作詞家zoppが考える、近年の失恋ソングの傾向 「自分のことではなく“超他人事”を歌っている」

zoppが考える、近年の失恋ソングの傾向

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、“比喩表現”、英詞と日本詞、歌詞の“物語性”、“ワードアドバイザー”としての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。第16回目となる今回は、『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日系)出演時にzopp氏が話した失恋ソングをテーマにインタビュー。今と過去での失恋ソングに使われるワードやタイトルの違い、名曲に使われている手法に至るまでを聞いた。(編集部)

「今は“恋愛”の線引きも微妙に」

ーー『関ジャム』では、失恋ソングが減ってきたという話が印象的でした。

zopp:そうですね。世間のニーズがなくなってきているのもあります。そもそも今は“恋愛”の線引きも微妙になってきているじゃないですか。何をしたら恋をしているのか、何をしたら付き合っているのかが曖昧で、「付き合いましょう」とはっきり言わなかったり。そうやって何も事件が起きないと、恋愛を歌詞で表現するのがすごく難しいんです。YUIさんの「CHE.R.RY」くらいの時代はまだ分かりやすかったんですけど。特に失恋に関しては、雰囲気で付き合って雰囲気で別れる、自然消滅するとか、風化することも増えてきたので物語にしづらい。

――“恋愛”自体の変化が失恋ソングの減少につながっている。

zopp:あとは、SNSの影響も大きいと思います。以前ならフラれた方は仲の良い友達じゃないと失恋のことを話せませんでしたが、SNSなら匿名で「こんなことがあった」とつぶやけば、同じく匿名の人たちが「あるよね」と共感してくれるので、傷つくことや恥ずかしい思いをすることが減ったんでしょうね。だから無理に昔ながらの恋愛を描いても浮世離れして聴こえてしまって、リスナーもしっくりこない。

ーー最近の失恋ソングの傾向はどんなものなのでしょう。

zopp:今は個人主義という傾向があるかもしれません。そして、そういう楽曲がタイアップはじめテレビで大きく取り上げられたときにまた共感する人が増えていくんだと思います。例えば西野カナさんは、友だちの話を歌詞にしていると聞きました。それって、回り回って「M」(プリンセスプリンセス)と同じなんです。「M」も富田京子さん(Dr)の話を岸谷香(Vo)さんが曲にしたそうなので。そう考えると個人主義を通り越えて、超他人的なものに変わりつつあるのかもしれません。人の話を聞くと感情が湧く一方、自分が失恋したり、恋をしても感情が動かなくなってきている。だから周りの話を参考にしているというのもあるのではないでしょうか。

――最近印象的だった失恋ソングは何かありますか。

zopp:蔦谷(好位置)さんがあいみょんさんを褒めていたのもすごく分かる気がして。彼女はまず声が良いですし、自分のことを歌っているのかと思いきや、他人の恋愛を歌詞にしていて。俯瞰で見ているがゆえに、冷静に共感する人が多いんだと思います。主観が強過ぎると特定の人しか共感できなくなってしまうんですけど、客観的なので広い層にハマりやすくなる。米津玄師さんも「Lemon」をはじめ、喪失を感じさせる歌が多い。あとはRADWIMPSやback numberも失恋ソングが多いですよね。西野カナさんは現代女子の指南書だと思っていて。「トリセツ」ではファンの人たちのエピソードを聞いて、歌詞に取り入れたりしていましたが、やはり自分が前に出るのではなくて、周りのものを吸収して表現しなきゃっていうマインドに変化しつつあるのかな、と。西野さんはもちろん、back numberや米津さんもそうなんですけど、ドラマや映画の主題歌となると、原作や脚本をモチーフにすることになる。つまりある意味では、自分のことではなく“超他人事”を歌っているとも言えますよね。

――タイアップの失恋ソングを書くとき、シンガーソングライターの方とzoppさんのような専業作家の方で違いはありますか。

zopp:失恋ソングではないですが、以前、『ONE PIECE』の映画の主題歌としてNEWSの「サヤエンドウ」という曲の歌詞を書いたとき、過去の『ONE PIECE』の曲の歌詞をすごく研究して。なるべく被らないように、というのを意識しましたが、多分、シンガーソングライターの方はそこまで気にせずに、物語に自分の感情や体験を合わせて書いたりすると思います。

――失恋ソングに使うワードのバラエティは変化しているのでしょうか。

zopp:失恋ソングが減っているので、言葉のバリエーションも減っていると思いますね。以前は通信手段が一つの大きなキーワードだったんですよ。曲で言えば「ポケベルが鳴らなくて」(国武万里)もそうですが、公衆電話で電話をかけているけど繋がらない、受話器を置いたら10円玉が落ちてくるというような描写もその時代ならでは。その音に物悲しさを感じたりもするじゃないですか。それが携帯電話からスマホ、iPhoneに変わり、今はLINEに変わり……おそらくLINEやiPhoneって、固有名詞すぎて歌詞に出しづらいと思うんですよね。

――もしかしたら今後、「ブロックする」なども失恋ソングに重要なワードになるかもしれませんね。

zopp:既読無視恋愛とか(笑)。でも“スマホ”というのもまだしっくりこないというか、「スマホを忘れた」と言うよりはつい「携帯を忘れた」と言ってしまう。最近はスマホで電話せずにチャットやLINEで仕事も連絡も恋も済ませちゃう、みたいな感じになってきて、むしろ電話されるとちょっと引くという人もいる。電話がない時は会いに行かなきゃいけないし、電話がメインの時には長電話していた。メールやLINEはは少し前に書き溜めたものを一気に送ることもできますけど、すぐに終わってしまうので、便利なんですけど、そこにあまり感情はないなって。感情を表現するのが芸術やエンターテインメントだと思うので、それがなくなるとつまらなくなってしまう気がしますね。

――反対に、昔も今も使われ続けている失恋ワードはありますか。

zopp:昔から、天気は変わらない事象ですよね。悲しいと雨が降りますし、嬉しいと晴れますし、不安だと曇る。そういう決定的なイメージがあると思うので、今後も失恋の歌では欠かせないワードなのかな、と。感情をそのまま表現するとまっすぐすぎるので、季節や気候で自分の気持ちを代弁してもらうのが良さなんだろうなと思います。僕もテゴマスの「アイアイ傘」という曲の歌詞で、天気をモチーフに使ったことがあります。失恋というより意気地なしな男の子を描いた曲でしたけど。相合傘ってすごく密接な空気感じゃないですか。すごく近くで会話できますし、音がうるさいからこそ聞き耳を立てたり、口元を近づけて話さないといけない。そういうシチュエーションの歌詞だと雨が降っている意味もありますが、『関ジャム』でも言ったように何となく物悲しさを演出したくてとりあえず雨を降らせる曲も多いんですよね。ただ事実を書いているだけというか。

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