヤーというイメージにも通じていますね。
森久保:その世界観はがっつり伝えてありました。キャンプファイヤーをやっていて、パッと見上げると星空があって、気づいたら夜明けになっていく。そういう世界観の詞をお願いします、と。
ーー森久保さんのボーカルには、フェイクやニュアンスが細かく入っていますけど、それはレコーディングしながら相談して入れていくんですか?
森久保:そういう場合もあるし、デモから入っている場合もあるし。合間のコーラスは、この曲でもウルトラ寿司ふぁいやーのボーカル2人にコーラスアレンジを頼んで歌ってもらっています。コーラスワークというのは本当に重要で、楽器で引っ張ると壮大になり過ぎるから、コーラスやハーモニーで引っ張っていきたいと思っていたんです。デモで入っていたフェイクやコーラス以外のところで、いっぱいアイデアをもらいました。オケが定まった時は、ウルトラ寿司ふぁいやーとやって本当に良かったと思いました。
Shinnosuke:アウトロに森久保くんのフェイクが出てくるんですけど、そこは森久保くんのアドリブです。僕がガイドで入れていたものとはまったく違うんですけど、やっぱり自分の内側から出たもののほうが自然でいいなと思いましたね。Dメロは全部ファルセットのつもりで作っていたんですけど、本番ではところどころ地声で強く歌ってくれていて、それがすごく良くてこの曲の聴きどころです。実は新しい曲もすでに作っているんですけど、その曲も地声のハリとツヤのある声で、パーンと歌ってくれていて。森久保くんの声は唯一無二なので、インスピレーションを受けるし毎回作りがいがあります。
ーーちなみに「ZETSUBOU FUNK」という曲名にかけて……最近何か絶望した経験はありますか?
森久保:小さい絶望は、覚えていないくらい日々たくさんありますよ。でも面白いもので、揺り戻しじゃないけど、絶望したその先には必ず希望が見えるんです。捨てる神あれば拾う神あり。今回の「ZETSUBOU FUNK」が生まれたのも、まさしくそれでした。実は、2019年はこうしたいというbuzz★Vibesとしての予定があったんですけど、それが思いがけず頓挫してしまって、その時はまさしく絶望の淵に立たされた気持ちでした。そんな時に降って沸いてきたのが、今回のタイアップの話です。それに、前を向いて新しいことを見つけようとしてYouTubeを見ていたからこそ、ウルトラ寿司ふぁいやーを見つけることができた。失ったものに固執して悩んでばかりで何もしていなかったら、きっと今回の諸々はなかったと思うんですね。他に何か面白いことがないかと、アイデアを探し続けていた結果だったと思います。キザな言い方だけど、足下ばかりを見ていたら、次の扉が開いたことに気づけない。絶望した時にこそ回りを見たほうが、救いの扉を見つけられるのかなと。
Shinnosuke:僕は先日、眼鏡をソファに置いたまま座ってしまって。眼鏡がバキバキに割れた時は絶望しました(笑)。
森久保:そういうやつ? 俺だけマジメに話して損した(笑)。
ーーいやいや、森久保さんの“捨てる神あれば拾う神あり論”は、すごく共感しました。時にbuzz★Vibesは、誰でも集まって自由に創作ができる遊び場にしたいとの意図で始まったとのことですが、今後はどんな場所にしていきたいですか?
森久保:buzz★Vibesが始まってから2年くらい経ちましたけど、それはbuzz★Vibesで何ができるかを模索していた2年でもあったわけで。もともと遊び場にしたかったし、ジャンルもあまり縛られすぎないようにと思っていて、でも聴けば「buzz★Vibesだね」と言ってもらえるものが作れてきたと思っています。じゃあそのbuzz★Vibesらしさは何かと言えば、ある種の“器”と言うか、オンラインサロンのような空間でありたいと思っています。buzz★Vibes, ZAQ名義でリリースした「One Time, One Meeting」、ウルトラ寿司ふぁいやーと制作した今作。今後はもっと他の人とも一緒にやりたいし、でもまた二人に戻ったときに、いろいろな経験がフィードバックされたらいいなと思っています。
Shinnosuke:特に今回は、僕自身一つのバンドと一緒に制作することが初めてだったから、すごく新鮮だったしいい経験になりました。フィーチャリングとは表記していないけど、フィーチャリング・ウルトラ寿司ふぁいやーと呼んでもいいくらいガッツリやらせてもらっています。今後も一緒にbuzz★Vibesを盛り上げてくれる人がいたらどんどん楽しみたいです!
(取材・文=榑林史章)
■リリース情報
『ZETSUBOU FUNK』
発売:2019年10月23日(水)
価格:¥1,800(税抜)
TVドラマ『カフカの東京絶望日記』オープニングテーマ