『温泉むすめ』プロデューサー橋本竜が語る、メディアミックスと地方活性化における“音楽”の重要性

『温泉むすめ』Pが語る、音楽への情熱

『温泉むすめ』独自の音楽の強み

温泉むすめ『SPRiNGS 2nd LIVE “NOW ON☆SENSATION!! Vol.2” ~聖夜にワッチョイナ!!~』の模様

ーーそんな『温泉むすめ』において、音楽はどういう位置づけにあるものなのでしょうか?

橋本:やはり出発点として『ラブライブ!』や『THE IDOLM@STER』のようなアイドルコンテンツをめざしていたので、プライオリティーで言えば最上位に置いています。『温泉むすめ』は人間ではなくて温泉の神様という設定で、その最上級神であるスクナヒコ(CV:水樹奈々)から「温泉と同じように人々の心を癒して沸かせること」というミッションを言い渡されて地方を盛り上げる物語なので、特に人を沸かせるライブは重要な要素だと考えています。ですので初期投資の面でも、実はキャラクターよりも音楽やライブのほうに費用をかけたんですよ。それと広い視野で考えると音楽は国境を越えるものだと思うんです。『温泉むすめ』では和楽器を使った曲を多く作ってますが、幅広いジャンルの楽曲を制作しつつも、ベースの“和”の部分はなくさずにいることで、外国の方が音を聴いただけで日本や『温泉むすめ』の良さを感じてもらえるよう、海外市場も視野に入れて作ってきた部分もあります。

ーーいわゆる2.5次元系のアイドルコンテンツは多様化を極めていますが、その中で支持を得るために工夫されてることは?

橋本:先ほどお話したように『温泉むすめ』はライブにとことんこだわっていまして、衣装はAKBグループの衣装を全て制作されているオサレカンパニーさん、ダンスもいろんなアイドルの振り付けをされてる西田プロジェクトさんに、オーダーの段階から細かいコンセプトを伝えて作っていただいてるんです。楽曲が良くても衣装やダンスのクオリティーが低いと観ている人は作品に共感できないと思っていまして。ダンスに関しても声優さんの事務所からは「あまりフォーメーションは動かないようにしてください」とお願いされるのですが、「ライブのクオリティーを高めるためにここまでしたい」というお話をさせていただいて、最終的には納得していただくこともありまして。

ーーとにかくお客さんに良いものを見せたいと。

橋本:はい。例えばSPRiNGSの「純情-SAKURA-」という曲はフォーメーションや立ち位置の変化が複雑で、一般的なアイドルさんの曲よりも難しい曲かもしれません。声優さんにここまで高いレベルのパフォーマンスを求めるコンテンツはあまりないと思いますし、目に見えるところすべてに対してクオリティーを妥協しないところが『温泉むすめ』の一番の工夫かもしれないですね。

『SUMMER SONIC 2018』に出演

ーーライブと言えば、今年の夏に開催された音楽フェス『SUMMER SONIC 2018』に『温泉むすめ』からSPRiNGSとpetit corollaが出演して話題になりました。

橋本:実は昨年末に行った『温泉むすめ』の2ndライブ(『NOW ON☆SENSATION!! Vol.2” 〜聖夜にワッチョイナ!!〜』)をサマソニ関係者がご覧になられて、そこでお声がけいただいたんですよ。2日連続で出演させていただきましたが、反応も上々でした。やはり皆さんが言われるのは「声優のライブとは思えない」ということなんですが、声優さんは歌えるし、踊れるし、トークもできて、さらに役にもなりきれる。そういう新しい魅力と可能性が声優さんにはあると思うんですね。

ーーSPRiNGSは『温泉むすめ』の中心的グループですが、彼女たちの音楽的なコンセプトはどういったものでしょうか?

橋本:SPRiNGSは『温泉むすめ』で一番最初に立ち上げたグループなので、まず王道のアイドルソングという軸はありながら、「ジャンルに縛られない」ということは決めていました。それと一般的なコンテンツの場合は、まず作品があって、それに紐づく楽曲を声優ユニットに歌わせる流れが普通だと思います。でも我々はまず曲が先行して、その後から作品がついてくる流れを想定していたので、楽曲ごとにアプローチを試しながらお客さんの反応を見て作っていった部分はあるかもしれません。そういう意味では、特に初期の作品には試行錯誤の歴史がありますし、ひとつひとつの楽曲が実験という面が大きかったかもしれないですね。

『温泉むすめ』3rdライブの模様

ーー一曲一曲が今後の指標になるような作り方というか。その「青春サイダー」を含む1stミニアルバム『ユノハナプロローグ』に続き、2ndミニアルバム『追憶カレイドスコープ』ではメンバーを3人ずつに分けたグループ内ユニット、しゃんぷーはっと、雪月花、SPicAの3組による楽曲も登場しました。

橋本:それらのユニットは声優さん自身がそれぞれ持ってるポテンシャルを考えつつ、キャラクターソングの枠に捉われないものを作ろうと思って考えました。特に雪月花の「SILENT VOICES」は3声のハーモニーを一人ずつパートを分けて歌ってもらったんですが、その手法は後のAKATSUKIの楽曲にも活かされていまして。“しゃんぷーはっと”も「ひたすらかわいいを目指したらどうなるか?」というテーマで作り、それは後にpetit corollaに進化しましたし、ライブ会場を盛り上げることに特化して作ったのがSPicAの「おはようジャポニカ」なんです。可能性の塊であるSPRiNGSで大きな実験を行うなかで、さらに細かな実験をユニット曲で行って、そこで「これはいける!」と確信を持てた部分が次の曲に繋がっていたりします。

ーーさらにその後、SPRiNGSのライバルグループとして、AKATSUKI、LUSH STAR☆、Adhara、petit corollaの4組が次々とCDデビューしました。

橋本:最近よく「多様性」というキーワードを使っているのですが、立ち上げの段階で間口を広げてコンタクトポイントを増やしたいと思った時に、せっかく112人のキャラクターがいるのに音楽活動をしてるのがSPRiNGSだけだとファン的にも物足りなさを感じてしまう。そもそも全部で3,000の温泉むすめがいる設定なので、最初の設計の段階からいろんなグループが自然と生まれるストーリーだったんです。今後は作品の中でアイドルグランプリというトーナメントを開催する予定なのですが、そこでの対戦相手が必要になりますし、お互いを認め合うライバルと切磋琢磨するという意味でも、SPRiNGSの最強のライバルグループとしてAKATSUKIがいて、さらにAdharaやLUSH STAR☆、petit corollaなどがいるということですね。

『SPECIAL YUKEMURI FESTA in 別府』のライブ模様(AKATSUKI)

ーーそれがコンテンツ自体の広がりにも繋がりますし。

橋本:そうですね。それこそAdharaの楽曲を入り口に『温泉むすめ』のファンになってくださった方もたくさんいらっしゃって。そういう意味では声優やコンテンツの部分だけではなく、音楽や楽曲の多様性を武器に幅広くファンを取り込んでいきたいですし、それらひとつひとつがファンを取り込めるきっかけになればと思うんですね。

 なおかつ、そうすることで他のコンテンツが追随できないところまで広げていくのが我々の目的でもあるので、点ではなく面で攻める戦略は間違っていないと信じたいと思っています。

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