ゲーム音楽の巨匠・植松伸夫、創作活動一時休止が海外でも話題に 『FF』を軸に功績を振り返る
また、植松氏が手がけるゲーム音楽の特徴について、tom2氏は次のように分析している。
「私は作曲はしないため、あくまでもDJとしての感想となりますが、植松さんの音楽は“足していける”曲が多いという印象です。スーパーファミコンまでの音楽で言うなら、当時のハードウェアの制限による音の少なさに起因する部分もありますが、良い意味で余白のあるプログレッシブロックな楽曲が多く、クラブミュージックへの親和性を高く感じています。
特にベースの使い方が非常に秀逸で、キック(ビート)を足すだけで立派なクラブミュージックになる。有名な曲では『FF』のⅠ~Ⅵまでの戦闘曲のイントロ「ララララララソソ」や、俗に言う「デデデデベース」(『FF』レジェンズの作曲を担当した水田直志氏命名と言われる)は、この8音だけで『FF』の戦闘曲と言わしめるほど。同じくワンフレーズで耳に残る曲は『スーパーマリオブラザーズ』のイントロくらいかなと思います。私の好きな曲は『FFVI』のボス戦の曲(「決戦」)なのですが、主旋律がありながらベースでさらにメロディを重ねるというのがまさにプログレッシブ。ボスに立ち向かうというシーンと相まってより一層印象深い楽曲です。
ほかにもクリスタルのテーマ(「プレリュード」)は、「ドレミソ」の音階を上がって下がるだけなので、簡単にカバーできます。また『ドラゴンクエスト』の序曲のイントロのように耳に残るフレーズでもあるため、老若男女、国境を超えて印象に残りやすかったのではないでしょうか。『FF』がここまで世界中で愛されるタイトルになったのは、ゲームの内容もさることながら、植松さんの音楽も大きな一因を担っていると感じます」
活動休止を発表する前のインタビューで、植松氏は「60歳になったらギャラのための音楽制作は止めて、自分の作りたい音楽と、作りたい文章と、あと最近公演とかのお話がいくつかあるんで、その3つに絞っていこうかなと思って」(引用:ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない” /エンタメステーション)とコメントしていた。2019年3月に60歳を迎える植松氏。まずはゆっくりと休養をとって、万全の体調を整えて欲しいと願うばかりだ。そして、植松氏が“作りたい音楽・作りたい文章・公演”を生き生きとする姿を見る日が来るのを楽しみに待っていたい。
(文=戸塚安友奈)