55thシングル『だろう!!』インタビュー
中村雅俊が明かす、歌と芝居に通じる表現の核「いろんなファクターがそろって形成されていくもの」
「他愛もない歌が特別な歌に変わった」
ーー新曲を披露されるときっていうのは、お客さんの反応は気になりますか?
中村:気になりますね。ステージの上で歌いながらお客さんの顔を見てると、喜んでるなーとかウケてるなーとか、表情ですごいわかるんですよ。暗闇の中でも、良い感じで聴いてくれるなっていうのは、空気感でわかりますよね。
ーー私もときどき経験するんですけど、ライブを観たあとに、アーティストの方とお会いして、今日はすごい良かったですねって言っても、今日はいまいちだったねとか。けっこう一致しないことが多いんです。逆に、音楽家が良くできたと思っても、お客さんはそうでもないとか。あれ何なんですかね。
中村:何ですかね。けっこうあるんですよ。ただ冷静に考えてみると、おおまかにはそんなに悪くないんですよ。やっぱり細かい部分で、あそこのところ、実はこうだったとか気になっちゃう、というのはあるかも。
ーー良かったからこそ。
中村:そう。でもエモーション的には届いてるんですよ。ただほんの少しミスがあっても、気持ちがずっと持続してると大丈夫だったりするんです。たとえ歌詞が出てこなくても、その歌の世界とかエモーションを持続してれば全然おかしくない。
ーー中村さんが歌われるときに一番大事に考えられてるのはそこだということですね。
中村:そうですね。気持ちを伝える。だからこそ、感動したりするのかと思う。とにかくテーマは、幕が降りてお客さんが帰るときに、やっぱり笑顔で「今日は来て良かった」っていうそういう気持ちで帰ってほしいっていうのはあるので。
ーー気持ちを伝えるために一番大事なことってなんですか?
中村:こっちが提供する側の気持ちを作ることと、メリハリ。歌に入ったら、ちゃんとその世界に入って、MCはMCでちゃんとして。自分なりの気持ちを作ってパフォーマンスをするんだけど、受け手側は千差万別というかね。いろんなリアクションをしてくれる。映画なんかで見どころは?って訊かれて、「こう感じてほしい」みたいに言うでしょ。送り手の気持ちはそうかもわからないけど、受け手側っていうのはいろんな感じ方をする。歌の世界もそう。歌というのは本当に、聞き手側の心の状態だとか、そのときの環境だとかで受け取り方が全然違ったりする。でもそれが歌だと思ってるので。
ーーその通りですね。
中村:東日本の震災があって、避難所へ行って自分の歌を歌ったときに、いろんな人がいろんな感じ方をするんだな、と実感したんです。俺、大学時代に「私の町」っていう自分の田舎の歌を作ったことがあるんですよ。ただ地元の景色だけを歌ってる歌なんですけど。トンネル出るとすぐ電車のホームがあって、ホームを降りて行くと、港があって……他愛もない詞の羅列なんですけど。そういうなんでもない歌が、震災直後に瓦礫だらけになった被災地で歌うと、特別な歌になるんですよ。それを聴いてる人たちが、今はもうないその景色を、俺の歌の歌詞を聴いて思い出す。頭に映像が浮かぶ。そういえば、そうだったよねって。駅があって駅舎があって、船があって、という景色が。その瞬間から、自分の他愛もない歌が特別な歌に変わったなと思って。歌って、本当にそういう素晴らしい力がある。それをすごく感じましたね。
ーー歌われるとき、中村さんの個人的なバックグラウンドとか、気持ちみたいなものっていうのは、そこに入って来るんですか? それとも役者のように、あるドラマを設定して演じるのか。
中村:それが不思議なんですけど、曲によってです。曲によって、これ俺だよって。そこまで思わなくても、主人公がだいたい浮かぶようなものもあるんですよ。あと、まったくの無心で歌うこともあります。どういう歌い方するとかも思わず、ホントに無心で歌うものもある。
ーーそうしたほうが良いと思うからですか?
中村:いや、それすらも考えないで、ただ歌ってる。たぶんそういう、ただ歌ってる瞬間ていうのはあると思いますけどね。インテンションなしに。
ーー歌と自分の心が完全に一体化してる。
中村:してると思う。何も考えずに詞も出てくるし。
ーーそれは良い状態なんですね。
中村:そうだと思いますね。現に、次の歌詞なんだっけ? って思ったときは、絶対に間違えるし、上手い表現はしてないですよね。スポーツなんかもそうだろうけど、無心でやってるときが、表現やパフォーマンスとしては素晴らしいんじゃないかと思います。
ーーなかなかその境地って行けないものですか?
中村:行けないような気がしますね。今回(のツアー)は26曲歌ったんですけど、何も考えずにただ歌ってるっていう時間がありますもんね。
ーー歌い手が何も考えていない無色透明な状態のほうが、お客さんが、自分の個人的な思い入れを投影できるのかもしれないですね。
中村:たぶん無心で歌ってるときがベストか、とても良い状態だと俺は思ってますけどね。
ーー大衆に支持される曲というのは、聞き手それぞれが「これは自分の歌だ」って思えるような曲なのかもしれません。中村さんがご自分の故郷の歌を歌った歌が、震災後の人たちに響いたというのは、まさに「これは自分の歌だ」と思えたから。
中村:そうですね。自分が住んでた町そのもの。たぶんどこかになにかしらの接点があるっていうことですよね。
ーーそれは作り手側が意図して設定できるものでもないわけですよね。
中村:意図してもいろんな受け取り方をされるから。送り手としては、自分たちはこういう表現をしたいんだってことでいいんじゃないかな。今回で言えば、バラードじゃなくてアップテンポの曲で行こうと。詞の内容は「だろう!!」に象徴されるように人に対する応援歌というか、メッセージをささげる歌にしようとか。でも聞く人は自由に受け止めてもらっていい。
「歌に関しては、ずーっとライブを続けていたい」
ーーご自分の書いた詞をシングル曲で出したいとは思わないですか?
中村:曲はともかく、詞って大変なんですよ。曲はワンコーラス作れば良いのに、詞だとツーハーフとか、へたしたら3番まで作らなきゃいけない。心して詞を作るぞ! って思わないとできない。それに比べると曲はなんとなくできちゃいますね。
――今まで役者でいろんな台本を読んできて、良い言葉がいっぱい入ってるわけじゃないですか。
中村:入ってるようで、入ってないよね。そうそうずっと覚えてるセリフはない。書き留めていれば別ですけど。デビューのときのセリフは覚えてますけどね、なぜか。確かにセリフで良い言葉はいっぱい言っていますね(笑)。
ーーそのセリフでみんな泣いたり感動したりしてるわけじゃないですか。
中村:ホントだよね。だけど、やっぱり詞は自分には難しいんだよね。
ーー役者経験は作詞家としての役にはあまり立たないということですか。
中村:大学生のときに作った曲がレコードになったときは、俺の人生でも大変なできごとでしたけどね。あんな日記みたいに作ってた曲なのに。
ーーそういう日記みたいな曲でも、歌われると非凡なものになる。些細な日常でも、それが歌われると非日常として響くっていうのは歌の良いところかなと思います。
中村:そうだね。自分ではちょっと幼稚だな、稚拙だなと思っても、聞き手がいろんな解釈をしてくれるっていうのはある。
ーー今回の曲を出されて、コンサートツアーもやられると思います。以前インタビューさせていただいた時は、もうすぐライブ1500本に到達するというお話をしましたが、将来の目標や達成したいことは?
中村:歌に関しては、ずーっとライブを続けていたいですよね。やっぱり歌うことって、大変なことなんだと思うと同時に、素晴らしいなと思うので。今の延長で、ライブをずーっと続けていられたら、本当に幸せだなと思います。もともと役者がひょんなことで歌を出すことになって、コンサートもやったら、結局43年間も続けてやってるっていうのは、ある種特別なものを感じるんで。
ーー来年はデビュー45年周年ですか。すごいですね。
中村:ええ。来年明治座で。45周年アニバーサリーで、第1部芝居、第2部ライブという公演を行います。
芝居は鴻上尚史さんが初めての時代劇を初めての明治座で手掛けられるという事でとても楽しみにしています。
ーーお話はもう決まってるんですか?
中村:鴻上さんを中心に脚本作りの最中です。笑あり涙あり面白おかしく、でもすごくメッセージがあって、これぞ中村 雅俊! みたいなそういうものを考えてます。
(取材・文=小野島大/写真=堀内彩香)
■リリース情報
中村雅俊『だろう!!』
発売中
価格:¥1,000(+税)
<収録曲>
M-1 だろう!!
東建コーポレーション イメージソング
作詞:松井五郎 作曲:都志見隆 編曲:大塚修司
M-2 千年樹
刀剣ワールド イメージソング
作詞:松井五郎 作曲:都志見隆 編曲:大塚修司
M-3 だろう!! カラオケ
M-4 千年樹 カラオケ
■公演情報
明治座『中村雅俊アニバーサリー公演』
2019年7月6日(土)~7月31日(水)(予定)
■関連リンク
中村雅俊オフィシャルHP
中村雅俊 日本コロムビアページ