TM NETWORK「Get Wild」が音楽シーンに残した功績とは? 今なお革新的な楽曲の力を考察
TM NETWORKの代表曲と言えば「Get Wild」だ。この点に関して、30年近くFANKS(TM NETWORKファンの総称)をやっている自分も異論はない。しかし、自分のような長年のファンならまだしも、彼らの全盛期を知らない一部の若いリスナーにまでこの曲が浸透しようとは全く想像していなかった。
そのきっかけとなったのは2008年に起こった出来事。吉幾三ことIKZO「俺ら東京さ行ぐだ」とのマッシュアップがニコニコ動画に突如として公開されたのである。「Get Wild」の二次形態とも言うべき「Get Wild ‘89」の長尺イントロを上手く使ったアレンジと、ボーカル宇都宮隆のダンスのハマり具合が話題となった。初めて見たときは爆笑したものである。
続いては2014年。ギター木根尚登が関西ローカルのバラエティ番組で、「Get Wild」ではギターを弾いている振りをしているだけ、と告白。本当は弾いているにも関わらず、予想以上に周囲が食いついたことが彼のお笑い魂に火をつけ、後日ニコニコ動画に「TM NETWORKの木根尚登が全力でGet Wildを弾いてみた」という動画をアップ。約70万再生し、ニコニコ動画の総合チャートで1位も記録した。さらにこのエアギターネタを引っさげて人気番組『しくじり先生』(テレビ朝日系)にまで出演し、本人曰く高視聴率を叩き出した。そして、いつの頃からかこの楽曲は「ゲワイ」という愛称で広く親しまれるまでになったのだ。
「Get Wild」はTVアニメ『シティーハンター』のエンディングテーマとして制作を依頼された楽曲で、初回放送から2日後の1987年4月8日にリリースされた。革新的なサウンドと細かいところまでこだわった映像とのマッチングで人気に火がつき、オリコンシングルチャート初登場26位を記録。その後、19位→18位→16位→12位→9位と徐々に順位を上げ、結果的に約4カ月の間トップ50位以内に留まるロングセラーとなった。
これはTMが挑戦し続けたロックとダンスミュージックの融合が初めて広く認められた記念すべき楽曲だが、面白いポイントがひとつある。あまりに有名なサビと印象的なシンセリフの影に隠れてあまり気付かれていないのだが、この曲、ビートを構築する上で重要な役割を果たすスネアドラムの音が全く鳴っていないのだ。その代わり、巧みに配置されたタムとリズミカルに刻むシンセサウンドで疾走感を演出し、ダンスミュージックとして成立させている。
小室哲哉はリフ作りの天才でもある。これまでサビと同じコード進行を持つ印象的なリフで、「COME ON EVERYBODY」、「Self Control (方舟に曳かれて)」、「DIVE INTO YOUR BODY」など、様々な名曲をより印象深い楽曲へと昇華していった。「Get Wild」はその代表格。あのフレーズがあれば誰もが「Get Wild」だと認識できるし、あのフレーズさえあればどんなに曲をいじくり回しても「Get Wild」として成立するのである。30年間にわたって様々なバージョンを生み出したのはこんなところにも理由があるのだろう。
このようにして、時に偶発的に、時に意図的に、いかにも今の時代らしい拡散のされ方をしている「Get Wild」だが、こうした状況を生み出したのはTM NETWORKというユニットが元々持っている性格にあると思っている。彼らの魅力は近未来的な世界観と、常に世間の一歩先をいく最先端の楽曲がその大部分を担っているが、既発曲に大胆なアレンジを加えていくアグレッシブなアティチュードも、TMを構成する重要な要素のひとつとなっている。
例えば、1988年に初出演を果たした『NHK紅白歌合戦』では、シングル「COME ON EVERYBODY」を「COME ON EVERYBODY ’88 FINAL MEGA-MIX」としてアレンジを加えてプレイ。自分が知る限り、このバージョンはここでしか披露されておらず、当時の紅白としてはかなり異例な演奏となった。
さらに、1991年に出演した『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)では、イタロハウスの雄Black Boxの大ヒット曲「Ride On Time」をサンプリングしたクラブミックスバージョンで当時の最新曲「Love Train」を披露。最先端のクラブサウンドとJ-POPの融合に、テレビの前でかなり興奮したことを覚えている。
「Get Wild」に至っては、「Get Wild ‘89」、「GET WILD DECADE RUN」、「Get Wild 2015」とシングルだけで4バージョンも制作されている上に、ライブにおけるバージョン違いも無数に存在する。TM NETWORKの場合、曲を作ったらそれで終わりではなく、活動が続く限りそれは常に再構築されていくのだ。自分がTMを愛してやまない理由もここにある。