1stアルバム『Youmentbay』インタビュー
Youmentbayが表現する、“平成に生まれ、平成に生きてきた世代”の音楽センスと価値観
「平成の終わり」を迎える今の私の心境を歌いたいと思った
ーー歌詞も素晴らしいですよね。「Cider」や「T.R.U.E.」「こんなんでいいわけ?」など、現状や未来に対して「このままでいいのか」という葛藤を抱えつつも、次の一歩を踏み出せずにいるモラトリアムな心境を鮮やかに切り取っていて。
サクライ:ありがとうございます。ウチらの場合、まずトラックが出来て、あとから歌詞をバーっと付けていくことが多いですね。普段から思いついたことを書き留めているんですけど、「自分が思ったことだけを書く」「嘘は書かない」っていうことだけがポリシーです。とにかく「真理」を書きたい……。(クスクス笑うヤマヤに)そこで笑うんじゃねえよ(笑)。
ヤマヤ:はははは(笑)。いや、でも本当にそう思います。彼女から歌詞が送られてくると、最初は「レコーディングのために覚える」くらいの感じで臨むんですけど、歌っているうちにだんだん言葉が体に染み込んできて。リハ中に「すごいなあ!」って改めて言うことはよくあります。物事の捉え方とか独特だし、生きていて無視できないことや、無視できないけどやり過ごしてしまうことにも真摯に向き合っていて。ある人にとってはどうでもいいことが、自分にとってはめちゃめちゃ大事なことだったりするじゃないですか。そういうところを丁寧に切り取ってくれるから、「そうか、こういう価値観もあるんだな」って気づかされる。ほんと、尊敬しています。
サクライ:照れ臭いな(笑)。さっき「モラトリアム」っておっしゃいましたけど、「自分はこれから何になるのか?」みたいなことを、探しながら歩いている感覚はありますね。「これまでやってきたことを否定したくない」とか、「肯定できる自分を見つけたい」という思いは、私たちの世代はみんなそうだと思うんですよね。「もう、自分は完成した」って思っている人は少ないだろうし。
ーーさっき、サクライさんは一度就職したとおっしゃっていましたが、「バンドで食べていく」と覚悟を決めるまでにはそれぞれ葛藤もありました?
サクライ:ありました。せっかく国立の大学まで行かせてもらったのに、親に悪いなっていうか。「ある程度のところまで見せたい」という気持ちもあって、一度は教員になったんです。その時には教員としての志やビジョンもあったんですけど、実際に現場へ行くと現実と理想のギャップが大きくて。「自分がやりたいことをやるためには、やりたくないことを数十年もやらなきゃダメなのか……」と思った時に、人生初の挫折を味わった。「自分を殺して生きていくって、こういうことなのか」と思ってしまったんですよね。
だから、「仕事が辛い」「つまらない」と言いながらも働いている人たちは、本当にすごいなって思います。辛い思いをしながらも続けていること自体が尊いことだなって。よく私たちは「夢があっていいじゃん」って言ってもらえるけど、もしこれで何者にもなれなかったら……という不安もずっとある。「夢を追いかけてていいね」という言葉が、時には悪口に聞こえてしまうこともあるんです。だから「たった一度の人生、好きなことしなくてどうする?」なんて、軽い気持ちでは言えない。
ーーヤマヤさんはいかがですか?
ヤマヤ:僕は就職もせず、大学卒業してそのまま音楽をやっているんですけど、なぜ自分はこういう道に進めるかと言ったら、僕の言うことや生き方を笑わずに受け止めてくれた数少ない人が、そばにいてくれるからなんですよね。田舎にいた頃は、自分の好きな音楽を共有できる人もそんなにいなかったし、上京しても音楽に対する気持ちに温度差を感じることも多かった。音楽だけじゃなくて、例えば海外のカルチャーだったりアートだったりファッションだったり、いろんなことに興味があるんですけど……。
サクライ:彼はインプットの量が尋常じゃないんですよ(笑)。
ヤマヤ:自分じゃそれが当然だと思っていたんですけど、どうやらそうじゃないみたいで。熱っぽく語っても「はいはい」って流されたり、バカにされたりすることが多い中、受け入れてくれたのがサクライだったんですよね。
サクライ:一瞬、就職活動みたいなことをやっていた時期も彼はあったんですけど、話を聞いていると他にやりたいことがあるんじゃないかなって私には思えて。「俺には仕事はできねえ」みたいなことも言ってたし、「そうだね、無理して就職するよりその方がいいと思う。仕事とか向いてないし」って言った記憶がある。で、まっすぐフリーターになったんだよね。
ヤマヤ:あははは!
サクライ:彼の人生を大きく狂わせる言葉をかけてしまって、ヤマヤくんの親にはほんと「申し訳ありません」としか言いようがないんだけど。でも、やりたい気持ちを抑えて無理に就職したって、どうせ戻ってくるんだからって思ったんですよね。私はすぐにその選択を取れなかったから就職を選んだけど、ヤマヤくんはすぐに自分の道を選ぶべきだって。岩手から出てきて、一浪してまで大学入ったのに、フリーター一直線ってかっこいいじゃんって。
ーーいいパートナーが見つかって、お互い良かったですよね。
ヤマヤ:いやほんと、そう思います。
ーー歌詞に話を戻すと、「30th」という曲は割とメッセージ性のある歌詞ですよね。もうすぐ終わる平成という時代について、サクライさんの思いが綴られているというか。
サクライ:ここ最近は「平成も終わるね」っていう風潮になってきて、「そういえばウチらは平成に生まれて平成に生きてきたんだな」と思った時、例えば俯瞰的に「平成ってこうだったよね」と語るのではなく、「私は平成をこう生きたんだよね」って歌いたかったんです。それが「平成を生きた私たちの世代」にとって、リアリティのある歌詞なんじゃないかなって。
ーー誰かに向けて書かれているようでいながら、喧騒の中「孤独」に進んでいく自分たちへのエールにも聞こえますよね。
サクライ:私たち2017年にデビューして、まだまだ自分のことを分かってもらえなかったり、評価してもらえなかったりすることの方が多い中で、「結局は孤独なんだな」って思うんですよ。私はたまたまヤマヤくんという、めちゃくちゃいい相方がいるから自己表現の場があるけど、それでも孤独には変わりない。さっき、「夢を追いかけてていいね」という言葉をネガティブに捉えてしまうことがあると言ったじゃないですか。実際、教員を辞めて音楽の道を選んだときは「バンドで食うなんて甘ったれた夢を見てんのか?」と言われたこともあって、それがコンプレックスだった時期もあったんです。
でも、よく周りを見渡してみれば、ヤマヤくんはもちろん、一緒にやっているスタッフや家族など、応援してくれる人も沢山いるわけですよね。この曲の歌詞にある〈まだ白日の夢の中かい?〉というラインが、今言ったような「まだ夢を見てんのか?」みたいな意味ではなく、周りの人たちからの「その夢、ちゃんとまだ見えている?」というエールだと最近はようやく思えるようになってきた。そんな、「平成の終わり」を迎える今の私の心境を、「30th」では歌いたいと思ったんですよね。
ーー「自分が思ったことだけを書く」「嘘は書かない」というポリシーのもと、「今、ここ」を切り取り続けてきたからこそ、この先もどんどん変化し続けていくのでしょうね。すでに、その兆候を感じていますか?
サクライ:すごく感じています。私たちにとって、このアルバムはあくまでも「スタート地点」。さっきヤマヤくんが「サウンドにはこだわっていない」と言ってたけど、実際にソングライティングの部分では色々試しているんですよ。今回はバンドアンサンブルが中心だったけど、これから歌詞もサウンドも、どんどん変わっていくだろうなと思っています。
ヤマヤ:とにかく曲をたくさん作りたいです。今、自分が聴いている洋楽ではサブジャンルに注目していて。例えばヒップホップの中でも「エモラップ」だったり、イギリスで流行っている「アフロ系」や「ネオソウル」だったり。インディロックだったらThe 1975以降のエイティーズっぽいサウンドも好きだし……(笑)。ツインボーカルというスタイルや、歌詞のポリシーは大切にしつつ、サウンド的な振り幅をどんどん大きくしていけたらいいなと思っています。
(取材・文=黒田隆憲/写真=はぎひさこ)
■リリース情報
1st Mini Album『Youmentbay』
1月23日(水)発売
¥1,980+税
01. Night Radio
02. GOOD
03. Cider
04. Holiday
05. HOLIDAY Session
06. 30th
07. T.R.U.E.
08. こんなんでいいわけ?