DAOKO、あっこゴリラ、ちゃんみな……最新作のラップ表現とサウンドの特徴を解説
2018年の年末は女性ラッパーのリリースラッシュとなった。DAOKOとあっこゴリラはアルバムをリリース、そしてちゃんみなも新曲をドロップ。特にDAOKOは初めて『紅白歌合戦』に出場という偉業を達成する飛躍の年となった。また、あっこゴリラもMCバトル出身のラッパーながらもメジャーでのアルバムリリースを成し遂げた。そんな彼女らが放つ新作の特色を解説したい。
宝箱のようなDAOKO『私的旅行』
DAOKOの3rdアルバムとなる『私的旅行』。様々なクリエイターとコラボしており、「こっちに行きました」「あちらも訪れてみました」という旅行の報告を聞いているような気分になれるアルバムだ。
ニコニコ動画にラップ曲の投稿を始めたのがきっかけとなって2012年にアルバム『HYPER GIRL -向こう側の女の子-』で女子高生ラッパーとしてインディーズシーンに登場したDAOKO。観音クリエイションやDJ6月が作る流麗なトラックにふわっとしたラップを乗せるスタイルはシーンに衝撃を与え、不可思議/wonderboyやJinmenusagiなど当時のレーベルメイトのラッパーの楽曲、さらにはm-floや狐火の作品にも客演で参加するなど積極的な活動を展開してきた。
2015年にはアルバム『DAOKO』で晴れてメジャーデビューを果たす。同作はGREAT3の片寄明人やORESAMAの小島英也などが楽曲を手がけた「現代版渋谷系」と言える作風に仕上がっており、以降は新作をリリースする度にラッパーとしての姿は影を潜めていくこととなった。そしてメジャー2ndアルバム『THANK YOU BLUE』にも収録されたDAOKO×米津玄師名義の「打上花火」が空前の大ヒット。一気にDAOKOの名を世に知らしめた。
しかしDAOKOはHIPHOP魂を忘れたわけではない。『DAOKO』では「水星」でtofubeatsのカバーに挑戦し、『THANK YOU BLUE』では「GRY」でTHA BLUE HERBのO.N.Oを作詞、THA BLUE HERBをトラック制作に迎えているほか、 TeddyLoidとのコラボ曲「ダイスキ」でもラップを披露しており、DAOKOならではのHIPHOPを作品に取り入れてきた。また、SNSでもラッパーKMCの1stアルバム『東京WALKING』をよく聴いたということを呟くなど、HIPHOP好きという姿勢を崩していないことがよくわかる。
そんなDAOKOは今作では再びラップを多く取り入れている。シングルとして先駆けてリリースされていた「終わらない世界で」もラップを効果的に取り入れた素晴らしい楽曲だ。
プロデュースを務めたのは小林武史。「終わらない世界で」もどこかMy Little Loverに通じるような、さらに遡れば小林武史が手がけた小泉今日子の「My Sweet Home」に通じる優しさや懐かしさのある歌だ。〈頑張ってみるから/終わったら抱きしめて〉という歌詞が切なく響く。
一聴して名曲だとわかる中田ヤスタカとの「ぼくらのネットワーク」、いきものがかりの水野良樹がサウンドを手がけた「サニーボーイ・レイニーガール」、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之が手がけた「NICE TRIP」など大物プロデューサーとのコラボが目立つ一方で、ボカロなどネットを中心に活動しているプロデューサーを起用しているのも本作の特徴だ。
「蝶々になって」を手がけた羽生まゐごは昨年10月にアルバム『浮世巡り』をリリースしたボカロP。中でも「阿吽のビーツ」はボカロ界隈で絶大な人気を誇っている。今回DAOKOのために制作された「蝶々になって」は音数が少ないながらも突き抜けるような高音のメロディが心に残る名曲だ。こちらの曲でもDAOKOのラップが楽しめる。そして神山羊をゲストボーカルに迎えた「24h」。この神山羊も別名の有機酸としてボカロ界隈で活躍しているが、「24h」も中々癖が強く、病みつきになってしまう。シンセサイザーの音色が印象的だが、跳ねるような高音のメロディが素晴らしい。神山羊の声もDAOKOの歌声の対比となってアクセントを添えている。米津玄師がニコニコ動画出身というのは知られた話ではあるが、この二人のボカロPの起用はニコニコ動画をルーツに持つDAOKOの原点回帰と言っても過言ではない。
前作、そして前々作からの流れでORESAMAの小島英也やきくおともコラボしているが、相性はばっちりだ。うれしいことに今回も「打上花火」のソロバージョンを収録。そんな風に一曲一曲がまるで旅行のように違った世界観を楽しめる『私的旅行』だが、前作同様に作詞の面でDAOKOが大きく携わっており、彼女がもつ、繊細でメルヘンで、時に脆く危うい世界で繋がっている。時にラップを歌唱法の一つとして効果的に用い、そして時に原点にも返りながら、彼女の世界は続いていく。まさに彼女の私的な旅行と言えるだろう。
インディーズアルバム『HYPER GIRL -向こう側の女の子- 』収録の「キラキラ」で〈おとなになったらわたしの価値って同じじゃなくなる?〉と答えを求めながら歌っていたDAOKO。〈おとなになっても わたしはわたしのうた、うたいたいよ〉と当時15才の彼女は主張していたが、DAOKOが21才になった今、その答えは出ているのではないだろうか。