AA=の挑戦と闘いはまだまだ続く 10年間の完成形と原点みせたアニバーサリーライブ

AA=の挑戦と闘いはまだまだ続く

 上田剛士のソロユニット、AA=のデビュー10周年を記念してのアニバーサリーライブである。10年前の10月20日にAA=はシングル『PEACE!!!』でデビューした。その当日にライブをやると発表されたのは、再録ベストアルバム『(re:Rec)』のツアー初日の新宿ロフト(今年5月2日)だった。その時、上田(Ba/Vo/Prog)、白川貴善(Vo)、児島実(Gt)、草間敬(Manipulator)に加え、ふだんは揃うことのない金子ノブアキ、ZAX、YOUTH-K!!!という3人のドラマーが一同に会するライブになるのではと直感したが、結局ライブの内容や参加メンバーについては事前に全貌がアナウンスされることなく、当日を迎えたのである。

 開演前。ステージには幕が下りていてセットを観ることができない。いつも通りベートーベンの第9がオープニングで流れると、いきなり場内は沸騰し、ステージ前中央あたりのフロアに過熱した客が殺到し折り重なってたちまち小山のようにモコモコと盛り上がったのは笑った。まだ幕が上がってもいないのにブチあがりすぎ、である。

 しかし場内が暗転し幕があがってステージの全貌が明らかになると、冷静を気取っていた私もアッと声を上げた。一段高くなったステージ後方の台には3人のドラマーがずらりと並んでそれぞれのドラムセットを前に鎮座し、1stアルバム『#1』のオープニングナンバー「4LEGS GOOD, 2LEGS BAD」の荘厳なイントロに続いて、一斉にドラムをプレイし始めたのである。向かって右からZAX、金子ノブアキ、YOUTH-K!!!が渾身の力を込めてヘビーなリズムを叩き出す。そのインパクトは見た目も音も強烈で、トリプルドラムの音圧の凄まじさと迫力に圧倒されてしまった。想像を超える鮮烈なオープニングに、こっちもブチあがる。

 このあとZAXとYOUTH-K!!!が引っ込んでドラムが金子1人になって5曲、続いてZAX、そしてYOUTH-K!!!とドラマーが交代していく構成でコンサートは進行したが、バンドの勢いとハードな疾走感は全く変わらない。3人ともパワフルでエネルギッシュなドラマーだが、グルーブと繊細さも兼ね備えた金子、エモーショナルで情熱的で人間味さえ感じさせるZAX、テクニカルで手数が多くタイトなYOUTH-K!!!と、こうして聞くとそれぞれの個性は明らかだ。アンコールでプレイされた、上田剛士がサンプラーから叩き出すビートと3人のドラマーが丁々発止でやりあう「BATTLEFIELD」は圧巻だった。

 ドラマーの派手な競演に目を奪われがちではあったが、この日のライブはAA=の10年間のある種の完成形であり集大成でもあった。徹底してヘビーでラウドなデジタルハードコアでありながらも、AA=の出発点には「全ての動物は平等である(All Animals Are Equal)(AA=)という明確なメッセージ(というよりは信念)があり、それを的確に伝えるための様々なストーリーやドラマが用意されている。10年間をかけて成熟してきた表現が、彼らの音楽をより深く内面的なものにしている。特に震災以降は自らの音楽によって、傷ついた人々、バラバラになった人々と繋がりたいという強い思いも加わって、ただ暴れて騒ぐだけはない内省と、暴力、差別、搾取、環境破壊など、生きものとして生きる権利を疎外し抑圧するものすべてと戦う姿勢を強めている。それは、直裁にメッセージを投げつける曲だけでなく、たとえばドラマティックで美しいメロディと、〈People, Stand Up / Never forget〉という簡潔だが強い意思をもった「Dry your tears」のような美しい曲にも凝縮していたりする。明確なストーリーを持たない言葉少なな曲だけに、その悲しみや喪失を乗り越えようとする深くエモーショナルな表現は胸を打った。AA=の曲がどんなにハードでヘビーでラウドであっても、決して過剰にマッチョになったりむやみに暴力的にならず、むしろ物静かで中性的と思えるほど、しなやかで知的でスマートな感触すらあるのは、そういう理由もあるはずだ。

 そうしたAA=の「エモさ」は、「この思いがいつか届くことを願ってます」というMCのあと、思いもかけぬ上田のアカペラで始まった「HUMANITY2」で頂点に達した。タイトルといい、歌詞といい、上田剛士を昔から知る者にとっては深い感慨を覚えずにはいられない名曲だが、この日のあまりにエモーショナルなプレイは、いつにも増して心揺さぶられるものがあった。誰よりも上田自身が「あの時の夢」を、今でも信じている、信じていたいという思いの表れではないかと、そう思えてならなかったのだった。

 ブラストビート、炸裂するリフ、溢れ出るエネルギー、地を這うベース、壮大な景色を描き出すシンセサイザー、止むことのない強固な意志。そんなAA=の過去と現在、そして未来を鮮やかに描き出した新曲「SAW」が最後に演奏され本編は終了。

 アンコール最後は1stアルバム『#1』から「FREEDOM」、そしてデビュー曲「PEACE!!!」。『#1』に始まり『#1』に終わる構成は、彼らの原点がそこにあり、いつでもそこに戻ってこられるという意思表明だ。AA=を始めた動機、理由、情念……それを決して忘れはしない。だが自分たちの挑戦と闘いはまだまだ続く。成熟し完成の域に達していながらも、さらに殻を破って突き抜けていきそうなサウンドの、なんという瑞々しさとエネルギー。オレたちのゴールはまだ当分先だ、そう上田たちは宣していたのだ。

(写真=西槇太一)

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

AA= オフィシャルサイト

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