『Sprout』インタビュー
田村芽実、二十歳を迎えて意識した二面性 “新芽”のような6曲に込めた思いを聞く
田村芽実が1stミニアルバム『Sprout』を3月20日にリリースする。ハロー!プロジェクト・アンジュルムのメンバーとして活躍し、幼い頃からの目標であるミュージカル女優になるためグループを卒業。その後はミュージカル女優と並行して歌手活動を行い、今回、個性と魅力を開花させる6曲を収めた作品集を完成させた。
タイトルの「Sprout(スプラウト)」とは「新芽」という意味。その名を象徴するように本作にはシンガーソングライターの遠藤響子、阿久悠の長男・深田太郎、また阿久の未発表楽曲など、才能を芽吹かせるバラエティに富んだ楽曲が収録されている。これらの楽曲を得て、20歳となった田村芽実の「新芽」は今後どう開花していくのか。今回、リアルサウンドではインタビューでその気持ちを問うた。(編集部)
大変だったぶん、アルバムへの愛おしさが深まった
――1stミニアルバム『Sprout』が完成して、率直にどんな気持ちですか?
田村芽実(以下、田村):アルバム1枚1枚に、リボンをかけて丁寧に渡したいなっていう作品ができました。過去の2枚のシングルは、まずメインの曲があってc/wを何曲か添えるというかたちで制作しましたが、今回は6曲すべてが主役の曲です。楽曲探しから始めて、それぞれのテーマや構成、曲順に至るまでひとつひとつ大変だったんですが、そのぶん、このアルバムへの愛おしさが深まりました。
――楽曲選びから関わったということで、そのチョイスの決め手になったのはどんな部分でしたか?
田村:自分はどういう歌を歌いたいのか、本当にやりたいことはなんなのかということを改めてじっくり考えました。あと、いろんな曲を詰め込んで、いろんな私を見せたいという気持ちもあったので、そのへんのバランスも見ながら。すごくシンプルに言っちゃうと、「私の好みを集めました!」という6曲になったと思います。
――具体的な流れとしては、候補曲を集めて、そこから選んでいったということですか?
田村:こういう作詞家さんがいい、あの作曲家さんにお願いしたいという私の希望や、私に合いそうな作家さんにお願いしながら進めていきました。
――アルバムの全体的なコンセプトとしては、最初に掲げていたものはあったんですか?
田村:今回のタイトル「Sprout」が「新芽」という意味なんですが、私の名前に「芽」という漢字が入っている事や、二十歳を迎えて「芽吹き始めた」……というイメージで1枚を作ってきました。ただ、だからといって純粋無垢さを前面に出すわけではなく、新芽にしかない毒っ気だったり、若さゆえの危なっかしさもそれぞれの曲や6曲の構成の中に欲しかった。なので、二面性みたいな部分もすごく意識しました。もともと私自身がそういうものに惹かれる傾向があるんですよ。そんなところから、今回は人間味だったり、女の子ならではの二面性も盛り込んでいきました。
――なるほど。確かにそれは聴いてて感じました。単にピュアでかわいいナンバーというわけではなく、適度な毒や棘もあることで楽曲の立体的な魅力が広がっているなって。
田村:ありがとうございます。明るくて真っ白な気持ちを描いたような曲にもどこか棘があるし、そういうのが歌詞の言葉からではなくイメージとして伝わってくる曲もあるので。ぜひ注目していただきたいです。
――「無形有形」「歌が咲く」の2曲は、田村さんも出演したミュージカル『マリーゴールド』など舞台『TRUMP』シリーズの脚本・演出を手掛ける末満健一さんが作詞、同シリーズの音楽を担う和田俊輔さんが作曲ですね。これはどんな経緯だったんでしょう?
田村:末満さんと和田さんは私が中学生のころからずっとお世話になっていた方。いつか曲を書いていただきたいと思っていて、今回それが叶いました。初めて聴いたときは、さすが私をよく知ってくださってるお二人だなというか、本当に自分を鏡に映したような曲だなって思いました。
――「無形有形」の歌詞って、すごく個性的でインパクトが強いですよね。曲中にはミュージカルのセリフのようなパートもあって。
田村:私も歌詞を見たときにビックリしました。というのも、末満さんに「これ、あなたの曲」ってポンって渡されたとき、私の印象では、非常にわがまま娘の曲だったんです。「私ってこう見られてるんだ!」ってドキッとしたし「見抜かれてる」とも感じました。マネージャーさんも「これって田村芽実じゃん」って言うし(笑)。
――(笑)。私は個人的に強い芯を持ってる女の子って印象を受けましたけどね。セリフパートはいかがでしたか? 田村さんの表現力がここぞとばかりに発揮されて、その一部分だけでもちょっとしたミュージカルを体験した気持ちになりました。
田村:うれしいです! 末満さんもレコーディングのとき、そのセリフにこだわっていらっしゃって、セリフのときはブースの中まで来てくれたんですよ。で、気付いたら演出家と役者としての演技指導みたいな感じになってました(笑)。あと末満さんの歌はわりと苦労が多くて。普段、舞台に役者として出演させていただくときは、末満さんの頭の中にあるイメージをどう体現しようって考えながらいつも稽古しているんですけど、今回は私の作品なので、いただいた歌詞のイメージを受け取りつつ、私がこの歌を通してやりたいことや表現したいことも見失わずにいきたいなって。そのバランスや方向性を決めるのが難しかったです。
――末満さんとも話し合ったりしたんですか?
田村:はい。言い方が合ってるかわからないんですけど……今回、初めて末満さんに歯向かいました(笑)。
――えっ! 「私はこっちがいいです!」みたいな?
田村:そうですね。今までは末満さんの作品の世界に私が入らせていただくということで全部「YES」で来てたんですけど、今回は自分の作品ということもあり、ちょっとそれはやりたくないなって思うことがあって。自分でもビックリしたんですけどね。「あ、言っちゃった!」って(笑)。作詞家とアーティストの立場だから今回は言ってもいいのかなと思って。さっき「歯向かった」って言いましたけど、それはちょっと冗談で、小さいときから見てくださっている方にお芝居だけじゃない1人の表現者としての成長した部分を見せたかったんです。
――そういう想いもあったんですね。
田村:はい。ひとつ恩返しじゃないですけど、末満さんが私に寄せてこだわって書いてくださったのがわかったからこそ、私も自分の歌にこだわりたくて。末満さん、和田さんのお二人とは、今回、いちアーティスト同士の関係でものづくりができたこともうれしかったです。
――それ以外の提供者の方とも、田村さんが直接お話したりして作っていったんですか?
田村:「体温」の作詞をしてくださった松井(五郎)先生とは、最初にゆっくりお話させていただきました。ただ、会話のキャッチボールというよりは松井先生の講演会を聞いてた感じ(笑)。“歌詞”というものの話や、「人間っていうのはね」みたいなところまで内容がどんどん展開して、すごく引き込まれるし、胸に沁みるんですよ。たった1日で先生の大ファンになってしまいました。後日開催されたトークイベントもプライベートで見に行ったし、松井先生の詩集も今、寝る前の楽しみになってるくらいなんです(笑)。
――それにしても「体温」は、とても艶のある大人っぽい歌詞です。
田村:はい。最初は難しいなと感じたし、自分にこの世界が理解できるのかなって思いました。本当に深くて迷路のような歌詞を書かれる方なので。でもその迷路を自分の力で辿って、自力でそこにあるものを見つけにいきたいなって。「体温」はそんな想いで歌いました。曲が完成したとき、松井先生に「素晴らしい」と言っていただけたのは光栄でしたね。