Youmentbayが表現する、“平成に生まれ、平成に生きてきた世代”の音楽センスと価値観

Youmentbay、“平成世代”の歌

 女性ドラム&ボーカルと、男性ギター&ボーカルというユニークな編成のデュオYoumentbay(ユーメントベイ)の、セルフタイトルとなる1stミニアルバム『Youmentbay』がリリースされる。

 ドラム、ベース、ギターを基軸としたシンプルなバンドアンサンブルによる、シティポップやニューソウル、インディ〜オルタナティブロックなど様々な音楽スタイルのエッセンスを取り込んだアレンジと、適度に力の抜けたポップなメロディ&掛け合いラップを絶妙にブレンドしたサウンドスケープが、ひたすら耳に心地よい。リードトラック「Night Radio」の歌詞にある〈知識の要らない ただ身体が動く それだけが music〉というラインが象徴するように、既存のジャンルにとらわれず古今東西あらゆる音楽を取り込んでいくセンスは、平成の時代に生まれ育った彼らならではのものといえるだろう。

 大学卒業後、一度は就職するも再び音楽の道を選んだというサクライ(Dr/Vo)と、彼女に背中を押され、音楽一筋の人生を歩み続けているヤマヤ(Gt/Vo)。まるで兄妹のようによく似た2人の醸し出す緩やかなバイブスと、その奥にある固い絆もまた、Youmentbayの音楽性そのものだった。(黒田隆憲)

色んな音楽をたくさん聴いて、それが消化された末にポンと出てきた

ーー元々2人はどこで知り合ったのですか?

サクライ:大学時代に出会いました。同級生ですが、彼は浪人しているので一つ上(笑)。いわゆるコピーバンド中心のサークルに入っていて、当時はオリジナルなんて微塵も考えずにアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)やスピッツなんかをコピーしていました。あと、Blink 182とか(笑)。

ーーへえ!

ヤマヤ:結構、何でもあり状態で、バンドもいろんな組み合わせで何個も組めるサークルだったんです。そんな中で、彼女とは音楽の趣味も合うし、音楽の聴き方も共感できるところもあって、割と一緒に組むことが多かったんですよね。

サクライ:あともう1人ベーシストがいて、その3人はかなり仲が良かったので、卒業してからも「バンドは続けたいね」なんて話していて。私は就職したのですが、休日に3人でスタジオに入るなどしていました。で、だんだん「曲とか自分たちで作ってみても面白そうだね」ってなって、やり始めてから徐々に本気になっていきました。ただ、ベースの子はそこまで本気でやるつもりじゃかなったみたいで、「じゃあ、私たち2人でやってみるね」という感じで2人編成になったんです。

ヤマヤ、サクライ

ーーなるほど。そもそも音楽に目覚めたのは、どんなきっかけだったのですか?

ヤマヤ:僕は地元が岩手なんですけど、中学生の頃にBUMP OF CHICKENやRADWIMPS、アジカンなんかがめちゃめちゃ流行ってて。当時はテニス部をガッツリやっていたんですけど……。

サクライ:しかも強かったんだよね?(笑)。

ヤマヤ:そう。でも、なんかこうモヤモヤと「音楽をやりたいな」っていう気持ちが燻っていたんです。親があまりいい顔をしなかったので(笑)、友だちからギターを借りて弾いたり、内緒で買ったギターをおばあちゃんちに送ってもらったりして(笑)。ただ、上京して大学でそのコピバンサークルに入部した時には、最初ドラムをやろうとしてたんですよ(笑)。当時、サークルのドラマー人口が多くてギターが少なかったから、なりゆきでギターになってしまったという。

サクライ:ドラマーじゃなくて良かった(笑)。私は兄の影響もあって、小学生から高校の終わりまでずっと吹奏楽部で打楽器を担当していました。その中でドラムを叩く機会も結構あったんですよね。で、そのまま大学でも吹奏楽部に入りたかったんですけど、ウチの学校はあまり吹奏楽部が活発じゃなくて。だったら吹奏楽部に入るより、もう少し気楽にドラムを叩く方がいいかな……くらいのノリでコピバンサークルに入ったんですけど、やっぱり吹奏楽のドラムとロックのドラムは全然違うんですよ。それで、先輩のプレイに触発されながら練習していくうちに、ドラムにハマっていきました。

ーー影響を受けたアーティストというと?

サクライ:私はアジカンのドラマー伊地知潔さんです。さっきも言ったように元々アジカンは大好きだったんですけど、ドラムをやるようになって改めて好きになりました。伊地知さんって、マーチングドラム出身じゃないですか。吹奏楽でのスネアのドラミングって、マーチングのドラミングに似ているところがあって、「だから好きなんだ!」という発見もありました。手数のセンスやフィルインの好みが一緒なんですよね、畏れ多いですけど。他のドラマーだと「ああ、そう来るのかあ」みたいに思うこともあるのに、伊地知さんのドラムに関しては常に「いいなあ」って。伊地知さんのドラムクリニックに行ったこともあるんですよ。

ヤマヤ:僕は結構、時期によって色々変わるんですけど、オリジナルを始めたばかりの頃はそれこそブリンクのトム・デロングに、ものすごく影響を受けました。ギターとか本当にヘタクソで、「俺の方が上手くないか?」って思うこともあるくらいなんですけど(笑)、「めちゃくちゃに弾いてたらワケわかんない引き出しが開いちゃった」みたいな感じがカッコよくて。熟達したプレイヤーには出せないようなフレーズを生み出すところに惹かれるんですよね。

サクライ:結構、ウチらにとってブリンクはデカかったよね。私もトラヴィス・バーカーのドラミングとか、真似しまくった時期もあったし。伊地知さんのタイトで発音の綺麗なドラミングと、トラヴィスのパワフルな中に繊細さを感じさせるドラミング、両方の影響が自分のプレイにはあるかも、と思っています。

ーーじゃあ、シティポップやソウル、ヒップホップのエレメンツを内包したYoumentbayの音楽性は、オリジナルを作り始めた頃から確立されたものだったのでしょうか。

ヤマヤ:そうかもしれないです。実は、オリジナルを作り始めて、最初に出来た曲が「Night Radio」だったんですよ。「なんか最近、こういう感じの曲を聴いてるよね」みたいなノリで、サクッと作れたというか。

Night Radio(lyric video)/Youmentbay

サクライ:そう、どうやって作ったのかもあんまり覚えてない……(笑)。何か具体的なお手本があって作り始めたというよりは、色んな音楽をたくさん聴いてきて、それが消化された末にポンと出てきた、みたいな。私はそれまでボーカル自体もやったことなかったんですけど、このバンドで曲を作るようになって、「こんな感じの歌がいいね」ってヤマヤくんに聞かせたら、それに彼がギターでコードを付けてくれて……ってやっているうちに、いつの間にかドラム&ボーカルというスタイルになっていたんです。

 セッションしながら作っているからか、最初の頃は本当に色んなタイプの楽曲が出来ましたね。EPとか聴いてもらうと分かると思うんですけど、割とギターポップみたいな曲もあるし。今も特に「こういう音楽性でいこう」みたいには決めてないんですよね。

ーー音源を聴くと、ベースの存在感も大きいですよね。

サクライ:サポートベーシストは複数いるんですけど、特に頻繁にライブを手伝ってくれているベーシストが2人いて、ほぼ半分ずつレコーディングでも弾いてもらっています。それぞれの持ち味を自由に出してもらいたかったので、デモの段階ではベースラインをあまり作り込まないようにしました。


ーー正式メンバーは、あくまでも2人というところにこだわっている?

ヤマヤ:「もう、絶対にデュオでやっていく」みたいな強いこだわりはないし、レコーディングやライブをしていて「この人のプレイ、いいなあ」と思うことはよくあるんですけど、せっかく入ってもらうなら、やめて欲しくないっていうか……(笑)。もし意見がぶつかって、辞められたりしたらほんと泣いちゃうんで。絶対俺たちのせいだなって。

ーー(笑)。確かに、お二人の空気感がとても独特で、そこに入っていける人はなかなかいないような気もします。

ヤマヤ:そうなんですよね、もう付き合いも長いですし、ついつい僕らだけで盛り上がってしまいそうで。単純に音楽の趣味が合うとか、そのくらいでは選べない気がします。

サクライ:メンバー加入って、ある意味、結婚みたいだよね(笑)。

ーー2人編成だからこそ、小回りが利くという利点もありそうですしね。

ヤマヤ:確かに、それもあります。

ーー2人の掛け合いボーカルも味がありますよね。ちょっとラップっぽい、力の抜けた歌い方はどこから来ているのでしょう?

サクライ:私、RIP SLYMEや韻シスト、KICK THE CAN CREW、KREVAさんとかめちゃめちゃ好きなんですよ。

ヤマヤ:あ、今思い出した(笑)。「Night Radio」は(RIP SLYMEの)「黄昏サラウンド」ですね。コードの流れとかギターのカッティングは、あの曲にインスパイアされて、曲全体の雰囲気はブリンクの「I Miss You」を意識したと思います。4小節のループの中でメロディが軽やかに展開して、後半でリズムが倍速になってバーストしていくところとか。

サクライ:でも、そういう元ネタについて、ヤマヤくんから具体的に聞いたわけではなくて。ラップに関しても特に打ち合わせとかせず、私は私で影響されたものの中に「ラップ」があって、それがこの曲のトラックにハマるんじゃないかと思ってセッションしながら試していった感じなんですよ。

ヤマヤ:僕としては、1曲の中に色んな要素を詰め込みたいというか。「これはこの曲」って、一発で説明できちゃうような曲ではなくて、とっちらからない程度に多くの情報を入れたいんですよね。しかも、それをあえてサクライとは共有しないようにしているというか。例えば「Holiday」という曲は、最初に彼女がサビのメロディと簡単なベース、リズムだけを持ってきて。「きっとこの曲は、ダブの要素も入ったソウル系のアレンジが合うな」と思いつつ、その頃よく聴いていたJapanese Breakfastのような、コーラス深めのインディギターっぽい要素も入れていったんです。ただ、それを口で説明してしまうと、そっちに寄り過ぎてしまうかなと思って敢えて言わずに合わせてみる。

ーーとても興味深いですね。あえてお互いの持ち札を見せずにセッションすることで、よりイマジネーションを深めていくわけですね。まるでカードバトルをしているみたい。

ヤマヤ:あははは! 確かにそうですね。

サクライ:なので、時々「ええ? そうくるの?」ってなる時もあるんですけど(笑)、そこはお互いに納得いくまで話し合って進めていきます。

ヤマヤ:これは僕個人の意見なんですけど、サウンド面で「Youmentbayはこうあるべき」みたいな縛りはあまりなくて。例えば歌詞における思想の部分、歌詞は主にサクライが書いているんですけど、そこがブレてなければ別に何やってもいいかなって思っているんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる