岩里祐穂が語る、5人の作詞家との対話から得た発見「詞は一面ではなくいろいろな側面を持っている」

岩里祐穂、作詞家との対話から得た発見

仕事を持って生活している全ての人に読んでほしい

――今回の対談相手の中では高橋久美子さんが一番お若いですが、対談してみて感じた彼女の個性や、自分にとっての新しい気づきは?

岩里:久美子さんはやっぱり感性の人、そしてストーリーの作り手だと思いました。彼女がやってたチャットモンチーはほとんどの曲が詞先だったから、久美子さんは音楽のない状態で書いたほうが自分を表しやすいと思うんですね。純粋詩というか、文学少女の部分から始まっている。そこが眩しかったし、物語性は私にはないものなので、話を聞いて勉強になり、「なるほど」と思いました。

 それと久美子さんも私も、知らないことがたくさんありそうなところは似てる気がしましたね。久美子さんは「シャングリラ」の本来の意味を知らなかったなんて驚きですよ(笑)。これは私個人の感想ですけど、例えば松井さんやヒャダインさんは理論的で物知りだと思うんですけど、私や久美子さんみたいに知らないからこそ詞が書ける、みたいなこともあると思うんですね。大きな声では言えませんが、私は日々の生活の中でもみんなが知識として知ってるようなことを知らない時があって(笑)。でも、それによって新鮮な驚きを得たりするんです。そういう感動や経験が歌詞になったりすることもあって。超前向きな考え方をすれば、「知らないことを知らないまま曖昧にしておける」というのは、作詞家になるための素養のひとつかもしれないですね。

――松井五郎さんはご自身の作詞術について理路整然と語られていて、作詞のメソッドのようなものが垣間見える内容ですね。

岩里:松井さんからは作詞の先生みたいに教えてもらいましたね。私は譜割りやワードのユニークさで自分を更新してきたところがあるんですけど、彼は譜割りもワードもずっと変えることなく今まで続けてきたんですよ。それがずっと不思議だったんですね。松井さんは歌詞で「言い切らない・断言しない」のが自分流で、それはそういう性格だからとおっしゃっていたんですけど、でもその「言い切らない」という方法論こそが時代を超えてきた秘密なのだと、ついこの前気がついたんです。

 例えば、伝えたいメッセージがあったとして、でも歌詞においてそれがお説教になってしまったらいけないわけで。けれどキャリアを重ねてくると紙一重でそうなってしまいそうになる時がある。「〇〇しなさい」とか「こうすべきだ」と書くのではなく、「〇〇はどうですか」「〇〇はどうだろう」と投げかける形にしたり、「○○かもしれない」と語尾を曖昧にして言い切らず、聴き手に答えを預けると、押しつけがましくなくなる。「あっ、これは松井さんの方法論だ!」と思ったんですよね。トークライブの時はそこまで気づけなかったんですけど、だから松井さんの作詞術は噛み応えがあるんです(笑)。

 それから、ヒャダインさんですが、「ワニとシャンプー(ももクロ)」の逆算した作詞には驚かされました。あの曲がタイトルありきで作られたと知って、そういう理数系の頭での発想法もあるのだと。たぶん、彼に難題を出したディレクターさんは、絵本のような詞を思い描いていたのではないかしら。でもフタを開けてみたら夏休みの宿題の歌だった!という。この裏切り方もとても勉強になりました。

――坂本真綾さんは、岩里さんが彼女のデビュー時から歌詞を提供してることもあって、他の作詞家同士による対談とはまた違った角度のものになりました。

岩里:私の書いた歌詞を、歌ったアーティスト自身がどう理解してくれたか、ということですものね。真綾ちゃんとの対談は彼女の楽曲尽くしでやったんですけど、彼女が私の書いた歌詞をどういうふうに思ってるのかちゃんと話したことはなかったので、楽しかったし嬉しかったですね。「風が吹く日」の私が知らなかった疑問を投げかけてくれたりして。それと今回取り上げなかった曲で「夜」という曲があるんですけど、彼女が今春のツアーでその曲を歌ってくれたんですね。それでツアーが終わった後に「この詞すごい! 対談で「夜」を取り上げればよかった」と言ってくれたりもして。

――今回、5人の方と対談することで、自分の歌詞についてあらためて気づかされた部分はありますか?

岩里:ヒャダインさんが語ってくれた美樹ちゃんの「雨にキッスの花束を」のポイントは自分でも気づいてなかった部分でとても勉強になりましたし、雪之丞さんが(シェリル・ノーム starring May'nの)「ノーザンクロス」を選んでくれたことも意外だったんですけど、何より彼が中川勝彦さんの「Skinny」をほめてくれたことが、倒れそうなぐらい嬉しかったです(笑)。

 「Skinny」の詞は私がまだ20代の頃に書いたものなんですけど、その後の今井美樹さん以降の詞は、自分自身が楽曲を解釈して「こう書こう」と思って書いてるから自分でも把握できてるけど、それ以前の仕事についてはまだ新人でわからないことだらけだったので、自分で語ることができないんですね。そんな時代に書いた歌詞を取り上げて分析してくださったことが嬉しかったし、中川さんはロックアーティスト、曲を書いたのも白井良明(ムーンライダーズ)さんで、この曲自体がロックだから、もしかしたら私の本質はそういうところにあるのかもしれないですね。

――今後、またトークセッションを行うとしたら、岩里さんはどんな人と対談してみたいですか?

岩里:くるり、クリープハイプなど大好きなバンドもたくさんいますが、思いっきり若手のバンドとかに話を聞いてみたいですね。若手の面白い楽曲に触れるといつも「すごい!」って思うし、その感動で自分の詞が書けたりするんですよ。それは例えば面白い映画を観た時に興奮して歌詞を書きたくなる時と似てるんです。息子が平成3年生まれなんですけど、そのさらに下の世代の人たちは、なんか方程式が違う気がするんですよね。つい最近だとOfficial髭男dismの曲を聴いて「おーっ!」と思いましたし、あいみょんとかyonigeとか平成生まれの人たちは「どうなってるんだろう?」と思うぐらいで(笑)。そういう自分にとって違和感を感じる人はいっぱいいるから、お話を聞きたい人はいくらでもいますね。

――めちゃくちゃ面白そうなのでぜひ実現を期待しています。最後に、今回の書籍『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』を、どんな人の手に取ってもらいたいかお聞かせください。

岩里:これは詞を書きたい人や作詞家になりたい人に向けて作ったわけではなくて、作詞という仕事で一生懸命生きてる人たちの生き様、私たちが日々どのように自分の仕事と向き合って生きてるのかを語ってる本だと思うんです。専門書や指南書では全くないし、そういう意味では仕事を持って生活している全ての人に読んでほしいですね。

――それに加えて、本書ではいろんな作詞家の方がそれぞれの視点で歌詞の読み解き方を語られているので、我々が音楽を聴く際に歌詞をより深く楽しむためのヒントもたくさん盛り込まれているように感じました。

岩里:一番最初に言った通り、詞は一面ではなくいろんな側面を持っていて、書いた本人も気づかないことがあるんです。なので、この本には載っていない感じ方もあると思いますし、逆にそういうものを教えてもらえたら私たちもうれしいですね。

(取材・文=北野 創)

岩里祐穂『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』

■書籍情報
『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』
著者:岩里祐穂
11月28日(水)発売
発行・発売:blueprint
ISBN:978-4-909852-00-7 C0073

価格:2,000円+税
判型・頁:四六判・256頁

全国書店/岩里祐穂公式サイトAmazonなどで販売中

■岩里祐穂(いわさと・ゆうほ)
1980年シンガーソングライターとしてデビュー。1983年堀ちえみ「さよならの物語」で作詞作曲家に、1988年より作詞に専念。1989年今井美樹「瞳がほほえむから」がランクイン50週のロングセールスを記録。ミリオンセラーとなった1991年「PIECE OF MY WISH」、1994 年「Miss You」は共にオリコン1位を獲得。以後、坂本真綾、中山美穂、新垣結衣、布袋寅泰、花澤香菜、May J. 、ももいろクローバーZ、Sexy Zoneなど数多くのアーティストに、アニメ「マクロスF」「カウボーイビバップ」「魔法使いの嫁」や「海賊戦隊ゴーカイジャー」など幅広いジャンルに詞を提供。2009年「創聖のアクエリオン」でJASRAC賞銀賞を受賞。2016年、作詞生活35周年記念アルバム『Ms.リリシスト』リリース。

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