映画『デッドプール2』、劇中曲から伝わる“80’sポップソングへの歪んだ愛” 宇野維正のサントラ解説

『デッドプール2』サントラを解説

 銃弾のシャワーが降り注ぐ中、椅子に手をついて海老反りするデッドプール。2018年2月、『デッドプール2』全米公開の3カ月前に公開された先行ビジュアルは、1983年に公開されて世界中で大ブームとなった『フラッシュダンス』のメインビジュアル(元ネタではもちろん銃弾のシャワーではなく普通のシャワーだが)のパロディだ。映画のために書き下ろされたポップソングをコンパイルしたサントラブームの先駆けとなり、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーにとって出世作(『フラッシュダンス』の勢いにのって『ビバリーヒルズ・コップ』や『トップガン』が生み出された)となり、ここ日本でもエアロビクスブームを加速させた『フラッシュダンス』。現在40代以上ならば記憶にしっかりと刻み込まれている(『デッドプール』の主演・製作・共同脚本のライアン・レイノルズは41歳。ちなみに2008年に『フラッシュダンス』のメインテーマ「WHAT A FEELING」をカバーした安室奈美恵も同年代だ)そのビジュアル(のパロディ)は、そのまま『デッドプール2』のサウンドトラックのアートワークとして使用されている。

『「デッドプール2」オリジナル・サウンドトラック』

 もうかれこれ10年以上にわたって、80年代のポップソングやポップカルチャーへのオマージュは、映画、音楽、ファッションにおける世界的トレンドとなっている。つい最近の作品だけでも、スティーブン・スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』は全体が日本のポップカルチャーも含む80年代リバイバルの一大絵巻のような映画だったし、『デッドプール』シリーズと同じアメコミ原作映画でも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズが徹底的に80年代ネタが散りばめていることはよく知られている。ただ、それらの作品におけるいわば無邪気な80年代オマージュと、『デッドプール』における80年代オマージュの間に決定的な違いがあるということは、ライアン・レイノルズと同じ現在40代、80年代リアルタイマーの一人としてここでちゃんと釘を刺しておかなくてはいけない。

 『デッドプール』の元ネタいじりには、作中のデッドプールというキャラクターの通常の言動がそうであるように、常に悪意と毒がある。Air Supply、パット・ベネター、バーブラ・ストライサンド(サントラ未収録)、エンヤ(サントラ未収録)、Berlin(サントラ未収録)などなど、『デッドプール2』で使用されている80年代ポップソングのほとんどは、前作で象徴的に使用されていたWham!の「Careless Whisper」同様、作品の中では基本的にバカにされている。いや、そのような添加物まみれの大げさな(でも記憶にこびりついた)ポップソングに囲まれて育ってきた自分と自分の世代を、愛憎半ばする複雑な思いを込めて自嘲していると言った方がより正確だろうか。

 いずれにせよ、それはカセットテープとウォークマンという「オシャレ」なリバイバルツールを媒介として、80年代ポップソングへの一途な愛を表明し続けている『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスタンスとは対照的だ。どっちがいいという話ではなく、それは『デッドプール』シリーズが現在のアメコミ・ヒーロー映画ブームのリアクションとして世に送り出されたことからくる必然なのだ(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第1作が公開されたのは2014年。『デッドプール』の第1作が公開されたのはその2年後)。ライアン・レイノルズの不遇なキャリアの果てに掘り当てられた鉱脈にして、作中で前作に続いて『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』、『グリーン・ランタン』への自己言及があるのはもちろんのこと、つい最近の『LOGAN/ローガン』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のサノスにまで言及していく今回の『デッドプール2』は、作品丸ごとがアメコミ・ヒーロー映画の諸作品へのリアクション芸のような作品となっている。

 先に挙げた『レディ・プレイヤー1』でもオマージュが捧げられていたキャメロン・クロン監督『セイ・エニシング』(1989年)のラジカセを掲げるシーン(使用曲はピーター・ガブリエルの「In Your Eyes」)、同じく『レディ・プレイヤー1』を筆頭に『ラ・ラ・ランド』や『シング・ストリート』といった近年の作品でも80年代ポップソングの象徴として使われていたa-haの「Take On Me」。『デッドプール2』の80年代オマージュは、気が利いたレアネタを持ってくるというより、そんないわば散々コスられてきたネタに、さらなるツイストを加えてコスり倒すというスタイルで徹底されている。

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