雨のパレード ワンマンライブツアー『Change your pops』
雨のパレード、重要な“通過点”を経てさらなる飛躍へ 『Change your pops』ファイナルレポ
雨のパレードのワンマンライブツアー『Change your pops』のファイナルにあたる4月14日の赤坂BLITZ公演。アンコール含め全15曲を堪能した上で、「彼らはもっと上に行ける」と強く感じた。もちろん、これは決してネガティブな意味合いではなく、さらなる飛躍へ向けた、重要な「通過点」だったように思うのだ。
僕がこの日感じたこれまでのライブとの一番の違いは、「打ち込み風の楽曲を同期を使わずに生演奏する」というバンドの特徴が、あくまで一要素になっていたということ。もちろん、SPD-SXやアナログシンセを用いて多彩なリズムや音色を作り出し、ギターやベースはエフェクティブなプレイを披露し、さらに「feel」では大澤実音穂がドラムセットを離れ、リズムマシンを使ったりと、演奏スタイルはさらなる進化を遂げていた。しかし、「同期を使わずに生演奏する」ということそのものが重要なのではなく、その上で彼らのライブの本質的な部分がよりクローズアップされたことこそが、この日のポイントだった。
ひとつめのポイントは「フィジカル」。ライブを意識して作られたこの日の一曲目「stage」を契機に、バンドはよりフィジカルな方向にシフトしている。彼らのライブは毎回凝ったイントロダクションから始まるが、この日は4つ打ちをフィーチャーしてオープニングからフィジカルな側面を打ち出し、そのまま「stage」へ流れ込むと、さらにはエレクトロハウスな「Count me out」へとつなげていく。福永浩平の全身を使ったエモーショナルなパフォーマンスも印象的で、リアレンジが施された「epoch」から「1969」、そして、ミラーボールが照らされる中で爆発した「new place」へという前半の流れは実に圧巻。
もうひとつのポイントは「歌心」で、これは本編ラストで披露された「You」を契機に、『Change your pops』でもはっきりと打ち出されていた部分だが、この日の見せ場はバンドのディープな側面を垣間見せた中盤のセクション。ボコーダー使いがBon Iverを連想させる「speech(Interlude)」から「free」、「breaking dawn」における福永の真摯な歌声は胸に迫るものがあり、アンコールで披露された「Take my hand」の優しい歌声もまた、新たな魅力を感じさせるものだった。彼は常々「ポップスとしての入口はメロディーと歌詞」と語っているが、雨のパレードのような存在がオーバーグラウンドへと向かうことによって、日本の音楽シーンにおけるポップスの更新は確かに進行しつつある。
今後期待したいのは、ステージとフロアのさらなる融合だ。本編の後半に披露された「Change your mind」も含め、楽曲はよりダンスミュージック的な色合いを強め、福永のパフォーマンスも熱を増してきたことを考えれば、きっとそれが可能なはず。彼らは無理にオーディエンスを煽ったりしないし、コール&レスポンスも求めず、それがクールでかっこいいわけだが、今の楽曲の方向性を考えれば、その届け方をほんの少し変えるだけで、より熱狂的な空間を作り上げられるのではないだろうか。そして、その鍵を握るのは、基本演奏に集中している福永以外の3人のメンバーかもしれないと思ったりもした。
この日は秋のツアーも発表され、東京公演はグッとキャパを上げての新木場STUDIO COASTが決定。夏フェスシーズンを通過したバンドが、果たして新木場でどんなパフォーマンスを見せるのか。変革はまだまだ始まったばかり。
(写真=Viola Kam (V’z Twinkle))
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。