6thアルバム『ジャズ』インタビュー
ドレスコーズ志磨、カルチャーへの興味の変化「時代や場所を限定しないポップスをやってみたい」
曲を書きはじめた14、5歳の頃に近い感じがあった
ーー『ジャズ』のサウンドはジプシー音楽をトレースしているだけではなくて、低音の処理を含め、すごく現代的な音作りになっていますよね。
志磨:そこはすごく気をつけました。梅津さんにアレンジしてもらうときもそうだし、エンジニアの奥田泰次さん(cero、Tempalay など)、マニピュレーターの荒木正比呂さんにも、「クラシカルなものではなくて、現代的な音像になるように録音したい」ということを最初に伝えて。ジプシー音楽、ロマ音楽はフォークロア、民族音楽だし、室内楽ではなくて、路上の音楽だと思うんですよ。何かしらの祭事で演奏されることが多いし、ボーカルも遠くまで聴こえるように発声しますけど、現代のポップスは真逆で、自分の部屋で壁に向かって歌っているような発声とアレンジなんですよね。ベッドルームで小さな声で歌って、それを静かに録音して、すぐにアップロードして。だから今回のレコーディング、僕もすごく小さい声で歌っているんです。電話と同じで、小さい声なんだけど、耳の近くで鳴ってるような。それが今の音楽なんじゃないかなと……まあ、自論ですけどね(笑)。
ーー確かにボーカルは小さめだし、キーも低いですよね。
志磨:熱唱することに違和感を覚えるようになったんですよね、ここ数年。10年前はライブハウスで「イエーイ!」ってやってたんですけど、いまは「イエーイじゃねえし。なんでこんなにキーが高いんやろ、僕の曲」って思うようになって。
ーー志磨さん自身の変化と今のポップスの潮流が合致していたのかも。「カーゴカルト」をはじめ、ポップスとして非常に優れた楽曲も収録されていて。
志磨:ありがとうございます。いまの僕らのフォークロアって何だろう? と考えたら、やっぱりポップスなんですよね。ひとりひとりが壁で仕切られているんだけどーー“一蘭”みたいなイメージですね(笑)ーー 俯瞰して見たら一つの民族、集団なわけじゃないですか。そのなかで伝承されている音楽といえば、それはポップスだなと。「骨格から考えて、縄文人はこういう声をしていたはず」みたいな研究があるじゃないですか。それと同じように100年後、200年後とかに、「この頃の音楽にはこういう特徴があって」みたいな対象にもなり得るような音楽を作りたいなと。
ーー実際、いまのJ-POPへの興味もあるんですか?
志磨:それはけっこう薄れてきてますね。自分で作るぶんにはおもしろいですけど、「この曲はいいな」と思う日本語のポップスは……まあ、あると言えばありますけど、僕が作るものとは乖離しているので。その距離はいままで以上にありますね、今回。プロモーションをたくさんやったので、ラジオにもいろいろ出たんですけど、そうするといま流行ってる曲も耳に入ってくるじゃないですか。それを聴くと、「自分が作ったものと全然違うな」って、どうしても距離を感じるんですよ。
ーー距離があっても別にいい、と?
志磨:ちょっとわからないですね、それは。梅津さんが「それがジャズなら、自分の音楽はジャズじゃなくていい」と思ったのと似ていて、「それがポップスなら、僕はもういいです」という気分もあるんですよ。そういうものは聴きたくないし、書きたくもないので。
ーーいまのJ-POPとは相容れないとしても、『ジャズ』は十分にポップなアルバムだと思います。ジプシー音楽の雰囲気って、理由を超えたところでグッと来るので。
志磨:そう、あれは不思議ですよね。あとね、今回のアルバムを作っていて、曲を書きはじめた14、5歳の頃に近い感じがあったんです。その頃はマイナーコードの曲ばっかり書いていて、メジャーコードの曲がぜんぜん書けなかったんですよ。「メジャーコードの曲も作れるようにならないと」と思って、自分にマイナー禁止令を出すくらい(笑)。あれからずいぶん経ちましたけど、久々にマイナーコードのメロディをたくさん書いたんですよね、今回。自分の手癖にも近いんですけど、それも不思議じゃないですか。何がルーツなんだろう? というか、このメロディはどこから来るんだろう? って。日本の昔の歌謡曲ともちょっと近いかもしれないですね。“ジプシー”とか“ボヘミアン”みたいな歌詞もけっこうあるし、タンゴ、フラメンコみたいなメロディって、もともと日本人が好きなものなので。そういう興味は尽きないし、研究しがいがありますね。
ーーアルバムリリース後の反応はどうですか?
志磨:酷評とかはなくて(笑)、おおむね良いみたいですね。ただ、ちょっと偉そうな言い方になりますけど、すぐには評価が定まらないと思ってるんですよ。50年くらい経ったときにどうなっているか? というつもりもあるので。前衛的なことはやってなくて、すぐにわかるポップスとして作ってるんだけど、いま理解してもらえるのは5合目くらいまでかなと。いますぐに楽しめつつ、それだけではないものもたくさん含まれてますからね、このアルバムは。
(取材・文=森朋之)
■リリース情報
『ジャズ』
発売:2019年5月1日(水)
<初回限定盤(CD+DVD)>
¥6,800(税抜)
<通常盤(CD+DVD)>
¥3,500(税抜)
[CD]全12曲収録 ※全形態共通
1. でっどえんど
2. ニューエラ
3. エリ・エリ・レマ・サバクタニ
4. チルってる
5. カーゴカルト
6. 銃・病原菌・鉄
7. もろびとほろびて
8. わらの犬
9. プロメテウスのばか
10. Bon Voyage(ドラマ「やじ×きた」主題歌)
11. クレイドル・ソング
12. 人間とジャズ
[DVD]「12月23日のドレスコーズ」LIVE映像収録
「12月23日のドレスコーズ」収録曲
1. 復活の日
2. この悪魔め
3. 人間不信
4. 或るGIRLの死
5. Lily
6. レモンツリー
7. a little song(ギターパンダ 提供曲)
8. おおハレルヤ
9. シスターマン
10. 宗教
11. JUBILEE
12. あなたには(舞台「三文オペラ」より)
13. 愛のテーマ
14. 1954
En.1 Bon Voyage
En.2愛に気をつけてね
En.3 クリスマス・グリーティング
<LP盤(初回限定生産)>
発売:2019年5月15日(水)
¥3,500(税抜)
LP2枚組
全12曲収録