LDHと88rising、なぜコラボ? PKCZ®「CUT IT UP feat. CL & AFROJACK」の意義を読む
アジアのユースカルチャーをヒップホップを中心としたグローバルなポップカルチャーに接続して躍進を続ける88rising。joji、Higher Brothers、Rich Brianら人気ミュージシャンたちの活躍はもちろん、Lexie LiuやNIKIといった新鋭ラッパー&シンガーのリリースが続くなか、ロサンゼルスでのフェスティバル『Head in the Clouds』の二度目となる開催がアナウンスされるなど、相変わらずの勢いを見せている。日本との関わりで言えば、今年1月に東京と大阪で開催された所属ミュージシャンを率いての来日公演も記憶に新しい。
そんな88risingから、EXILE MAKIDAI、VERBAL、DJ DARUMAによるLDH所属のユニットPKCZ®がシングルを6月4日にリリースした。PKCZ®は2014年に結成、音楽を中心にさまざまな分野を横断して活動するクリエイティブユニット。2018年にはSnoop Doggをフィーチャーした「BOW DOWN feat. CRAZYBOY from EXILE TRIBE」をダンスミュージックのSpinnin'傘下のTrap Cityよりリリースし世界デビューも果たしている。同作のMVを88risingが制作したことが布石となって、今回のリリースに繋がった。
この度リリースされた「CUT IT UP feat. CL & AFROJACK」は、BLACKPINKに先駆けるガールクラッシュ系K-POPアクト2NE1の元リーダーとしてカリスマ的人気を誇るラッパーCLに、EDMの大物DJでありLDHとの交流も深いAFROJACKが参加。スローでねばっこいムーンバートンのビートとオリエンタルなリフにのせ、CLとVERBALによる日韓英トリリンガルなラップが繰り広げられる。メロディアスな要素は少なく、いわゆる「サビ」にあたる部分にメリハリをつけるようなJ-POPマナーは排したストレートなダンスチューンだ。とはいえ、CLの特徴的なフロウで繰り返される〈Cut it, cut it, cut it...〉というフックが耳から離れないキャッチーさも持ち合わせている。(編注:iTunesのランキングでは、リリース日の6月4日時点で、フィリピンで3位、シンガポールで8位、ベトナムで9位を記録。MVは5日12時時点で20万回再生を突破するなど、早くもアジア諸国を中心に盛り上がりを見せている)
『キル・ビル』のいびつな日本像をあえて引用したMVは、現代ポップカルチャーに氾濫するアジアのイメージをユーモラスに逆手に取ってみせる88rising所属ミュージシャンのマナーを踏襲している。こうしたキッチュでケレン味の強い演出が成立するのは、CLとVERBALというキャラ立ちのはっきりしたスキルフルなラッパーの存在あってこそだろう。「奇妙なアジア」のイメージを背負ってなお、イメージ負けしない強さがある。
片やヒップホップなどのストリートカルチャーの素養を強みに世界へ挑む88risingに、片やダンスを軸としたエンタテインメントで日本を席巻し、日本のみならずアジアやヨーロッパ、アメリカのクリエイターともコネクションを築いてきたLDH。主なフィールドは違えど、アジアンカルチャーをグローバルな文脈へ押し上げようというゴールは共通している。また、日本の企業として88risingのスピード感と柔軟性に渡り合える存在といえば、フットワーク軽く多角的なコンテンツ事業を展開するLDHをおいてないだろう。クリエイティブな側面でも、ビジネスの側面でも、なるべくしてなったコラボレーションだ。