2nd Album『Fishing』インタビュー
chelmicoが語る、“好み”を追求した音楽作り「自分たちのスタイルが確立してきた」
「ラッパーだから」「シンガーだから」で括るのは面倒臭い
ーー今回は歌にも挑戦したと話していましたが、もともとMamikoさんにはメロディ作りの素養がありましたよね。それが開花し始めたなとアルバムを聴いて思いました。
Rachel:うん。それを積極的にやり始めた。
Mamiko:1回、『POWER』を作ったあと、ラッパーだからラップしなきゃいけないっていうことに、「ん?」って疑問を感じたことがあったんです。いろんな人のライブを観に行ったりしていて、「ラッパーだから」とか「シンガーだから」っていうので括るのは面倒臭いなと思い始めて。それでRachelにも「もっと音楽として自由にやろうよ」って話したことがあって。
ーー「EXIT」の2ヴァース目や「Balloon」の2ヴァース目、「switch」の2ヴァース目などで見せる、Mamikoさんのアンニュイでブルージーなフロウは抜群のアクセントになっていると思います。そして、それがRachelさんのシャキシャキした男前のラップと鮮やかなコントラストを生み出している。Mamikoさんが歌うことでRachelさんのラップも引き立つ……そんなchelmicoのスタイルが確立されてきたなと感じたんです。
Mamiko:それ、うれしいです! 自分たちのスタイルが確立してきたっていうのはアルバムを作ってて感じていました。
Rachel:差が出て良いよね。曲にメリハリがつく。
ーー曲調でも新しい分野にチャレンジしていますね。
Mamiko:最後の「Bye」はゴスペルっぽくしたいっていうことからクワイアを入れていて。実際クワイアの人たちのレコーディングに立ち会ったのも良い経験になりました。あと、8曲目の小袋(成彬)くんとやってる「12:37」っていう曲は、もうほぼほぼ歌ってる。しかも全部メロディは小袋くんが考えてくれたんです。それも新しい挑戦でした。
ーーそもそも小袋さんとの繋がりは?
Mamiko:小袋くんは結構前から友達なんです。
Rachel:私たちが活動を始めた頃、同じライブにTokyo Recordingsのメンバーが出演していて小袋くんも一緒に来ていて。ちょっと話したら波長が合う的な。
Mamiko:それでちょこちょこ飲んだりして遊んでて。で、こないだ、同じイベントに出る機会があって久しぶりに小袋くんに会ったんです。
ーー今、彼はロンドンを拠点にしていますよね。
Rachel:ロンドンに行く前。「久しぶり〜」とか言って、「飲もうよ」とか言ってたら「俺、イギリス行くんだよね」って。
Mamiko:「えー!? じゃあ、その前に1曲作ろっか」って。
Rachel:ずっと言ってくれてたからね。「chelmico、一緒に曲作ろうよ」って。
Mamiko:だから、そこからすぐ連絡を取り合って4曲くらいトラックをもらって。全部良かったんですけど、とりあえずコレを作りたいって返して。もともとのデモに小袋くんの声でメロディが入っていたから、そのまんまそこに言葉を当てはめていきました。
Rachel:フックも私たちが書いたものを元に言い回しをちょっと変えてくれて。フックを他の人が書くっていうのも今までなかったですね。
ーー曲名になっている「12:37」という数字は終電の時刻ですか?
Mamiko:正解です! すごい!
Rachel:初めてですよ、当てたのは!
Mamiko:これは下北沢から新宿までの終電です。小田急線。
Rachel:下北に住んでるカルチャー系の人をウチらが終電で呼び出すっていう。
ーーつまり、何をするでもなく仲間で集まってる夜中の徘徊ソング。
Mamiko:そうとも取れるし、悪いことしてるっちゃあしてるし。
Rachel:弄んでる的なね。そういうふうに思われても仕方がない歌だとも思う。
ーーその他に新しい取り組みをした曲はありますか?
Rachel:「BEER BEAR」も今までやってない作り方をやりました。これは架空のアニメーションをつくって、そのオープニングテーマっていう設定で書いたんです。
ーーなぜ、そういうアプローチを?
Mamiko:最初、Rachelが「アニメを作りたい」って言い出して。アニメのオープニングのタイアップが欲しい、欲しいって。
Rachel:二人ともアメリカのカートゥーンみたいなのが好きなんです。でもタイアップがないなら自分たちで作っちゃおうって。基本的に普段は自分たちの日記みたいな曲が多いですけど、「BEER BEAR」は完全にフィクション。そういう“物語”を書いたのは初めてだった。ただ、ちょっとお酒を交えた物語にしていて(笑)。
ーー二人はお酒好きだから、やっぱりそこは切り離せないんですね(笑)。アニメと聞くと子ども向けのイメージがあるけど、お酒が出てくるっていう。
Rachel:そこがカートゥーンな感じなんです。『サウスパーク』とか、ちょっとブラックな感じが入ってるのがやりたくて。
Mamiko:だから、実はこの曲、裏テーマがあるんです。
Rachel:BEER BEARは、本当は人間で、ブラック企業で働いてて、辛くなっちゃって、自分のことをクマだと思い込んでる男の人の話っていう。そこまで作り込んで書いていったんです。まだ発表していないけど、この曲に合わせたイラストも書いてもらっていて、本格的にアニメ化に向けて頑張ってます。ウチらの中では勝手に映画化まで狙ってます(笑)。
「Balloon」は“曖昧”がテーマ
ーー最近のシングル曲についても聞かせて下さい。7月に配信リリースした「Balloon」のテーマは何ですか?
Rachel:恋ですね。かなわない恋。かなわなかった恋。
ーーフラれた話?
Rachel:そこは難しいんですよねー。マミちゃんの歌詞で〈曖昧にしとくべきなのさ〉って言ってるから。
Mamiko:その微妙な関係がねー。お互いにそういう感じではあるけれども離れましょう、みたいな。
Rachel:離れる決断をしなきゃいけないときはあるからね。
Mamiko:だからポジティブな歌ではないですね。切ない。なかなか一言では言えない気持ち。曖昧。
Rachel:そう、曖昧。これは曖昧がテーマ。
ーー「Balloon」はトラックもちょっと曖昧というか、ふわっとしてますよね。
Rachel:トラックをくれたMikeneko Homelessのhironicaさんが「曖昧な曲を作りましょう」みたいなことを言ってて。hironicaさんって、そういうふうにメンタルな感じで話すんです。で、ウチらも「なんかじゃあ、曖昧な曲でいきましょう」みたいな。ニュアンスだけで会話してましたね、この曲に関しては。
ーーでも、お互いの言いたいことはなんとなく掴めてる。
Rachel:そう。「もっと曖昧にしてください」とか「もっとメロを曖昧にしましょう」とかそんな感じでした。「このギターの音、もうちょっと曖昧にできますか?」みたいな。どういうことなのかわからないけど、でもみんな通じ合ってるっていう。
ーーでも、「曖昧」って、chelmicoのチャームポイントのひとつだと思ってるんです。前作の「午後」もそうだし。
Mamiko:確かに。
Rachel:曖昧ですね、あの曲は。
ーー「午後」はchelmicoの裏名曲だと思っていて。曖昧だけど、でも確実にある時間帯のことを歌ってる。
Mamiko:そうなんですよ。すごい! わかってくれてる。
ーー今回のアルバムだと、「Navy Love」がその系譜にあたりますよね。
Mamiko:もうなんなんですか。嬉しい(笑)。まさに曖昧です。
Rachel:曖昧な曲、結構あるんだよね。
ーー今回の「ひみつ」も曖昧といえば曖昧ですしね。これは「敢えてはっきりさせないでおこう」っていう意味での曖昧ですが。
Rachel:「爽健美茶のラップ」も意外と曖昧だから(笑)。
Mamiko:あはは! それじゃ全部曖昧になっちゃう(笑)。
Rachel:けど、〈どっからが生活なんだっけ?〉とか曖昧っちゃあ曖昧だよ。
ーー曖昧な時間帯、曖昧な関係性、曖昧な感情。chelmicoは、そういう情緒を描くのがとても上手いと思うんです。
Rachel:「得意分野:曖昧」ですね。もしくは「音楽ジャンル:曖昧」で(笑)。
Mamiko:もうCDショップに「曖昧」っていう棚をつくって置いてもらおう(笑)。