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渡辺志保の新譜キュレーション 第14回

チャイルディッシュ・ガンビーノ、カニエ・ウエスト……ラップで“世の中を揺さぶる”新作4選

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 ヒットのサイクルがとにかく速く、破竹の勢いで個性的な若いラッパーが登場、産業規模もどんどん大きくなっているアメリカのヒップホップシーン。キャッチーなフックと派手なスタント(に見えるような行動)で自らのキャラクターを売る新人ラッパーも多い中、そうしたラッパー勢や、それを良しとする音楽業界、そして、アメリカ社会全体を揺るがすような楽曲の発表が相次いでいるようにも思います。ケンドリック・ラマーがピューリッツァー賞の音楽部門を受賞したというニュースも記憶に新しい中、ラップという表現方法を用いて、世の中を揺さぶる新譜を紹介したいと思います。

Childish Gambino – This Is America (Official Video)

 まずは、衝撃的なMVも話題のチャイルディッシュ・ガンビーノの新曲「This Is America」から。チャイルディッシュ・ガンビーノは、本名をドナルド・グローヴァーといい、これまでにコメディアンや脚本家、俳優としても活躍してきました。映画『オデッセイ』や『スパイダーマン:ホームカミング』などで気の利いた脇役を演じ、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』への出演も決まっています。あの『ブラックパンサー』においても、ライアン・クーグラー監督が、脚本のギャグ部分の監修をこのドナルドにお願いしたと言われているほど、信頼されている人物。米ケーブルTV局FXによるドラマ『アトランタ』では主演のほか、ディレクションや脚本の一部も務め、作品は大ヒット。その功績において、エミー賞やゴールデングローブ賞を総ナメした人物でもあります。

チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」

 本MVは、ガンビーノ自身が黒人男性を射殺するというショッキングなシーンでスタート。そのあとも、南アフリカに由来するダンスステップや、誇張されたガンビーノの表情、笑顔で踊る学生たちと、その後ろで起こる暴動、そしてクワイアを襲う(ガンビーノによる)二度目の銃撃など、MV中にはいくつものメタファーやアフリカン・アメリカン、または有色人種としての記号的な出来事が押し寄せます。大げさに、そして享楽的に描かれる内容は、ジム・クロウや、ミンストレル・ショー、ブラックフェイスといった、これまでアフリカン・アメリカンたちを表層的な面から搾取してきたキーワードもまた、想起されるかもしれません。

 本作品のディレクターは『アトランタ』と同じ、東京生まれの映像作家であるヒロ・ムライ。そして、このMVのクリエイティブ・ディレクターの一人であるイブラ・アキ(Ibra Ake)は、ニューヨークを拠点とするWNYCのポッドキャストでのインタビューにて、こう語っています。「僕たちのゴールは、(アメリカ社会における)ブラックネスを正常化すること。本当はこんな風にダンスをしたいけど、僕たちはその危険性と政治性について認識していなければならないし、それは僕たちが歴史上においてどんな風に扱われてきたか、という点とも深く関わりがあるということも理解しておかねばならない」(註:著者抄訳)。最後は地下のような暗い場所で、何者かに追いかけられながら、恐怖を感じさせる形相で逃げ走るチャイルディッシュ・ガンビーノの姿でMVが終わります。追いかける人々は警察のようでもあり、得体の知れない大きなシステムのようにも感じられます。チャイルディッシュ・ガンビーノ本人は、先日ニューヨークで行われたメットガラのカーペット上で行われたインタビューの際に「ただ、いい曲を作りたかっただけ。みんなが7月4日(註:アメリカ独立記念日)に聴けるような曲をね」と答えています。なお、5月5日に公開された本動画はわずか1時間で1290万回も再生され、一週間も経たぬうちに、再生回数は約9400万回(2018年5月13日現在)に達しています。この記録は、今年発表されたMVの中でもトップの再生回数だそう。

 広く議論を呼んでいる「This Is America」ですが、楽曲の中で実際に論争を交わしているのが、カニエ・ウエストが発表した新曲「Ye vs. the People (starring T.I. as the People)」です。最近、Twitter上でドナルド・トランプへの擁護発言や、保守派コメンテーターのキャンディス・オーウェンスへの強い同調を示すなど、これまでに増して超理論を展開しているカニエ。言うまでもなく、トランプ大統領は、人種や宗教、国籍、ジェンダーなどあらゆる側面からアメリカ国民(そして世界)を分断しているように見えますし、マイノリティに厳しい政策を強いていることでも知られています。

 本曲に注目してほしいのは、タイトルに冠されている“starring T.I. as the People”というフレーズ。これは「国民・民衆役:T.I」という意味で、個人的見解に基づいた超理論を論説するカニエに対して、T.Iが世論役としてそれを諌める構成を取っています。「オバマは天からの贈り物だって分かってる、でもトランプが勝ったということは、俺だって大統領になれるって証明したってこと」といったラインでスタートする本曲ですが、T.Iも「お前の自分勝手なアジェンダよりも大きな問題なんだ、これは」と諌言を続けます。この曲を発表した後も、カニエは「奴隷制は(アフリカン・アメリカンの人生にとって)選択の一つだった」と発言して、ヒップホップ界からも壮大なバッシングを受けることに。さらには“カニエ・ウエストをミュートしろ”という意味の「#muteKanye」というハッシュタグまで登場する展開まで……。これまでも、奇天烈な言動と、卓越したアーティスト性によって注目を集めてきたカニエ。現在、6月1日に新アルバムを発表すると告知されていますが、今回ばかりはかなり危険なネガティブ・プロモーションになっていると言わざるを得ません。

      

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