高田漣が語る、現代的なサウンドメイクがもたらした作品の変化「まだまだおもしろいことができる」

高田漣、現代的なサウンドメイクによる変化

アイデアを“演奏”で形にできるようになってきた

ーー歌詞に関してはどうですか? 前作では「現代におけるブルース」もテーマになっていましたが。

高田:今回はなるべく歌詞とメロディを同時に作ってましたね。それも“FRESH”さを大事にしたいということなんですけど、思い付いた歌詞とメロディをボイスレコーダーに入れて、その雰囲気を大事にしながら制作を進めて。以前はメロディを先に作って、アレンジの形が決まってから歌詞を書くことが多かったんですけど、それだとどうしてもお行儀よくなっちゃうんですよ。今回のアルバムは「いかに新鮮におもしろいことができるか」というのもテーマだったので、浮かんできたアイデアをなるべくそのまま活かしたくて。

ーーユニークな歌詞も多いですからね。1曲目の「寝モーショナル・レスキュー」なんて、“いつも眠い、ずっと眠い”と歌ってるだけっていう(笑)。

高田:そうですよね。思い付いた言葉をメモしていて、「寝モーショナル・レスキュー」もそのなかにあったフレーズなんです。あまりにくだらないけど(笑)、おもしろい言葉だし、これをもとに1曲作りたいなと思って。やり始めたらすぐにできちゃったんですけど、思いのほか、いろんな人から「自分のことかと思った」って言われるんですよ。編集者とか、新聞記者とか、細野さんとか(笑)。意図せず共感を呼ぶ歌になりました。

ーーみなさん眠いんですね(笑)。ミニマルファンクを取り入れた「ハロー・フジヤマ」は、“細野さんの香港公演を観に来たYO-KINGさん(真心ブラザーズ)が手ぶらだった”という出来事がもとになってるとか。

高田:はい(笑)。YO-KINGさんからはじまって、そこに銭湯の富士山のことを絡めようと思って、最後は“歌川広重が甲州街道を旅して、富士山を眺めて、香港まで辿り着いた”というお話になって。メロディと言葉、リズムのバランスも意識してました。他の曲もそうなんですが、言葉がきれいにリズムに乗る、スウィングするというのも一つのテーマだったので。じっくり練るのもいいけど、今回はフリースタイルに近いやり方だったと思います。

ーーかと思えば「セロファン」みたいにグッとくる切ない曲もあって。〈久しぶりに会った君 あいかわらず綺麗だね〉という冒頭のフレーズから物語に引き込まれる、素晴らしい曲だなと。

高田:「セロファン」が好きって言ってくれる人も多いんです。ばかばかしい歌もけっこうあるから、余計に沁みるのかも(笑)。この曲ができたときのことはすごく印象に残っていて。「こういう歌を作りたい」ってアイデアが浮かんで、ギターのパートも思い付いたんですが、すぐに仕事に行かなくちゃいけなくて、車に乗ったんです。その間もどんどん言葉が湧いてきて、ちょっと路肩に停めてはボイスレコーダーに録音して、仕事場に着くまでに7割くらいできていたんです。その頃はドラマ『フルーツ宅急便』の劇中音楽を制作していて、原作のマンガを読んでいたから、その世界観から紡いだところもありますね。

ーーもう1曲、7拍子を取り入れたジャズナンバー「ナナ」について。U-zhaanさんのタブラを含め、演奏者の技量がしっかり活かされた楽曲ですよね。

高田:「ナナ」はアルバム制作の最後の最後で思い付いて、急いでデモを作った曲で。リズムもかなり変化するし、テンポもチェンジもけっこうあるから、いきなり演奏するのは大変だろうなと思ってたんですが、バンドのメンバーが僕のやりたいことをきちんと理解して、素晴らしい演奏してくれて。伊賀くん、大地くんのリズムセクションは本当にすごいなと、スタジオで感動してました。

ーー速い4ビートとアナログシンセの組み合わせは、ブレインフィーダー(フライング・ロータス率いるレーベル)のアーティストからインスパイアされとか。

高田:ええ。ジェイムスズーなどもそうですが、ブレインフィーダーのアーティストからはかなり刺激を受けているので。特にサウンドのテクスチャーですよね。それに対しては自分も何か意思表示したいと思っていたし、「ナナ」でそれが形になったかなと。それもバンドのグルーヴがあってこそですけどね。メンバー全員、ライブも見据えながら録音してくれるんですよ。僕のソロ作品なのに、ライブのことも考えてくれるのはすごくありがたいし、僕もメンバーを想定して曲を作っていて。ひとりも欠かすことはできないし、替えの効かないメンバーですよね

ーーアンダーソン・パークやジェイムスズーもそうですが、音源では実験的なことをやりつつ、ライブはすごく肉体的で、演奏のクオリティも高くて。そこは漣さんもまったく同じだなと思います。

高田:ありがとうございます。そのことを意識したのは、90年代にBeastie Boysのライブを観たときなんですよ。打ち込みのトラックと3MCのスタイルも好きだったけど、Beastie Boysはバンドの演奏もすごくて。フィジカルなグルーヴがしっかり成立しているからこそ、サンプリングの音源を活かすことができるんですよね。それは現代も同じだし、だからこそ自分も「まだまだおもしろいことができる」とフレッシュな気持ちで制作に向き合えたんだと思います。やっぱり、フィジカルな演奏が大前提なんですよね。若いときからずっと生演奏を続けてきて、プロデュースや楽曲提供、劇伴などいろいろな経験を重ねてきて。ここにきてようやく、自分のアイデアをフィジカルな演奏を活かして形にできるようになってきたのかなと。以前はしっかり設計図を作ってから制作しないと不安だったんだけど、いまは「この人がくれば、いい演奏になる」と思えるし、ちょっとは余裕も出てきたので。

ーーやはりバンドメンバーの存在が大きいんですね。

高田:そうですね。伊賀くんも大地くんも僕も、“細野晴臣バンド”で相当鍛えられましたから。おそらくみなさんが想像しているよりも、基礎練習が多いんですよ、細野バンドは。たとえば“ドラムは深めのシャッフル、僕と細野さんはスクエアで、ベースはその中間”とか、リズムの組み合わせを試しながら、それをずっと演奏して。打ち込みで作るリズムのレイヤーをバンドでやってるというのかな。

ーーすごく厳密なんですね。

高田:そうなんです。細野さんはよく「揺らぎを大事にしてほしい」と言うんですよ。メンバーそれぞれのリズムを点として合わせないということなんだけど、それは適当にやってるわけではなくて、揺れ幅が厳密に決まってるんです。「走って(テンポを上げて)」というときも、適当にテンポを速くするのではなくて、「人間が演奏すると、これくらい速くなるのが普通」で。YMOでずっと打ち込みを研究してきて、それまでは感覚的だったノリとかグルーヴというものを「数値化できる」と気付いた方ですからね。やっぱりすごいですよ、それは。

(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)

高田漣『FRESH』

■リリース情報
『FRESH』
発売:2019年3月6日(水)
価格:¥2,800(税抜)

<収録曲>
01.FRESH
02.寝モーショナル・レスキュー
03.ロックンロール・フューチャー
04.モノクローム・ガール
05.ソレイユ
06.最後の楽園
07.ハロー・フジヤマ
08.はいからはくち
09.セロファン
10.MORE FRESH
11.GAMES
12.ナナ
13.OPUS ONE

<レコーディングメンバー>
高田漣(Vocal,Electric Guitar,Acoustic Guitar etc.)
伊藤大地(Drums)、伊賀航(Bass)
野村卓史(Piano,Organ,Synthesizer)
ハタヤテツヤ(Piano)、U-zhaan(Tabla)
バクバクドキン(Chorus)、福島ピート幹夫(Sax)

■ライブ情報
『FRESH&REFRESH 2019 -梅雨のレン祭り-』
6月16日(日)大阪・千日前ユニバース
6月23日(日)東京・東京キネマ倶楽部

オフィシャルサイト

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