小野島大の新譜キュレーション 第16回
Oneohtrix Point Neverの新アルバムはボーカルにフィーチャーした傑作に 小野島大の新譜10選
2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜からめぼしいものをピックアップします。
さて発売は5月25日と一カ月も先ですが、本連載の更新タイミングもあり、今回真っ先に紹介したいのはワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)の2年半ぶりの新作『Age Of』(Warp Records/Beat Records)です。これが期待以上の素晴らしい傑作に仕上がりました。ジェイムス・ブレイクがミックスを担当しキーボードでも参加しているほか、アノーニ、イーライ・ケスラー、ドミニク・ファーナウなど、OPN史上初めて他アーティストが多数参加したことでも話題を呼びそうですが、それ以上にOPNのボーカルがフィーチャーされているのが興味深い。かねてから囁かれていたように、ルネサンス期のバロック音楽の要素が強いクラシカルかつ優雅なサウンドスケープ、チェンバロをはじめとした生楽器のサンプリングとノイズまみれのハードなエレクトロニカのコラージュ、さらにはカンヌの最優秀サウンドトラック賞を受賞したサフディ兄弟監督の傑作『グッド・タイムス』での仕事の成果も生かされたドラマティックでエモーショナルな曲展開、研ぎ澄まされた音響デザインも相まって強烈。英国の哲学者ニック・ランドにインスパイアされたという歌詞も注目です。あらゆる角度から深掘りが可能な、恐ろしく奥深く重層的なアルバムに仕上がっているのです。
本作の試聴会は、音源の入った携帯プレイヤーを渡され、イヤフォンで聴きながら新宿歌舞伎町を彷徨う、という変則的な形で行われたのですが、歌舞伎町の欲望にまみれたケバケバしく毒々しい風景と、OPNの典雅かつケオティックなサウンドは奇妙にマッチしていました。
またOPNことダニエル・ロパティン自ら監督したPVも注目です。
そのOPN以降のエレクトロニカを象徴するようなアブストラクトな音響彫刻で注目されたベルギーのSsaliva(サリヴァ、と読むのでしょうか)の新EPが『WYIN』(Collapsing Market)。クールで静謐なアンビエント・エレクトロニカですが、時折あぶくのように浮かび上がる閃光のような鋭利な電子音が美しい佳作です。
米国マサチューセッツ州ケンブリッジで結成されたユニット、アームズ・アンド・スリーパーズ(Arms and Sleepers)の1年ぶりの新作『Find The Right Place』(Pelagic Records)。ベルリンのポスト・ロック系レーベル<Pelagic Records>からのリリースです。いわゆるドリーム・ポップとアブストラクト・ヒップホップとエレクトロ、ポスト・ロック、アンビエントがゆったりと融合したメロディアスで美しいダウンテンポ・エレクトロニカは前作同様。路線が確立している人たちだけに意外性や驚きはありませんが、期待を裏切らないクオリティの高さは特筆ものです。
シカゴ在住のジェイミー・フェネリーによるユニット、マインド・オーヴァー・ミラーズ(Mind Over Mirrors)の新作が『Bellowing Sun』(Paradise Of Bachelors)。美しい電子音が細かいレイヤーを刻んでいくサイケデリックでコズミックなミニマル・エレクトロニカですが、クラシカルでフォーキーなボーカルやエスニックなチャントで、ある種の宗教音楽のように聞こえる瞬間があり、生楽器を織り交ぜながら淡々と進行するドローン・サウンドは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやスペースメン3のようにも聞こえます。多面性のある中毒性の高いサウンドです。