橘慶太の「composer’s session」:西寺郷太(NONA REEVES)
w-inds. 橘慶太×NONA REEVES 西寺郷太 対談【後編】 楽曲制作を支える信頼できる仲間の存在
NONA REEVESメンバーの役割と西寺がw-inds.に思うこと
西寺:ちなみに、2人はもともと友達だったんですか?
橘:2人は同じスクールを出ていて、そのスクールから東京に出てきた時期と、僕がオーディションで受かって東京に出てきた時期がたまたま一緒だったんです。僕は最初ソロのシンガーソングライターでデビューしてくださいって言われてたんですよ。
西寺:え?(笑)。シンガーソングライターでデビューって急に?
橘:はい。オーディションでも説明はなかったんです。歌って踊って合格したはずなのに、合格したときにもらった商品券で「ギター買ってください」っていきなり言われて。ギターはギターでそっちがくれればいいのにと思いながらも(笑)、ギターを買って練習して、2カ月後に東京に呼ばれました。
西寺:それが、今役立ってると(笑)。
橘:そうなんですよ。頑張って買ってギター持って出ていったら、社長が「君たち3人並んでくれ」ってパシャって写真を撮って「これだ」って(笑)。買ったギターをどうすればいいんだろうと思ってたんですけど、そのギターはうちのメンバーのロック好きな子がのちに「ちょっとギターを貸してほしい。そういう音楽が好きになってきた」って言ってきて、そのギターを貸したらどんどんロックが好きになって。バンドでも今ギターをやってます。まさか買えって言われて買ったギターがこんなにも今になって活きてくるとは(笑)。
西寺:結果、社長の見る目がすごいってことですかね(笑)。w-inds.のレコーディングはどんな感じなんですか?
橘:普段は基本的に僕が作って、歌録りも僕が録るので、2人の歌も録ります。それで自分でエディットして。Melodyne派なんですけど、基本的に全部自分で仕上げます。
西寺:歌録りまで(笑)。僕は、ボーカル素材のChopはするけど、MelodyneとかAutoTuneは使ったことがなくて。そこに行くのは完全に客観性を失いそうで怖い(笑)。なので、その辺の調整は、兼重哲哉っていうエンジニアに全権任せてます。NONA REEVESはバンドなのと、3人ともプロデューサーなんで、それとは違う審判みたいな人がいてくれた方がいいっていうのもあって。エンジニアが実質的には、その役を担ってますね。あとはさっきも話したけれど、自分がやっぱりどちらかというとリズムとリフの得意な人間で、ギターの奥田はコードとかサウンドの積みが得意。で、僕と奥田が曲を作る。バンドの中ではドラムの小松が編集者というか、審判になってくれて、意見したりするから。僕がインタビューや本を書いたり、メディアに出る回数は多いから主導してる感じで伝わってますけど、実際NONA REEVESに関しては、3人完全に平等ではありますね。
橘:なるほど。僕も同じグループに自分みたいな性格の人がもう1人いたら多分続いてないだろうなって思いますね。曲に対しては引くくらいのわがままなので。スネアの音色1個違うと気に入らないとか。なんでこの曲にこのスネアの音なのかとか。
西寺:でもそれで判断の速度が速いならいいですね(笑)。僕は、決断が速い人が大好きなんですよ。自分も速いんですが、日本で色んな人が絡んでちゃんとCDを作ったり宣伝しようとするとどうしてもレコーディングからリリースまでも含めて遅くなっちゃうので。
橘:そうなんですよね。速くどんどん出せるっていうのがすごく大切。海外の人たちはみんな早いですもんね。
西寺:それで塵も積もればじゃないけど、どこでどの曲を誰が気に入ってくれるかわからないのが今の時代なのかなと思ってて。
橘:まさに。海外でも月に1曲新曲を出たりしてる人がいるので、そういうことをやりたいなってずっと思っていて。僕も速度を上げるためにどうしたらいいんだろうっていうのはこの1年ずっと悩んできました。だからこそDAWをPro Toolsにして、そのままバウンスしないで曲を出せたりしたら速くなるのかとか。色んなソフトやプラグインも使って自分でプリセットを作って効率を上げることはずっと課題としてやってますね。少しでも速く曲が作れるように。
西寺:打ち込みばかりの世界からちょっと出てトライしたいというのはないんですか? 例えばブルーノ・マーズ、マーク・ロンソン、なんでもいいんですけど、生演奏と打ち込みの融合みたいなものもリスナーとしては聴くんですよね。
橘:めちゃくちゃ興味あります。でも、僕、人と一緒に曲を作ると気を使っちゃう節があって。「これどう?」って言われてダメって言いづらいんですよね。
西寺:え? わがままなのに? w-inds.は3人とも結局「ザ・いい人」ってこと?(笑)。
橘:(笑)。仲良くなればいいんですけど、よろしくお願いしますみたいな状態だと言えないんですよね。あと自分の方が上手いことに関しては意見を言えるんですけど、自分の方が劣っていると思った瞬間に言えない。だから例えばスネアの音色とかだと、音色の選び方は絶対自分の方が詳しいだろうなと思うとそのスネアじゃないよって言えるんですけど。ギターのプレイになって自分より上手いギターを弾いてる人に対して、それちょっと違うなって意見して、お前やってみろよと言われたらどうしようみたいな。もちろんそんなことにはならないんですけどね(笑)。でも、そういう気持ちになるんじゃないかなとか思っちゃうと言えないんです。それがひとつ自分の中の課題というか嫌な部分ですね。
西寺:その話に通じることでもあるかもしれないけど、実は僕は、今回の対談は難しいなって正直思ってたんですよ。デビュー年で考えれば大した差はないんだけど、年齢的に12歳も年上のプロデューサー、ミュージシャンである西寺郷太がw-inds.の慶太さんと初めてちゃんと話す。そうなった場合、「作詞も作曲も、ミックスもやるなんてすごいなぁ」っていうことに結局集約されてしまうんじゃないかなって。でも普通にミュージシャン同士で会った時に、全部演奏してても曲を作ってても「すごいなぁ」とは言わないじゃないですか。当たり前というか。
橘:それはそうですね。
西寺:だから今も、本当は慶太さんに対して「音楽ちゃんと作っているなんて、すごい」と言うのはかえって失礼なことだなって思ってるんです。だけどw-inds.として歌って踊ってるのを小さい時から見ていて、それで途中から曲を作り始め、打ち込んでミックスもしてるなんて改めて聞くと、ね……。デビューが早い分、幼い頃のことがなんとなくみんなのイメージにあって、その先入観をぶち壊しながら今違う道を歩んでることに対して、やっぱり結局「すごい!」と思ってしまうというか(笑)。なかなか歌録りやミックスまでやる人って少ないから(笑)。一種の筋トレと同じというか音楽的スキルをストイックに追い込んで、学んで。全部自分でやることでしか証明できないことが慶太さんなりにあったんだと思うし、w-inds.のここ数年の活動は日本の音楽界にとっても絶対必要なプロセスだったんだろうなと思っています。
でも、またマイケルの話でいうと(笑)、マイケルには、「Billie Jean」「Don’t Stop ’Til You Get Enough」「BAD」みたいな自作曲もあれば、ロッド・テンパートンが作詞作曲した「Rock With You」や、テディー・ライリーと組んだ「Remember The Time」のような曲もある。自分で仕切る曲と、いろんな人とうまくコラボレーションする曲とがいいバランスで組み合わさればいいなぁ、とは、w-inds.に対して思うことかもしれませんね。例えば、今ご自身でやってるミックスなんかもいろんな人のものと混ぜていくとか。そういうことでまた違った最強につながっていくんじゃないかなと思いました。まだ全然「w-inds.」物語は途中なんだろうなっていうのを感じるし。
橘:ありがとうございます。まさかそんなにw-inds.のことをしっかり考えてくれていたとは(笑)。
西寺:いやいや(笑)。まぁ、でも色んな人から楽曲をもらい、プロデュースされることはひとしきり経験されましたもんね。慶太さんのソロ曲もだいぶ前ですけど聴いたことがあって。その時にも慶太さんの歌がすごいなって思った記憶があるんですけど、R&Bシンガーに徹してやってましたよね。
橘:いつでもその時いいと思ったものをやりたいだけなんですけど、僕はとにかくいろんな曲が好きすぎて、どうしたらいいんだろうって思う時はちょっとあります。グループはこれ、ソロはこれってできればいいのかもしれないですけど。