作詞家 zoppに聞く、“泣き歌”の歌詞に欠かせないこと 「絶対に取り返せない喪失感が大事」

作詞家zoppに聞く“泣き歌”に欠かせないこと

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、“比喩表現”、英詞と日本詞、歌詞の“物語性”、“ワードアドバイザー”としての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。

 第18回目となる今回は、zopp氏が出演した9月30日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)のテーマだった“男女別泣ける歌”についてインタビュー。“泣ける歌”に重要なポイントや、国民的ヒット曲に必要な要素、職業作詞家とシンガーソングライターの違いなどについてじっくりと話を聞いた。(編集部)

『関ジャム 完全燃SHOW』男女別泣ける歌ランキング

男性              女性
1位:3月9日「レミオロメン」    1位:DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」
2位:ゆず「栄光の架橋」       2位:スキマスイッチ「奏(かなで)」
3位:秦基博「ひまわりの約束」  3位:HY「366日」
4位:藤井フミヤ「TRUE LOVE」 4位:ゆず「栄光の架橋」 
5位:山崎まさよし「One more time,One more chance」 5位:米津玄師「Lemon」
6位:福山雅治「家族になろうよ」  6位:平井堅「瞳を閉じて」
7位:オフコース「言葉にできない」 7位:プリンセス プリンセス「M」
8位:レミオロメン「粉雪」     8位:一青窈「ハナミズキ」
9位:Kiroro「未来へ」       9位:シャ乱Q「シングルベッド」 
10位:Mr.Children「終わりなき旅」 10位:宇多田ヒカル「花束を君に」

「間接的な表現にすることによって、聴いてもらえる対象が広がる」

ーー今回zoppさんが出演された『関ジャム 完全燃SHOW』の「泣き歌」ランキングは男女別に集計されていましたね。

zopp:以前の『関ジャム』の結婚式ソングでは、男女混合でランキングを作成しました。その時にいしわたり(淳治)さんが「乾杯」(長渕剛)は男性の票が多いのでは? と言っていたのもあり、番組制作スタッフとも男女で分けたら面白いのでは、と今回はランキングを男女別にしたところ、明確に傾向が分かれましたね。ランキングを見ると、女性の方には2010年代後半の曲がありますが、男性は2000年代ぐらいが最後なんです。女性は流行の音楽に敏感だな、と改めて感じました。

ーーそんな中でも女性のランキングにはプリンセス プリンセスの「M」や、DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」といった往年の名曲もランクインしていました。

zopp:やはり名曲は親世代から子供へと聴き継がれているんでしょうね。「M」はイニシャルなので、好きな人が「Mさん」じゃなかったら、共感しづらいように感じますが、逆に考えると「M」さえ他の文字に変えてしまえば、誰でも共感できる曲なのかもしれません。ちなみにランキングの中で、タイアップがなかったのも「M」くらいでした。映像と一緒に記憶に残るので、タイアップも音楽には欠かせない要素になっていると改めて感じます。

ーー「LOVE LOVE LOVE」のような“嬉し泣き”と、山崎まさよしさんの「One more time,One more chance」 のような“悔し泣き”で使われる言葉に違いはありますか。

zopp:嬉し涙、悲し涙にそこまで大きな差はないと思います。ただ、番組でも触れましたが、男女には大きな違いがある。女性は感情的な要素を、男性は景色や表情を、歌詞にすることが多いと思います。一方で共通点は“喪失感”だと感じました。「できない」や「会えない」といった歌詞から、「ある」になることによってーーたいていの場合、「ある」までは描かれないですがーーたとえば新しい出会いが欲しいとか、失ったものを取り戻したい、となっていく。嬉し涙に関しても、“失いたくない”という思いもあるでしょうし。

ーー例えばどんな楽曲がありますか。

zopp:小田和正さんの「言葉にできない」はタイトルからしてそうでしょうし、平井堅さんの「瞳をとじて」も、”朝起きて君がいない”シチュエーションを描いていますよね。言えないとか、できないとか、動詞に「ない」という言葉が多く使われている。これは男女問わず、どちらのランキングにも共通していると思います。

ーーたしかにそうですね。

zopp:意外だったのは、ランクインしている中に「死」をテーマにしている歌詞が少ないこと。あからさまにもう、亡くなってしまっている状況とか、天国の君へ、というような歌詞はない。宇多田ヒカルさんの「花束」や平井堅さんの「瞳をとじて」は、登場人物が亡くなってる可能性もありますけど、でも明確に本当に亡くなった、とは書いていない。ただ、タイアップ先の作品では亡くなっているという場合は多いです。

ーーレミオロメンの「3月9日」(ドラマ『1リットルの涙』内で起用)もそうですね。

zopp:「3月9日」は面白いですね。番組でも藤巻(亮太)さんが、“サンキュー”っていう意味と、友達の結婚式の日だったからタイトルにした、と明かしていましたよね。米津玄師さんの歌詞もそうなんですが、こういう主観を入れ込むのはシンガーソングライターやバンドマンだからこそできることだと思うんですね。僕らのような職業作家がこういうタイトルをつけたり、個人的すぎる歌詞を書いたら、ちょっとエゴを出し過ぎじゃない? と思われてしまいますからね(笑)。

ーーゆず「栄光の架橋」は真逆というか、非常に普遍的な曲ですよね。

zopp:あれは全国民にフォーカスを当てている、と言っても良い曲ですね。固有名詞が出てこないですし、多くの人に受け入れられる可能性を秘めている作詞術だと思います。シチュエーションを固定すると共感度は高くなると思うんですけど、部分的な共感になってしまうので。

ーー部分的な共感、というと?

zopp:例えば、「昨日ラーメンを食べた」という歌詞だとしたら、「私も最近食べたな」って思うじゃないですか。でも「一風堂のラーメンを食べた」にすると、「ラーメンは食べたけど、一風堂は食べてないな」って思って共感しづらい。シチュエーションやものを固定しない方が、ストライクゾーンが広がるので、支持されやすいんだと思います。「栄光の架橋」は、誰にでも当てはまるワードが散りばめられているので、共感できる人が多い。また、この曲が男女ともにランクインしていたのは、女性の社会進出も大きいと思います。“夢に向かって頑張る”“上を目指す”というシチュエーションは、昔なら男性に当てはまることが多かったかもしれませんが、今は女性も社会で活躍する機会が増えたので、男女問わず共感されたんだと思います。

ーー「One more time~」も、とても個人的な曲のような印象でしたが、改めて歌詞を見ると非常に普遍的な言葉ばかりでした。

zopp:情景描写はすごく細かくて景色はリアルなんですけど、人物像はそこまで明確にはなっていない。それが山崎さんの歌詞の特徴ですよね。踏切や駅のホームなど、具体的ではありますが、誰の生活圏内にもあるものだから共感されるんだと思います。秦 基博さんやスキマスイッチさんなど、オフィスオーガスタ所属のアーティストはそういう傾向があるように思います。

ーー秦さんの「ひまわりの約束」は友情とも恋愛とも解釈できるという話がありましたね。

zopp:どちらでも捉えられるのがまたうまいところなんじゃないですかね。“愛してる”ってはっきり言ってしまうと、恋愛の歌になってしまいますが、“大事だ”とか、“支えてあげたい”といった間接的な表現にすることによって、聴いてもらえる対象や理解してもらえる対象が広がる。ヒット曲を作るという目線で考えると、重要な作詞術だと思います。

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