『あい』『し』『てる』インタビュー
GOMESSが明かす、『あい』『し』『てる』三部作完結編で挑んだ“ヒップホップ”の再定義
GOMESSのニューアルバム『てる』は、2014年の『あい』、2015年の『し』に続く三部作の完結編だ。しかし、これまでの流れをただ踏襲しているわけではなく、DJ BAKU、O.N.O(THA BLUE HERB)といったヒップホップの大物や、の子(神聖かまってちゃん)のようなロック畑のミュージシャンまで、豪華な顔ぶれをプロデューサーに迎えている。ただ、『てる』の核心はそこだけではない。GOMESSが今一度「ヒップホップ」の再定義に挑んだという野心作なのだ。GOMESSが見据える日本のヒップホップのリアルとはなんだろうか。話す言葉のすべてに熱く心地よいフロウがあるGOMESSに話を聞いた。(宗像明将)
『あい』『し』『てる』は僕の一番言われたい言葉だった
ーー改めて考えると、『あい』『し』『てる』ってストレートですよね。日本人的ではないぐらい。
GOMESS:そうですね。僕の一番言われたい言葉だったんです。ちっちゃい頃からすごい憧れていた言葉で。でも、なかなか言われることないじゃないですか。お母さんとかお父さん、お姉ちゃん、誰でもいいですけど、自分が好きだなって思う人に、その言葉をかけてほしかったっていう思いがずっとあって。
ーー今回『てる』を制作する過程で、クラウドファンディングも行われたじゃないですか。そこまでして豪華なプロデューサーを招いた理由はなんだったんでしょうか?
GOMESS:今までの作品は自分の見ている世界にあるものをかき集めて作っていて、予算もあんまりなかったから周りにいる仲間の協力があってなんとか形にできていたんですよ。でもそろそろ次の景色が見たいなって。今まだ見えてない世界の人たちと交流するためには何が必要なのかというとお金だったんですよね。
ーーまだ見たことがない世界に突っこんでいこうというモチベーションというのは、どこから湧いてきたんですか?
GOMESS:一番大きなきっかけは、 SEKAI NO OWARIの主催イベントに出させてもらってることだと思います。嬉しい気持ちの裏で、悔しい気持ちがいつもあります。ボーカルのFukaseくんが酔っぱらうと、「お前はどこまで行きたいんだ!早く来いよ!」と言ってくれるんです。もちろん「行きます!」って答えるんだけど、悔しいんです。足りないものが自分にはまだいっぱいあるってことがシンプルに悔しくて。自分をもっと研ぎ澄まして高めて、更に新しい世界を作りたい、もっと進化したいと強く思ってます。今もずっと。
ーーアルバムのタイトルですが、『あい』なら「愛」や「I」や「相」、『し』なら「死」や「詩」と、ダブルミーニングやトリプルミーニングがありました。『てる』だと「tell」や「照る」という言葉が浮かびます。自分の中で「てる」っていう言葉にかけたテーマは何でしたか?
GOMESS:『あい』と『し』のときは深読みできるようにはぐらかしてきたんですけど、『てる』はもうそういうの面倒くさいなと思ってきて。よくあるじゃないですか、「音楽は聴き手の自由だから」みたいな感じで余白を残すみたいな。そういうアーティシズムみたいなのが、最近なんだかうさんくさいなと思って、はっきり言ってこうと思って。『てる』は「何かしてる」、つまり「ing」ですね。
ーー余白は作らない?
GOMESS:うん、はっきり示そうと思いましたね。『てる』は全部自分のこと。『あい』し』てる』は自分の話ばっかりしてる。
ーーGOMESSさんの場合は「日本レコード大賞」で企画賞を獲ったじゃないですか(2015年、朝倉さやとのコラボ楽曲「RiverBoatSong」収録のアルバム『River Boat Song-FutureTrax-』)。そういう権威的な評価を得られた場面もあったのに、やっぱりヒップホップシーンで新しい人達とやるというのは冒険だと思います。
GOMESS:そうですね。特に中高ぐらいの一番人生がつらいなって思っていたタイミングに、一番勇気をもらってたのがヒップホップなんですよね。そのときに聴いていたアーティストを新しいアルバムには入れようというのが、まず第一にあって。DJ BAKUさん、Michitaさん、O.N.Oさんもそうなんです、当時は名義も違うけどDYES IWASAKIさんも聴いてた。あとは、俺はもともとゲームの作曲家になりたかったんです。小学生のときにDTMを始めて、架空のゲームBGMをいっぱい作っていて。今回1曲目(『I am lost』)のsoejima takumaさんは、僕の好きなゲームのサントラを作っている人なので、ゲームの体験会とか行って会って、それで曲ができあがった。僕にとって一番つらかった時期、夢もクソもねぇやって思ってた毎日のなかで、これだけはと好きに思えて、自分の心の癒しだったものを詰めこもうっていうのはテーマとしてありましたね。
ーー『あい』『し』『てる』の三部作って、聴いていて重い球だと思うんですよ。自閉症を含めて、GOMESSさんの抱えてきたものは、音楽活動をするなかで徐々に癒えるものでしょうか?
GOMESS:癒えていると思いますよ。でも、別に音楽活動は関係ないと思います、生きてたらみんな癒えるから。ただ、人生最悪の時に俺を救ってくれた音楽がヒップホップだったんですよ。ヒップホップは聴いてるだけで強くなれる気がした。この話はすごくしておきたかったんですけど、『てる』で一番大事なのは、「ヒップホップ」っていうテーマを抱えてることなんですね。
ーーずっとヒップホップをやってきたじゃないですか、GOMESSさんは。
GOMESS:今「ヒップホップとはなんぞや」っていうその定義をすることを、みんながしなくなってきてしまっている。確かにいろんな観点から見ることができるものだし難しいんですけどね。音楽に絞ってもスタイルも多様化してるからと定義を語ること自体微妙な感じになってて。例えばですけど、Run-D.M.C.とXXXTentacionを並べて聴いたときに「同じ音楽なの?」って俺は思うんですよね。全然違う音楽じゃんって。音楽性でヒップホップとは一言で言えなくなった。でも、みんながそれをわけずに「ヒップホップ」って呼び続けているのは、やっぱり理由があると思うんです。それは、ヒップホップっていうのは精神に近いところにあるからで。ギャングが、なぜ「仲間が死んだぜ」とか、そういう話ばっかりしてるかって言ったら、それが手本になるからだったりするんですよ。声をあげられずに仕方なく生きている人たちがいっぱいいて、だからその中で声を上げて「俺はこんな人生なんだ、こういう暴行を受けてきたし、こういう処遇を社会で受けてきた、マジでこのままでいいのかよ」って現状への警鐘を鳴らすのがヒップホップだと俺は思うんです。
「じゃあ日本のヒップホップはどこにあるの?」って考えたときに、精神病棟だと思ったんですよ。ダルクや児童相談所、あるいは家の中にもいるか。学校にも会社にも路上にも、傷ついた人がこの国にだっていっぱいいるんですよ。その中で誰かが声を出してリーダーにならなきゃいけない。外からじゃなくて内側のその中から。それがリアルを歌うヒップホップの理由だと思うんですよ。
ーーそういう話を踏まえて聴くと、1曲目の「I am lost」は、soejima takumaさんのプロデュースだけどいわゆる「ゲーム音楽」のイメージとはだいぶ違いますね。生まれてきて自分がなんでここにいるんだ、ぐらいの感覚から始まるじゃないですか。
GOMESS:僕はゲーム的だと思ってて。もともと「MOON」とか「MOTHER」とか、存在のあり方をテーマに織り込んでいるようなゲームが好きで、soejima takumaさんが音楽を作っている「あめのふるほし」とかもそういうニュアンスで。一曲の中でどんどんと物語が展開していくような楽曲にしたいとかなり細かくディスカッションしながらあの形にたどり着きました。