chelmico RachelとMamikoが作り出す、フリーダムでちょっと切ないダンスフロア

chelmicoのフリーダムなダンスフロア

 白いデニムのオーバーオール姿で渋谷PARCO前のシブカル祭ステージからデビューした2人がHIPHOPスタイルRespectのツナギに身を包み、恵比寿リキッドルームを超満員にしていた。2019年1月24日、『パティ黄門ツアー』ラストの夜は、フロアからはみ出しそうなほど大勢の観客で溢れ返っていた。

chelmico「Highlight」

 あんなにもMCの多いライブは見たことがない。仲の良い友達同士おしゃべりの延長のようなラップ。初期のライブでの「人間発電所」(BUDDHA BRAND)カバーの破茶滅茶な輝きも好きだったけれど、今はオリジナル曲だけで充分カッコ良くて、chelmicoだけのオンリーワンの世界。それは、恋人とのケンカ、強がって仲直りできない寝不足の朝、休日に作るカレー、海に落とした写ルンです。……誰かに用意された言葉じゃなく、彼女たちの生活から直接出てきた言葉に「本当の気持ち」が乗せられている。大仰なメッセージや伝えたいことなんか無くても、日々の感情が鮮度そのままに映し出される、写ルンですの日付入り写真のその1枚にしかないきらめき。

 U-zhaan作の5拍子曲「デート」は、聴いたことのないリズムで歌われるラップが新鮮で、最高に踊れる楽しい曲。「これU-zhaanさんに教わったやつ!」と言ってRachelが始めた複雑なリズムのクラップに、途中でついていけなくなって照れるDJ担当%C(パーシー:chelmicoの三人目のメンバーとも言われる)も可愛かった。

 ラップではクールな低音ボイスでバキバキにキメてくるMamikoは、度々挟まれるMCではホンワカゆったり、「やっぱ休みたいよねー。疲れちゃうもん!」と言ってすぐに座ろうとする。見た目はエレガントなマネキンのようなRachelも、質問コーナーでお客さんに「あんた、知ってる!」と声をかけたりする気さくな親しみやすさ。Rachelのことを知った『ミスiD 2014』(講談社主催のアイドルオーディション)で、彼女を含むファイナリストたちが、普通なら同じオーディションで戦うライバル同士ピリピリしそうだけれど、Rachelが「あの子カワイイ!好き!」と他の候補者のことをツイートしたり、Twitter上で他の候補者に話しかけたりして、その「女の子たちの関係性」に見ている側も盛り上がるという新しい戦い方を見せていた。それは全然嫌味なく、人懐っこいゴールデンレトリバーが「遊ぼうー!」と寄ってくるように自然で可愛らしかったことをよく憶えている。chelmicoがメジャーデビューし超人気者になっても、その人懐っこさは全く変わっていない。

 そんなまっすぐに美しい二人を見ていると、同じ大学にいる華やかで遊び慣れた雰囲気の女の子たちが眩しくて羨ましかった頃の気持ちが蘇ってきた。あんな風になれたらと願っても、鈍臭い自分はその世界に手が届かなくて、理想の女の子と現実の自分がかけ離れていることが悲しかった頃。少し胸の奥が痛んだ。

 でも、ステージの上の二人とその音楽が圧倒的にカッコイイので、只々踊ることが楽しくて、その痛みはすぐ消し飛んだ。「オシャレ/オシャレじゃない」のような他人の作った区分で悩むことは時間の無駄で、今この時間を全力で楽しんだ方がいいと、大人になった今の自分は割り切れる。割り切れなかった過去の切なさも、たまに飲むビールの苦味くらいに味わえるようになった。

 MamikoとRachelは、一人ひとりも美女だけれど、二人揃った時の美しさの掛け算が、二倍どころじゃなく何百倍にもパワーが上がって、最強のコンビ感が出る。ショートヘアにくりくりと大きな瞳のMamikoと、金髪にスラッと長身でスッキリ面長のアンドロジナスなRachel。漫画のように絶妙なバランスのビジュアルで、二人が並んで立っているだけで物語が見える。RachelがMamikoに近づきすぎて「近っ!」とツッコまれたり、ただ一緒にいるだけで楽しくて笑っちゃう空気感。元々友達同士で組んだユニットだからこそ、二人だけで喋っている時に生まれるグルーヴがそのままラップになっているのが心地良い。

 周りを見渡せば、観客もお洒落でキラキラして、見るからにクラブ大好き!踊るの大好き!な女の子・男の子たちばかりだった。みんな好き好きに踊ったり、飲んだり。「Mamiko超可愛い〜!」「Rachel超キレイなんだけど!」と女の子が歓声をあげてステージ上の二人に手を振る。今この瞬間鳴っている音が好きで、楽しくて、いつまでも笑っていたい。chelmicoのライブに集う人たちの「楽しむこと」への貪欲さはすごい。

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