高田漣が語る、現代的なサウンドメイクがもたらした作品の変化「まだまだおもしろいことができる」

高田漣、現代的なサウンドメイクによる変化

 高田漣がニューアルバム『FRESH』をリリースした。『第59回日本レコード大賞』優秀アルバム賞を受賞した『ナイトライダーズ・ブルース』以来、約1年半ぶりとなる本作には、配信シングル「GAMES」「モノクローム・ガール」のほか、テレビ東京ドラマ24『フルーツ宅配便』のエンディングテーマとして超特急に書き下ろした「ソレイユ」のセルフカバー、はっぴいえんどの「はいからはくち」、細野晴臣の「最後の楽園」のカバーなども収録。ルーツミュージックと現代的なサウンドメイクが融合した充実の内容となった。ソングライティング、サウンドメイクを含め、ソロアーティストとして新たな地平を切り開いた本作について、高田自身に語ってもらった。(森朋之)

現代的な音と対峙したかった 

ーーニューアルバム『FRESH』は、ルーツミュージックに根差した楽曲を現代的なサウンドにアップデートさせた作品だと思います。何よりもポップに振り切っているのが素晴らしいなと。

高田漣(以下、高田):ありがとうございます。アルバムを聴いてくれた人から、「ビックリしました」と言われることも多いですね。前作とかなり印象が違うみたいで。

ーー漣さんのなかでは、もちろん前作『ナイトライダーズ・ブルース』とつながっているわけですよね?

高田:そうですね。前作で得られた充実感みたいなものをベースにして、今回のアルバムの制作に入ったので。前作よりもポップにしたいという考えもありましけど、それも前作で達成できたバンドサウンドに対する安心感がありつつ、さらにチャレンジしたいということなんです。『ナイトライダーズ・ブルース』の楽曲をライブで演奏するなかでアイデアが浮かぶこともありましたね。似たようなビートであっても、「もっと明るい感じの曲があったらいいな」とか「ファンキーなアレンジでやってみたい」とか。

ーーアルバムの起点になったのは、昨年8月にリリースさえた配信シングル「GAMES」だと思います。砂原良徳さんとのコラボレーションによる打ち込みのナンバーですが、この楽曲のインパクトがすごくて。

高田:「GAMES」は今回のアルバムのなかでいちばん最初にレコーディングした楽曲で、『ナイトライダーズ・ブルース』のプロモーションの時期にはできてたんです。デモの段階では人力ファンクに近いアレンジだったんですが、ライブではデモに近い感じで演奏しているんですよ。ドラムは打ち込みだったし、スタッフと話し合ってるなかで、「誰かにトラックを作ってもらうのはどうだろう?」というアイデアが出て、だったら“まりん(砂原)”さんにお願いしたいなと。2人でやりとりしているうちに、テンポも構成も変わって。共作したイメージが強いですね。

ーー砂原さんと漣さんのコラボレーション、めちゃくちゃ貴重だと思います。そういえばお二人とも、1月に放送されたYMOのドキュメンタリー(名盤ドキュメント『YMO“ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー”』NHK BSプレミアム)に出演されてましたね。

高田:はい(笑)。まりんさんのことは学生時代から一方的に知っていて、それこそ『カルトQ』で優勝したときも見てたし(マニアックなテーマに絞ったクイズ番組『カルトQ』のYMOの回に砂原が出場し、優勝)、電気グルーヴのメンバーとしてすごい人気で、「この人にはかなわない」と思って。シンセや打ち込みも好きなんですが、「こんなにすごい人がいるんだったら、違うことをやったほうがいい」と思って生楽器の演奏にシフトしたところもあるんですよ。いまでもヒップホップやEDMは聴くし、そういう音楽からの影響を受けているんですけどね。

ーー砂原さんと共作したことで、新たな発見もあったのでは?

高田:うん、すごくありました。楽曲のパーツをどんどん組み替えていくんですけど、それがすごくおもしろくて。それ以降の曲の作り方もだいぶ変わりましたね。「モノクローム・ガール」もそう。曲が何もない状態でMacの前に座って、ギターを弾きながら、思い付いたアイデアをパズルみたい組み合わせて作ったので。1曲を最初から最後まで通して作ると、どうしても従来のパターンにはまりがちなんですよ。まったく違う発想で作れたのは良かったかなと。「GAMES」が最初にできたことで、その後の曲の音色もそっちに寄せたところもありますね。たとえば「ロックンロール・フューチャー」はもともとイナたいロックンロールなんですけど、シンセを入れてみたり。そうしないと「GAMES」だけ浮いちゃいそうだったので(笑)。振り返ってみると、「GAMES」が最初の一手だったのは、アルバムにとっても重要でしたね。

ーー前作『ナイトライダーズ・ブルース』のインタビューでは、90年代のG.Love&Special Sauceを例に挙げて、ルーツに根差した新しい音を志向していたと言ってましたが、今回のアルバムの制作において、全体的なサウンドの方向性はあったんでしょうか?

高田:一昨年から去年にかけて聴いていた音楽の影響はあったかもしれないですね、ミシェル・ンデゲオチェロやアンダーソン・パークもそうですが、おもしろいなと感じるサウンドがけっこうあって。今回のアルバムも、現代的なサウンドにしたかったんです。特に低音とドラムの音なんですが、エンジニアにも「渋くし過ぎないでほしい」と言っていて。ルーツ色が前面に出過ぎないようにするというか……。いまは音楽の聴かれ方が変わって、昔みたいに“ロックはロック”“ヒップホップはヒップホップ”という感じではなくて、すべてが並列じゃないですか。僕の音楽もそのなかにあるわけで、リスナーの方に「高田漣のアルバム、音がしょぼいな」と思われるのはイヤだし、現代的な音と対峙したかったんです。

ーー『HOCHONO HOUSE』をリリースした細野晴臣さんも、ほとんど同じことを話してました。

高田:おもしろいですよね。『HOCHONO HOUSE』を作っていたとき、細野さんもかなり悩んでいたみたいで。話を聞くと、「現代的なサウンドの低音をどう表現したらいいか?」とか、僕と同じことを考えていたんです。細野さんだけではなくて、曽我部恵一さんが全編ラップのアルバム(『ヘブン』)を出したり、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)もいまの音を意識したアルバム(『ホームタウン』)を作って。みんなが同じような意識を持っているんだなと感じたし、僕が現代的な音を意識したのも自然な流れだったんだと思います。80年代にニューウェイブが登場して、当時のミュージシャンが対応したように、いまは音の転換期なんでしょうね。主にヘッドホンやイヤホンで聴く場合ですが。

ーー確かに『HOCHONO HOUSE』は『S・F・X』(1984年)と近似値だという指摘もあります。

高田:なるほど。細野さんが『HOCHONO HOUSE』を制作してた頃、バンドのメンバーと食事しているときに、みんなで意見を出し合ったことがあるんですよ。伊賀航くんが「『フィルハーモニー』(1982年)みたいに、打ち込みだけど生っぽい音はどうですか?」と言ったり、僕が「打ち込みだけじゃなくて、弾き語りがあってもいいんじゃないですか?」と言ったり、「昔の音源を使うのもおもしろそうですよね」とか。

ーーそのアイデア、『HOCHONO HOUSE』に全部採用されてますね。

高田:そうなんです。『HOSONO HOUSE』や『S・F・X』もそうですが、細野さんのアルバムはサウンドのトーンが統一されている作品が多いんですよ。でも、『HOCHONO HOUSE』は1曲1曲が違うし、かなりバラバラ。それがおもしろいんですよね。

ーー漣さんの『FRESH』も同じような傾向があるかも。現代的なサウンドメイクを軸にしながら、アレンジや演奏の質感は曲によってかなり違うので。

高田:どうしても1色にまとめられなかったんですよ(笑)。アルバム全体というより、1曲1曲を仕上げていったんですが、6割くらいできた時点で既にバラバラで。だったら、ひとつのフォーマットにまとめないで、大瀧詠一さんの『NIAGARA CALENDER』のようにぜんぜん違う曲をパッケージしようと。その後は「ジャズっぽい曲もほしい」という感じでピースを埋めていきました。

ーー本当にバラエティに富んでますよね。たとえば「ソレイユ」は、超特急に提供した楽曲のセルフカバーですが、超特急のバージョンはエレクトロ色が強めだったのに対し、漣さんのバージョンはペダルスティールが印象的な生のグルーヴになっていて。

高田:超特急のバージョンが打ち込みだったから、自分のアルバムにはバンドアレンジしたものを入れようと思って。ライターさんもそうだと思うけど、仕事ってなぜか重なるじゃないですか(笑)。僕もそうで、複数のプロジェクトが同時に動いていることが多いんですよ。劇伴を作った直後にアルバムの制作が始まったり、その逆だったり。一見ぜんぜん違う音楽であっても、どこかで相互作用しているんですよね、そういうときは。「ソレイユ」もそのひとつだと思います。あと、アルバムのレコーディングの前に細野さんの公演でロンドンとブライトンで演奏したことも大きくて。

ーー伊藤大地さん(Dr)、伊賀航さん(Ba)、野村卓史さん(Pf)。前作もそうですが、細野さんのサポートメンバーは、漣さんのレコーディングもそのまま参加してますからね。

高田:ええ。香港、台湾のライブもかなり達成感があったんですが、イギリスで演奏して、それが現地のリスナーに認められたのは大きな自信になったし、バンドの結束力もさらに強くなって。特にブライトンのライブは、YMOファン、古くから細野さんの音楽を聴いている人じゃないお客さんもたくさん来ていたんです。スケボーを持った若い兄ちゃんに「最高だった!」なんて言われると、ちゃんと伝わったんだなと実感できて。そのときに得たものは、『FRESH』にも影響していると思います。

ーーはっぴいえんどの「はいからはくち」のカバーにおける濃密なバンドグルーヴも印象的でした。「はいからはくち」は以前からカバーしてみたい曲だったんですか?

高田:もちろんそうなんですが、あまりにも定番の曲なので、ハードルが高かったんです。はっぴいえんどのいくつかあるバージョンのなかから選んで、そのままやることしか思い浮かばなくて。そのこととはまったく別で、昔から好きだったBeastie Boysの「Root Down」をひとりで完コピしようと思って(笑)、トラックを作ったんです。いいものができたから、「これを他のものに使えないかな」と考えて。「Root Down」は“足元を見る”“ルーツに戻る”という意味もあるので、自分のルーツである、はっぴいえんどのカバーに使ってみたら、すごく上手くいって。ふたつのルーツをミックスしたというか、「Root Down」のリズムを使って「はいからはくち」をカバーしたことが自分にとっては大きいんですよね。

ーーフリーキーなサックスのソロもぴったりですね。

高田:こういうビートに自由なサックスのソロが乗ってる曲が好きだったから、20代の頃にバンドを一緒にやっていたサックス奏者の福島幹夫くんに参加してもらって。DJみたいな感覚もありましたね。「Root Down」のトラックに別の歌やサックスを乗せるっていう。これまでずっとやってきた実験を歌モノとして形にできた手応えもあります。

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