『第7回アイドル楽曲大賞2018』アフタートーク(メジャー編)
オサカナ躍進、けやき坂46への期待、ベビレ解散…『アイドル楽曲大賞』激動の2018年を振り返る
アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』が2018年で7回目を迎えた。これまで、ももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」、AKB48「恋するフォーチュンクッキー」、欅坂46「サイレントマジョリティー」といった錚々たる楽曲が1位に輝いてきた『アイドル楽曲大賞』。今回のメジャーアイドル楽曲部門の1位には、sora tob sakana「New Stranger」、インディーズ/地方アイドル楽曲部門の1位にはフィロソフィーのダンス「ライブ・ライフ」が選ばれた。
リアルサウンドでは5年連続となる『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開催し、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、ガールズカルチャーメディア「VIDEOTHINK」主宰の岡島紳士氏、著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を持つ音楽評論家の宗像明将氏、日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立つガリバー氏が参加。前編では、メジャーアイドルシーンを中心に、楽曲の傾向や活動論について語り合ってもらった。(渡辺彰浩)
オサカナはインディーズからメジャーに移行した成功例
ーー2017年インディーズだったsora tob sakanaが、2018年はメジャーデビュー。アニメ『ハイスコアガール』のオープニングテーマに起用された「New Stranger」が1位に輝きました。
岡島:オサカナは、インディーズの頃から上位でしたが、メジャー作でもランキング結果をキープしましたね。2位のベイビーレイズJAPANに大きくポイント差をつけていることからも、期待していた以上の楽曲だったというのが分かります。
ガリバー:今までのオサカナの延長線上ではなく、少し違うアプローチの曲をタイアップに当てたのは勇気がいることだと思うし、その結果リーチする人がすごい増えてランキングに反映された。プロデューサーの照井(順政)さんの才能が、メジャーのプロモーションに上手くハマりましたね。
岡島:照井さんの作家性が高いというのもありますし、職業作家として求められたものに応える能力が高いんだなという。『ハイスコアガール』は、レトロゲームが題材になっているアニメなので、ゲームミュージックとか、チップチューン的な要素をサウンドに加味しています。オサカナのコンセプトにある「少年と少女」のノスタルジアが、アニメとの親和性も高く、アニメファンにも受け入れられたんじゃないかと思います。この曲を聴けばアニメを思い出すし、アニメを観ればこの曲を思い出すような。アニメの評価がそのまま楽曲にも入っていると感じました。
宗像:クオリティの高い楽曲と広まるタイアップという、回路がちゃんと用意されていたという理想的な形ですよね。
ガリバー:オサカナを見ていて、メジャーに上がるタイミングも大事だなと思いました。オサカナのメンバーは、実年齢よりも幼く見える上に、声も幼い印象です。結果、メンバーの多くが17、18歳頃になるタイミングにメジャーに上がれたのはよかったのかな、と。そこまで計算していたのかなとも思いますけど。
岡島:メンバーの幼さをぼやかさせるためには、アニメ方面で活動していった方がいいんだろうなと思っていました。A&Rの人が知り合いなんですけど、もともとアイドル好きなんです。『ハイスコアガール』のエンドロールにも、「New Stranger」のCDのクレジットにも名前があるんですけど、A&Rとして照井さんがやってきたことを変えちゃだめということを分かっている。だからこそ、タイアップと楽曲、双方にとって良い関係性が築けたのかなと想像しています。
ガリバー:オサカナは、インディーズからメジャーに移行した成功している例として、刻まれるべきですよね。
岡島:今年が重要ですね。『アニサマ』(『Animelo Summer Live』)とかに出てほしいんです。
宗像:僕は19位の「鋭角な日常」を、今年のメジャーで一番高い順位にしたんですよ。頭からマリンバが鳴っていて、ブラスセクションもアフロビート。ナイジェリア方面にアプローチしていて、フェラ・クティをリファレンスしている感じ。メジャーに行ってアフリカ音楽にアプローチするのは気が狂っていて、最高だなと思います。
ーー3位の「Lighthouse」、9位の「Lightpool」、11位の「秘密」と『alight ep』から多くの楽曲が上位にランクインしています。
岡島:『alight ep』が作品として凄かったというのもありますね。「Lighthouse」はアンセム感がある曲で、インタビューした時に「野外で歌いたい」と言っていたので、その開放感から上位に来やすかったのかもしれません(参照:sora tob sakana 寺口夏花&風間玲マライカが語る“メジャーデビュー以降”の現状 )。オサカナは、照井さん以外の人の曲も参加し始めているんですよ。3月発売のアルバム『World Fragment Tour』でも、照井さんが所属しているsiraphのメンバーだったり、新しい作家を起用していたりします。
ーーオサカナと同じくらい上位にランクインしているのが私立恵比寿中学で、20位以内に3曲入っています。最高位は椎名林檎のカバー「自由へ道連れ」で4位。13位の「響」は廣田あいかさんの“転校”後、6人体制初の楽曲です。
岡島:作曲がNATSUMENのAxSxE、作詞が後藤まりこ。「響」はエビ中にとって、2018年の代表曲に近いと思うんです。そういったところで、こういったクリエイターを持ってきているのは攻めてますよね。
ー一方で、20位の「熟女になっても」は、フィーチャリングにSUSHIBOYSを迎えています。
ガリバー:SUSHIBOYSは、リリスク(lyrical school)の「シャープペンシル」でもコラボしていました。対バンゲストにも。
岡島:ヒップホップが音楽シーンの主流になって来たために、若い世代に訴えかけようとラッパーを取り入れた、ということかなと思います。リリスクは衣裳的にも、SUSHIBOYSと同じ方向性のファッションを取り入れたり、若いラップ集団の一部という印象を与えているんだと思うんです。エビ中の「熟女になっても」の歌詞は、さつき が てんこもりとSUSHIBOYSの共作、作曲はさつき が てんこもりが担当していて。アイドルがヒップホップグループをフィーチャリングした場合、そのグループがメンバーのラップパートを書くのが普通だと思うんですけど。「熟女になっても」はメンバーのラップパートもさつき が てんこもりさんが書いていて、いわゆる現状のラップの文脈とは少し違う、従来の“アイドルラップらしいアイドルラップ”なんですよ。そこに現在的なSUSHIBOYSがフィーチャリングされて一緒にラップしているという、変わった形式なんです。
ーー以前フェスでSUSHIBOYSを観た時に、「埼玉のど田舎から来ました」と言っていて。「熟女になっても」のMVは、そんなSUSHIBOYSの背景を連想させるような映像です。
岡島:ヒップホップには地元代表をアピールするレペゼン文化がある。加えて、SUSHIBOYSは「田舎の若者たちがお金がないながらも遊びながらラップして映像も作っている」というイメージが、他のラップグループと差別化されている部分です。ランボルギーニを段ボールで作った「ダンボルギーニ」という楽曲を作ったり、田舎の一軒家を秘密基地みたいに改造してスタジオにしていたり。そういった田舎感がありながら、ファッションとラップは今風でカッコイイ。そんなSUSHIBOYSをフィーチャリングにしておきながら、ラップパートを書かせないというのが、エビ中のA&Rチームはすごいなと思いますね。
ピロスエ:つまり、客演みたいな感じ?
岡島:SUSHIBOYSのポジションや存在に注目した形ですよね。かつ、エビ中側は自分たちがやっていることに自信があるんだろうな思います。
ガリバー:30位以内にランキングしている曲を見ても、エビ中は曲調がバラバラなんですよね。最上位はカバーですけど、桜エビ~ずのアウトプットを始め、A&Rチームは2018年、本当に優秀な仕事をしてきたんだなと思います。
岡島:ほかのグループはある程度、楽曲の方向性が決まっていることが多いですもんね。
宗像:2017年のアイドル楽曲大賞、10位にはオサカナの照井さんが作詞、作曲したエビ中の「春の嵐」が入ってたじゃないですか。常に別の方向性にトライしているのが分かりますね。