『ヒットの崩壊』発売記念対談 柴那典×レジーが語る、音楽カルチャーの復権とこれから

ブームは人間関係の中から生じる

レジー:「音楽は社会の映し鏡」なのであれば、やっぱり日本全体の高齢化についても考慮しておくべきテーマだと思います。人口統計や調査データなどを組み合わせて簡易的に計算すると、「音楽の情報に関心を持っている」という人のボリュームは20年間で増えているという結果が出るんですよね。ただ、世代別に見ると、20代のボリュームが大きく下がっていて、増えているのは40代~60代です。人口構成の変動がもろに数字に反映されています。ここで言う「音楽の情報」というのが具体的に何を示すのかが曖昧なのであくまでも一つの目安でしかありませんが、何となくのコンセンサスとして存在していたはずの「音楽って若者のものだよね」という認識自体を改めないといけないタイミングに来ているように思います。

柴:カラオケの世代別ランキングを見るとすごく明確にわかることですよね。60代以上は演歌しかランクインしないし、20代以下はボカロとアニソンしか入ってこない。これは極論ですが、Jポップという言葉で皆がイメージするものが、実は30代〜50代のエイジ・ミュージックになっている。これが90年代と10年代の違いの一つだと思います。つまり、ブームというのは人間関係の中で生じるものだから、10代の嗜好はあっという間に友達同士の密な関係性の中でブームとなり、その数年後に彼らが学校を卒業するとリセットされる。一方、すでに社会に出て人間関係も築いている20代中盤以降の嗜好は、文化基盤のリセットがないゆえに、その後もリスナー、ファンとして音楽シーンを支えている。

レジー:若者文化ではなくなってきているけど、その結果として持続可能なものになっているということですね。

柴:そうですね。この本の中でも断言しましたが、やっぱり音楽はコミュニケーションそのものなんですよ。今の時代だと、ミュージシャンとファンは良い状態でその関係性を保っていくことができるし、長く表現活動を続けていくことができる。僕の実感では、音楽カルチャーにとって07年〜10年はきつい時代が続きましたが、CDが売れなくてもライブを軸にミュージシャンが活動を続けられることがはっきりした11年〜16年はとてもいい時代だと思います。

レジー:僕もそういう実感はあるんですよね。09年〜10年ぐらいの時期にいわゆるオタクカルチャーと呼ばれるものがすごく強くなっていく中で、音楽より深夜アニメの方が話題になるような空気をかなり感じていました。でも、最近はまた音楽というものが世の中で元気なものに見えてきているような雰囲気があると個人的には思います。「きつい時代」だった07年〜10年の背景についてはどう考えていますか?

柴:本には書かなかったですけれど、着うたというのが理由の一つだと思います。着うたマーケットが広がり、それに適した音楽が作られた時代というのが07年〜10年くらいでした。音楽産業が着うたに資本を投下したことは反省されるべきだと強く思っているんです。というのも、着うたで音楽を聴いてた人は、機種変するとそれを捨ててしまったわけだから。その当時、07年〜10年に思春期を過ごしていた子供たちは、フェスに行ってCDをちゃんと買っていた人、ニコニコ動画でボカロに夢中になっていた人を除いて、音楽を捨てざるを得ない環境にあった。自分の青春のメモリーがアーカイブされないとカルチャーとしての盛り上がりに繋がらないんです。それに比べるとYouTubeに公式MVが上がっている今の状況だったら、いつでも振り返ることができる。お金を払う・払わないの問題ではなく、5年前に自分が夢中になっていたことに出会いに行ける。それはCD棚でもYouTubeの画面でも同じで、実はとても大事なことです。今は多くのアーティストがYouTubeに公式MVをあげ始めたから、それが一つのスタンダードになり、文化として蓄積されるようになった。その時期の11年に出てきたのがきゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」や、カゲロウプロジェクト、「千本桜」ですが、それは07年〜10年と11年以降の決定的な差という気がしてます。

レジー:ビジュアルとセットになったのも大きいかもしれないですね。音楽が聴くだけのものではない複合的な芸術になったというか。それはもしかしたらMTVが出てきた時にすでに言われていたことかもしれないですが、YouTubeはそれよりも格段にアクセシビリティが高いですし。

柴:YouTubeにあるのは同期の快楽なんですよね。バンドでギタリストとベーシストとドラマーが一斉に楽器を鳴らす気持ち良さと、YouTubeの動画でみんなが揃って踊る気持ち良さは、同列に語られるものだと思う。それは今も続いていて、星野源の「恋」ダンスがその証明だと思います。

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