『THA BLUE HERB』インタビュー
THA BLUE HERBは“やっと完成した”ーーラッパーとしての矜持から日本についてまで多角的に語る
THA BLUE HERBが7年ぶり、5枚目のフルアルバム『THA BLUE HERB』をリリースする。
結成20周年を経て辿り着いた本作は、2枚組全30曲、150分超という内容。フィーチャリングなし、完全自主制作の体制で作り上げた濃密な作品となっている。
ILL-BOSSTINOとO.N.Oの二人へのインタビューでは、新作をいくつかのテーマやモチーフにわけて解題することを試みた。サウンドメイキングについて、ラッパーとしての矜持について、シーンの移り変わりとヒップホップについて、日本という国について、バンドマンについて、市井に暮らす人々についてーー。
彼らが唯一無二な存在であることがこれまでよりさらに伝わるインタビューになったのではないかと思う。(柴 那典)
俺らがワンアンドオンリーって呼ばれてるのは結果論(ILL-BOSSTINO)
——ニューアルバムの制作はどういうきっかけから始まったんでしょうか?
ILL-BOSSTINO(以下、BOSS):2017年に20周年を迎えて、それまでの自分達の20年間にケリをつけて、その年の忘年会だったと思うんですけど、「じゃあ次、何する?」って話になって。次はアルバムだというのはわかっていたんですけど、「今までやっていないことは何だ」という話になったんです。そこで、今のタイミングだったらできるんじゃないかということで、じゃあ次は2枚組を作ろう、と。そこがスタート地点ですね。
——そうなんですね。曲が沢山あったから2枚組になったということではなく。
BOSS:違います。最初に2枚組を作ろうというところからのスタートでした。(自分たちの目標として)燃えるものがほしかったんじゃないかな。いいアルバムを作るのなんて当たり前だし、20年間自分たちなりのベストを尽くしてきて、47歳になってもう一回上がるんだったら、それなりのものを作らないとだめだという想いもあって。俺ら自身も夢中になりたいし、新しくて高いハードルを飛びたいと思ったんですよね。
——O.N.Oさんは、アルバムを作り始める時にはどんなイメージを持っていましたか。
O.N.O:やることは一緒だからね。20周年の野音(2017年10月29日『THA BLUE HERB 結成20周年ライブ』)が終わったぐらいから、本格的に作り始めた。ソロではテクノも作ったりしてるけど、ヒップホップはTHA BLUE HERBでしか作らないから。作るのは楽しいけど前を超えなきゃならない。毎回一緒ですよ。
——もうひとつO.N.Oさんにお伺いしたいんですが、ヒップホップのサウンドというのは、テクノロジーの進歩やトレンドの移り変わりもあって、日本でも海外でもいろんな風に変化していますよね。でも、THA BLUE HERBのサウンドにはO.N.O.さんのシグネチャーがあって、その上で少しずつ積み重なって進化しているような印象があるんです。このあたりはどうでしょうか?
O.N.O:THA BLUE HERBに曲を作るのではなくて、THA BLUE HERBを作ろうって思っているわけだから、トレンドで音がいろいろ変わってはいるのかもしれないけど、俺の作る音はやっぱりこうなるということだね。あとは、リリックのことを想定して作ってるからね。機材を扱ってビートを作るのは俺だけども、実際、二人のやり取りで曲を作っていくという作業だから。
——音と言葉が一体になったトラックメイキングになっている。
O.N.O:そう。曲を作るっていうのはTHA BLUE HERB二人の作業になるからね。
——同じことをBOSSさんにも聞ければと思います。いろんなヒップホップのトレンドの移り変わりがあるなかで、THA BLUE HERBはワンアンドオンリーであり続けている。そのことについてはどんな風に考えてますか?
BOSS:俺らがワンアンドオンリーって呼ばれてるのは結果論だね。あんまり考えてはいないよ。シンプルに格好いい曲を作ろうということだけ。もちろんリリックの内容は時代や年齢によって変わっていくけれど、それ以外の変化はないからね。今はいいラッパーが沢山いるし、格好いいなって刺激をもらったりするけど、それほどの影響は受けてはないね。聴く人たちは他の人と比較してTHA BLUE HERBは独自だっていう風に見えているのかもしれないけど、俺らは誰とも比較してやってないからね。
——逆に言うと、そうやってTHA BLUE HERBとしての確固たる個性を確立している一方で、今の話のように、若い世代のラッパーや今のシーンにも目を配っているわけですよね。そこはどういう感覚なんでしょうか?
BOSS:俺は普通にヒップホップのファンだからね。単に好きだから。若くてすごい人たちは沢山いるし、そういう人たちに負けたくないって今でも思ってる。同じラッパー同士として「こういうやり方もあるのか」とか「こういうトピックでこういうスタイルなのか」って思うこともあるし。どんどん新しいラッパーが出てくるから、やっぱり負けたくないし、俺が認めている人には俺のことも認めてほしい。そういうのはラッパーとしてのモチベーションになってるね。ただTHA BLUE HERBのグループとして言えば、ずっと二人でやってるから、いい曲を作ろうということだけ。