姫乃たまが背負う“地下アイドル”の肩書きは伊達じゃないーー3rdワンマンで見せたアングラ的感性

姫乃たま3rdワンマン公演レポート

 僕とジョルジュのパートが終わると、ステージの幕が閉じ、映像が流れ始める。今回のワンマンライブ成功に向けた“ドサ回りツアー”の模様を捉えたドキュメンタリーだ。1日で8箇所のCDショップなどを巡るツアーで、彼女の旧友であるミュージシャン・マーライオンらと珍道中を繰り広げる模様が、おもしろおかしく描かれていた。登場人物の中ではマーライオンが唯一、まともな人物であるかのように扱われていたが、筆者は彼もまた相当に奇矯な人物であることをよく知っている。姫乃たまの周辺人物は、みんなどこか変わっているのだ。

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(写真=Iwamoto)

 その後、いよいよ姫乃たまのソロステージへ。チャイニーズ感溢れる「来来ラブソング」に合わせ、真っ白な衣装を身につけた姫乃たまが再び登場し、カンフーをモチーフにした楽しげなダンスを披露する。そして次は、彼女の代表曲のひとつ「ねぇ、王子」へ。アルプス一万尺の手遊びをモチーフにした振り付けを、彼女に倣って行うことに、もはや何の躊躇いもない。まるで子どもに戻ったかのような純粋な気持ちで、筆者は静かにその振り付けを楽しんだ。ふんわりと思考停止していくような、心地よい脱力感を覚える。

 思えば、姫乃たまと初めて出会ったときも、彼女は「ねぇ、王子」を歌っていた。とあるアイドル関連のトークイベントにて、彼女はその楽曲を披露したのだ。当時の筆者はアイドルカルチャーに疎く、世間でヒットしている楽曲もそれほど熱心に聴いてはいなかったのだが、彼女の危うげで儚い歌声と、手作り感のあるステージングには心を奪われた。独特の間を感じさせる、どこか惚けたトークにも好感を抱いた。読者との心温まる交流を通して、終わりゆくエロ本文化への哀愁を綴ったとあるブログ記事の筆者が、彼女だったとわかったときは、同じくエロ本からキャリアをスタートしたものとして、深いシンパシーさえ感じた。例の振り付けを真似るのは、30代の男性として少し気恥ずかしかったが、彼女への好意がそれに勝った。こういうのは、恥ずかしいほど気持ちの良いものだと、そのとき気付いた。

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(写真=Iwamoto)

 あれから約2年半、筆者が知るだけでも彼女は、数多くのアイデアを次々と形にしてきた。音楽方面では、僕とジョルジュだけではなく、DJまほうつかいとコラボしたユニット・ひめとまほうとしても作品をリリースし、16年末には今回のライブに繋がるソロアルバム『First Order』をリリースした。書き手としても充実し、15年には先述の『潜行』を刊行した。同書もまた、彼女らしい一冊に仕上がり、携わった編集者のひとりとしてとても嬉しく思う。例のメッセージカードには「私を愛してくれるファンの人、自分のことのように力になってくれる関係者、好奇心を持って会場まで駆けつけてくれる人がいるということ。そういう人達に自分が何をできるのか、はっきりさせたかったのです」と記されていたが、少なくとも筆者は、彼女の書籍がちゃんと形になったこと、こうして晴れ舞台を見せてくれたことで、もう充分に多くを受け取ったと感じている。

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(写真=Iwamoto)

 なぜか姫乃たまがファンを「たまちゃん」と呼び、ファンがレスポンスをする「たまちゃん!ハ~イ」など、童謡のようでいて少し倒錯した楽曲の世界観は続き、ステージはさらに彼女の色に染まっていく。VJでは似ているのか似ていないのか、よくわからない姫乃たまらしきイラストが、サイケデリックな動きでゆらゆらと揺れていて可笑しい。ソロセット12曲目「人間関係」からは、ゲストとしてソウル・シンガーの藤井洋平が登場し、いよいよカオスの様相だ。それにしても出てくる面子がいちいち面白い。誰ひとりとして「よく居そう」なタイプのアーティストはおらず、みんな強烈な個性を放っている。藤井洋平のパフォーマンスもまた、しゃべり口調からギターの弾き方に至るまで、過剰なほどにソウルフルで忘れがたいものだった。姫乃たまが自身のパフォーマンスを通じて描き出す東京アンダーグラウンドシーンは、極めて濃密である。

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(写真=Iwamoto)

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