アルバム『ナイトライダーズ・ブルース』インタビュー
高田漣が語る、ルーツミュージックとの向き合い方「舶来の音楽をどうやって日本語で表現するか」
高田漣が約4年ぶりとなるオリジナルアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』をリリースした。ギター、スティールギター、バンジョーなどとマルチ弦楽器奏者して知られ、細野晴臣、髙橋幸宏、森山直太朗をはじめ数多くのミュージシャンをサポートする一方、父・高田渡の遺伝子を受け継ぐシンガーソングライターとしても高い評価を得ている高田。伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)のリズムセクションのほか、ゲストミュージシャンとしてTIN PAN(細野晴臣/林立夫/鈴木茂)、長岡亮介、佐藤良成(ハンバートハンバート)などが参加した本作は、ブルース、カントリー、ソウル、フォーク、ブギウギなどのルーツミュージックを反映させつつ、豊かで生々しい日本の歌に昇華した充実作に仕上がっている。
今回のインタビューでは『ナイトライダーズ・ブルース』の制作を軸にしながら、細野晴臣から受けた影響、楽器演奏者/ソングライターとしてのこだわり、90年代と現在のシーンの共通点などについても語ってもらった。(森朋之)
フィジカルなものになるという予感もあった
ーールーツミュージックを取り入れたオーガニックなサウンドと、日本で暮らす人々の心に寄り添った歌。ニューアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』は高田漣さんの真骨頂と呼ぶべきアルバムだと思いますが、どんなテーマを持って制作に臨まれたのですか?
高田漣(以下、高田):作り始める前からあった漠然としたテーマと、制作の過程で出来てきた部分があるんですよね。制作前のことで言うと、父のトリビュートアルバム(高田渡の没後10年を機に制作された『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』/2015年)を作って、その後の2年近く、いろんなところでライブをやったことが大きくて。音楽的な体力、筋力が付いた感じがあったし、それがきっと今回のアルバムにも出るだろうなと思っていたんです。緻密に作り上げていく音楽というよりも、フィジカルなものになるという予感もあったので。
ーー確かにすごく生々しいサウンドになっていますよね。ブルース、ソウルといった音楽がしっかりと血肉化されているというか。
高田:それは自分だけのことではないんですよね。基本となるレコーディングメンバーは伊藤大地くん(Dr)と伊賀航くん(Ba)なんですが、僕を含めたこの3人は細野晴臣さんのライブにずっと参加していて。そのなかでバンドサウンドがどんどん向上してきたし、やりたいことも徐々にやれるようになってきたんです。だから今回のアルバムは、細野さんのゼミの中間報告みたいなところもありますね(笑)。
ーーなるほど。前提として、ルーツミュージックをどうやって自分たちの表現につなげていくかというテーマがあったと。
高田:そうですね。ロックンロールが生まれる以前のルーツミュージックを自分のなかで消化した結果が、このアルバムだとも言えるので。たとえば「Take It Away,Leon」はウエスタンスウィングというジャンルの有名な曲なんですけど、基本のリズムはブギウギなんです。それは細野さんのバンドでずっとやってきたし、大地くん、伊賀さんと一緒にやる意味があるなと。スタジオミュージシャンをお呼びしてもこういう感じにはならないと思うし、細野さんのバンドとして土台ができたことは確かでしょうね。あと、雑誌の連載などを通して、自分が好きだったルーツミュージックと向き合う機会もあったんですよね、ここ数年。そのなかで「こういう音楽を自分のものとして出したい」という欲も強くなってきたんだと思います。
ーーアルバムの収録曲は、前作(『アンサンブル』/2013年)以降に書いたものが中心ですか?
高田:「ラッシュアワー」はpupaをやっていた頃に原型を作ったんですけど、あとは今回のアルバムのために書き下ろした曲ですね。「こういう歌があったらおもしろいな」というアイデアもメモしていて。曲ができるたびに「この曲にはあのテーマ(詩)が合うかもな」という感じで組み合わせていったんです。「文違い」もそうですね。これは古典落語の演目なんですけど、その内容がLittle Featの『Dixie Chicken』に酷似していて。最初は「『Dixie Chicken』のメロディで“文違い”のことを歌ったらおもしろそうだな」と思ってたんですが、この曲(アルバムに収録されている「文違い」)ができて歌詞の内容を考えているときに、そのアイデアをこっちに持ってきて。
ーー歌を書くということに対してもいろいろなアイデアが浮かんでいたんですね。漣さんは演奏家としてのキャリアが先行していた印象がありますが、シンガーソングライターとしても明確な個性をお持ちだと思います。
高田:ありがとうございます。楽器について言えば、子供の頃からいろんな楽器が身近にあって、触って遊んだり、絵に描いたりしたんですよね。実際に弾き始めたのは中学生のときなんですが、雑誌に載っていたキース・リチャーズの佇まいがカッコ良くて「自分もエレキギターを弾いてみたい」と思ったのがきっかけなんです。そのときは歌いたいという気持ちはなくて、ギタリストという存在に憧れていて。しばらくそんな感じだったんですけど、何しろ父親の周りには強烈なシンガーソングライターが何人もいたから、「楽器を弾く=歌う」みたいな意識もあったんですよね。
ーーブルースやカントリーも基本的には歌ありきの音楽ですからね。
高田:そうですね。10代の頃から古いブルースの歌詞を読んだりして「こんなこと歌ってるんだ。おもしろいな」って思ったり。向こうの人たちにとってブルースやカントリーは、日本人にとっての演歌みたいなものだと思うんですよね。若い人はそんなに演歌を聴かないだろうけど、八代亜紀さんの歌は知ってたりするじゃないですか。
ーー確かにそうですね。
高田:今回のアルバムの歌詞に関して言うと、「舶来の音楽をどうやって日本語で表現するか?」ということを改めて考えたんです。音楽的にはマニアックな部分もあるし、リズムや音の組み合わせなども追求しているんですが、同時に日本語の歌詞にもすごく興味があるので。アルバムの制作中に美空ひばりさんの初期のジャズのレコードなどもよく聴いていたのですが、原曲の英語の韻を似たような響きの日本語に置き換えているんですよ。で、歌詞の内容はまったく違う。和製カントリー、和製ブギの歌詞もそうやって作られていたと思うし、そのやり方は自分の曲にも取り入れています。それこそ“はっぴいえんど”じゃないけど「どうすればこのリズムに日本語を乗せられるか?」ということですよね。
ーー外国の音楽に日本語の歌を乗せるというのが、日本のポップスの原点ですからね。美空ひばりさんのジャズはいま聴いても素晴らしいし。
高田:そうですよね。ちなみに「Ready To Go 〜涙の特急券〜」のイントロは、ひばりさんの「A列車で行こう」のアレンジを参考にしているんです。ドラムから始まるんですけど、列車のスピードが上がるみたいにリズムがどんどん速くなって。誰も指摘してくれないから自分で言ってますけど(笑)、他の曲にもいろんな引用があるんですよ。そこはもしかしかしたら、大瀧詠一イズムかもしれないですね。いろんな情報ソースがあって、それを混ぜていくというか。今回のアルバムはリズムも幅広いし、ブルース、ジャズ、セカンドライン、ソウルが共存していて。僕は大瀧さんほど理詰めではないし、もっと自然にやってる感じなんですけどね。
ーー音楽の知識を構築しているというよりも、演奏の肉体性のほうが前面に出ているというか。
高田:そうだと思います。レコーディングでもクリックを使っていないんですよ。簡単に顔を交換できない音楽というか、そのときにしかできない音楽をやりたいんですよね。ミュージシャンの体調や気持ちによっても演奏は変わるし、なるべくその熱量を逃したくなかったというか。全員で“せーの”で録るんですけど、そのほうが緊張感があっていいし、本番はほぼ1回しか演奏してないんです。サウンドチェックを兼ねて練習して、実際に録るのは1回だけというのが基本。歌以外は4日くらいで録り終わってますから。
ーーすごい。レコーディングのスタイルも昔のままなんですね。
高田:信頼できるミュージシャンばかりだし、みんな上手いですからね。好きな人たちに集まってもらってるから「楽しいに決まってる」と思ってたんだけど、やっぱり楽しかったです(笑)。