1stシングル『タカラバコ』リリースインタビュー
ササノマリイが語る、“歌うこと”への目覚め 「素材じゃない歌には、命が宿ってる」
ぼくのりりっくのぼうよみやDAOKOら新鋭アーティストに楽曲をカバーされ、トラック提供やサウンドプロデューサーとしても積極的に活動しているシンガーソングライター、ササノマリイが、メジャー移籍第一弾となるシングル『タカラバコ』をリリースした。生楽器と電子音を絶妙なバランスで融合したサウンドや、浮遊感あふれるメロディ、そして、脆さの中にも凛とした強さを感じさせる歌声には、聴くほど病みつきになるような中毒性がある。また、表題曲「タカラバコ」は、人気TVアニメ『夏目友人帳』(テレビ東京系)の現在放送中の5期オープニングテーマとして書き下ろされたもので、いつになく開かれた世界観がファンの間で話題を呼びそうだ。
今回のインタビューでは、音楽的なルーツや作曲法、「ボーカリスト」としての意識の変化などについて深く訊いた。(黒田隆憲)
「小学校低学年の頃はユーロビートにハマってました(笑)」
ーー小さい頃から音楽は好きだったのですか?
ササノマリイ:楽器がオモチャみたいな感じで、家にあったパッド付きのプレーヤーを叩いて遊んだりしていました。当時、書道やスイミングスクールなど、習い事も色々させてもらってたんですけど、どれも中途半端で誇れるものがなかったんですよ。でも、音楽の授業の時に先生から「リコーダー上手いね!」って褒められて。「もしかしたら、僕は音楽が得意なのかもしれない」と思ったのは大きかったです。小四の時だったんですけど、それが音楽への目覚めじゃないかなと。
ーー小学生の頃は器楽合奏部で鉄琴を、中学では吹奏楽部に入ってトロンボーンを担当していたそうですね。そこで学んだことは、今の音楽活動にも影響している?
ササノマリイ:そう思います。特に中学の頃は理論も習ったし、一つの楽器だけでコードを奏でるのではなく、複数の楽器が単音で積み重なってハーモニーを作る楽しさというか、そこで生まれる倍音や、「トップノートにどの楽器が来ると気持ちよくて……」みたいな知識は自然と身についていきました。
ーーその頃は、どんな音楽を聴いていたのですか?
ササノマリイ:実は、小学校低学年の頃はユーロビートにハマってました(笑)。親がたまたま借りてきた『頭文字D』のビデオを観てたら、そこで流れている音楽に「カッコイイ! こんなに速く弾けるんだ」ってなって。打ち込みのシーケンスフレーズが、人力で演奏されていると勘違いしたんですよね(笑)。それで、家にあったエレクトーンで一生懸命コピーしました。そこからトランスに興味を持つようになって、同時期にドラムンベースを聴き始めて。それも、当時好きだったゲームのBGMがドラムンベースだったのがきっかけでした。ビートがメインにある音楽が好きなのは、その頃の影響が強いのかもしれないですね。
ーー小学生の時に、アニメのエンディングで流れていた新居昭乃さんの「覚醒都市」を聴いたのが、音楽を作るきっかけだったとか。
ササノマリイ:ビートはゲームミュージックからの影響で、コード進行やメロディの乗せ方は新井さんの影響が大きいですね。彼女の曲は、基本はシンプルなコード進行なんですけど、メロディがテンションノートになっていることが多くて、その響きが大好きだったんですよ。音の配置ひとつで、こんなにも浮遊感、なんとも言えない切なさが生まれるんだということを、認識させてくれました。
ーー例えばメロがリフレインする中でコードが変わったり、同じコードでもベースラインの置き方が、1回目と2回目では変わっていたり。ササノマリイさんが、そういうことを意識的にしているのは、新居昭乃さんからの影響なのかと。
ササノマリイ:そうですね。同じフレーズを繰り返しながら、少しずつ響きが変わっていく。いつの間にか景色が移り変わっているような、そういう音楽が好きです。
ーーゲームボーイの『ポケットカメラ』というソフトで、トラックをよく作っていたそうですね。
ササノマリイ:初めての打ち込みツールは『ポケットカメラ』ですね。ものすごく限られた機能しか搭載されてないんですけど、好きな曲を片っ端からコピーしていきました。その頃、電気グルーヴの「ポポ」という曲が、『ポンキッキーズ』の音楽コーナーで使われていて。それがものすごく好きだったんですよ。四つ打ちでループしていく気持ち良さ、後から知った言葉で言えば「トリップ感」というものを、そこで意識したのだと思いますね。その頃は、とにかく打ち込みが楽しくて仕方なかった。
ーートラックメイキングする上で影響を受けたのは?
ササノマリイ:すぐに思い浮かぶのが、Beatmania経由で知ったbermei.inazawaさんですね。その方は、新居昭乃さんに通じる浮遊感を持ちつつ、ジャズの要素があって。たくさんの音が散りばめられているのに、すごく透き通っているんです。まるでオモチャ箱のようなサウンドに、ものすごく感銘を受けました。中学生になって、ネットでフリー音源を漁っていた頃はcubesatoさんも好きでした。福岡在住のサウンドデザイナーの方で、映像、iPhoneアプリ、ゲーム、ウェブ等の音楽や効果音を制作している方なんですけど、カットアップを多用して、無音の部分でグルーヴを作るんですよ。その気持ち良さ、サンプルを使ってトラックメイクする面白さにハマりましたね。
ーーゲームの簡易音楽ソフトから、どのようにMIDIシーケンスソフトやDAWソフトへ移行していったんですか。
ササノマリイ:中学二年の時に、MIDIシーケンスソフトをダウンロードしました。きっかけはドラマ『喰いタン』で、ヴィヴァルディの「春」(『四季』より)をブレイクビーツの上に乗せたオープニングテーマが、めちゃめちゃカッコ良かったんですよ。「あの曲を真似したい! でも付属のソフト音源じゃショボくて無理だ」ってなって(笑)、そこでサンプリングというワザを知り、フリーのミュージックエディタ『ピストンコラージュ』を使うようになりました。そうやって段々、自分が求める音に近づいていった感じですね。DAWソフトは、高校二年の時にエディロール『MUSIC CREATOR2』を買ったのが最初です。