崎山蒼志、中村佳穂、長谷川白紙……新星SSWの新たな歌詞表現とは? 有識者3名の座談会【前編】

ボーカロイドから生まれた新たな表現方法

ヒラギノ:レーベルにいる友人の受け売りなんですが、今日本で最大級にでかい世代間の断絶が、須田景凪/バルーンを知っているかどうかなんじゃないかと思っています。「シャルル」は2017年リリースの曲としてはカラオケ(JOYSOUND)で一番多く歌われていて、特に10代に圧倒的な認知がある。米津玄師さんが「みんなが“ボカロっぽさ”っていうものはwowakaさんが作ったものなのではないか」とTwitterで言っていましたが(参照)、須田景凪さんの曲にはその“ボカロっぽさ”を強く感じています。音数も言葉数もめちゃめちゃに詰め込んでいて途切れない、といった作風。それに関して言うと、長谷川白紙さんにも共通している部分を感じる部分があります。

柴:特に今年、須田景凪さんやEveさんのように、ボカロカルチャーに出自のあるシンガーソングライターが新しいシーンを作っている状況がありますよね。ヒラギノさんがおっしゃったように、その源流にwowakaさんがいるのは間違いないと思います。よく言われるwowakaさんの特徴は高速のBPMと早口の符割りなんですけれど、もうひとつのポイントは四つ打ちで跳ねるビート。特にその“ボカロらしさ”を受け継いでいるのが須田景凪さんで、ブレイクするきっかけになった「シャルル」は、レゲトンやソカのビートのパターンを要素に用いつつ高速にしている。もともと彼はバンドでドラムをやっていた人なので、独自のリズムで曲を作ることを意識している人。それで、手応えがあった曲が「シャルル」だったそうなんです。

シャルル/バルーン(self cover)

ーーBPMを高速にさせたから言葉も詰め込むようになった?

柴:単位時間当たりの言葉数が多いですね。例えば同じことを言おうとしても英語の「I love you」より日本語の「私はあなたを愛しています」のほうが沢山の音韻を必要とする。だからテンポが速くなると言葉を詰め込むことになる。あと、日本語の音韻をうまく活用して、「っ」とか「ん」の音でリズムを跳ねさせていく。それで日本語ならではのリズム感を作り出している。その考え方を軸にどんどん音楽性を発展させていっている。たとえばEveさんの「ナンセンス文学」もそういうタイプの曲です。

鳴田:確かに言葉を詰め込んだ曲って増えていますよね。

柴: wowakaさんが亡くなった時に長谷川白紙さんがTwitterで言っていたのですが、初音ミクが音楽シーンに出てきたあと、wowakaさんが誰よりも先に機械のボーカリゼーションを自分の体で表現した、と(参照)。あと同時代で成し遂げているのが米津玄師さん。wowakaさんと米津さんっていうのはある種のライバルだったし親友だった。ボカロは初期はキャラクターソングとして認識されていましたが、自己表現のツールとして捉え直したことで音楽的な発明が生まれた。そういうボカロ以降の音楽性の発展があった。

wowaka 『アンノウン・マザーグース』feat. 初音ミク / wowaka - Unknown Mother-Goose (Official Video) ft. Hatsune Miku

ーー長谷川白紙さんや崎山蒼志さんなどといった新星シンガーソングライターは、なぜ去年から今年にかけて集中して音楽シーンに現れたのだと思いますか?

鳴田:私は去年から今年にかけて集まったとは思わなくて。自作自演のシンガーソングライターは、いつの時代にも必ずこれからもいるものだと思っていて。こういう表現をしている人たちは今までもいたし、絶対にこれからも続いていく。ただ、最近はメインストリームで活躍するアーティストたちが、グローバルトレンドの要素を取り入れたりして、日本と世界の境界線を飛び越えるような音楽を作って評価を得ている。一方で、日本人固有の表現ができるアーティストも同時に必要なものだから注目を浴びているのではないでしょうか。彼らの音楽は日本人でしかつくれない表現法だと思うんです。

柴:折坂悠太さんもそうですね。鳴田さんがおっしゃっているように、去年から今年にかけてガンガン出てきたというよりも、世の中の風向きが変わって注目が集まるようになったということだと思います。あと、もう一人重要なキーパーソンとして、七尾旅人さんがいると思います。この座談会で名前が挙がった崎山蒼志さん、長谷川白紙さん、君島大空さんのようなシンガーソングライターの日本語表現の系譜をたどっていくと、ひとつのルーツとして七尾旅人さんに行き着くのではないかと思っています。彼のデビューアルバム『雨に撃たえば...!disc2』やその後の作品は、いわゆるわかりやすい言葉で共感できるメッセージを伝えるシンガーソングライターのメインストリームに対して、一つのオルタナティブとなりうる日本語表現を開拓していた。フォークシンガー的な、日本語で自分自身の思いやメッセージを伝えるものというよりは、架空の情景と大きな物語世界を構築して、その語り部として歌っている。長谷川白紙さんや君島大空さんの日本語の使い方には、そういう系譜も感じ取れると思いますね。

(取材・文=北村奈都樹)

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