2015年の音楽シーンはどう変容したか? クラムボン・ミト、柴那典、金子厚武が語り尽くす

ミト、柴那典、金子厚武が語る2015年

 2015年は大型のサブスクリプション(定額)音楽配信サービスが出揃った一年であり、海外においてもアデルの爆発的ヒット、グラミー賞ノミネート作品の変化など、様々なトピックが見られた。リアルサウンドでは、クラムボン・ミト氏のインタビュー【クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」】が大きな反響を呼んだことを受け、彼に2015年の音楽シーンを総括してもらうことに。対談相手として柴那典氏と金子厚武氏を招き、アーティスト・ジャーナリストそれぞれの立場から振り返ってもらった。

「サブスクリプションによって『音楽そのもの』が担保される」(金子)

――まず、みなさんは2015年の音楽業界にどういう印象を抱きましたか。

柴 那典(以下、柴):5年前くらいから喧伝されていた「音楽が売れない/若者の音楽離れ」みたいな風潮が薄れてきているような感覚を覚えています。CDだけではなく、音楽の売り方・聴き方が多様化したことで、ビジネス的な構造が変わっているというか。「音楽に未来がない」と言っていたのが過去になった1年なのかもしれません。

ミト:セールス的にはむしろ伸びていますからね。CDを軸として考えている大きなメディアの価値基準が危うくなってきているのは事実で、オリコンチャートと実際に聴かれている音楽が乖離している問題がより取り沙汰されたり、AKB48がついにミリオンを割ったりと、次のフェーズへ向かう兆しがより可視化されてきていると思う。

金子厚武(以下、金子):「音楽が売れない/若者の音楽離れ」という言説は、あくまで“CDを売る”時代が終わっていくという話で、“音楽が終わる”という話ではなかったってことですよね。

柴:それが改めて結果に出た一年ですね。僕自身もCDを聴いて育ったから、もちろん思い入れはあるし、ミュージシャンもCDを買ってほしいと思うのは当然ですが、今はパソコンにもCDドライブがない、コンポは持っていない、音楽を聴く手段がスマートフォンしかないという子もたくさんいる。CDがある種の特殊な嗜好品になっているのかもしれません。

ミト:僕らが青春時代を過ごした80年代後半~90年代って、CDがちゃんとした「パッケージ」だったんですよ。でも、特装ジャケットや特典にお金を出せるミュージシャン自体が少なくなっているから、プラスティックケースに統一されて、所有する喜びも減ってきた。だからCDを単なる「モノ」という価値基準にまで落としてしまったのは、ミュージシャンやレーベル、つまり自分たちだと気づき始めたのが、ここ最近のことで。

柴:一方で、日本はほぼ今年がサブスクリプション元年というくらい、様々なサービスがスタートしました。サブスクリプションサービスについては海外と日本で状況を分けて考えなければなりませんが、僕はそれがCDなどの商品を駆逐するとは思っていなくて、結局、音楽を知る手段の一つとして普及するだけだと考えています。例えばMr.Childrenがアルバム『REFLECTION』のハイレゾ音源入りUSBを形態の一つとして1万円の限定生産で販売し、完売したという出来事は大きいと思っていて。ミトさんが言うような、「沢山の予算を使って制作した、とてもスペシャルなコンテンツとグッズ感を持ったパッケージ」は、より売れるようになっていくのかもと実感しました。

金子:「CDをどう売っていくのか?」という議論から、「モノ」あるいは「フィジカル」というもののあり方を問い直すタームに入ったように思います。

ミト:CDに特典でTシャツやライブチケット先行予約、アニソンだと新規版権絵などが付属するのは当たり前になっていて。ミュージシャンとしてはもちろん「まずは音源だろ!」って言いたいし、自分も妥協するつもりはないけど、その音楽が伝播して、3次元において手に触れたいモノがあると思わせ、それをキャッチーにプレゼンテーションできたものが伸びているのは事実だから。

柴:ライブ会場に足を運ぶファンは、限られたお小遣いのなかから、例えばCDとTシャツのどちらに自分のお金を使うか、シビアに考えています。その結果、Tシャツまたはほかのグッズを選んでいる人が少なくない。もちろん、そこに作り手の意志が介在していなければそれは不健全なことだけど、アーティストが作品やライブの世界観を増幅させるものとしてグッズを作って、売っているのであればいいと思う。例えばUNISON SQUARE GARDENは、楽曲の物語性が具現化したような、1曲1曲の楽曲名に紐づけたグッズをメンバーのプロデュースで展開していますね。

ミト:田淵(智也/UNISON SQUARE GARDEN)くんを見ていると、『M3』(音系・メディアミックス同人即売会)的な発想も感じますね。ただ、ライブを軸とした活動をしっかりやっているから、彼がアニソンを手掛けても、バンドのイメージを損ねるどころか、よりその良さが際立つ結果になる。こういうアーティストを見ていると、やはり作り手が色々と考えて発信しなければならない時代なんだと実感します。「自分はこれしかできない」というオールドスクール的な発想は一定数あると思うけど、それがアートにおけるパトロン制度のように、しっかりと生活を担保されるものになるには、まだあと15年は掛かる気がする。

金子:音楽が音楽だけで成り立つというのは5年前10年前の話で、ずっと言われてきたことではあるけれど、そういう時代ではなくなったことが、より現実的に、明確になったのが今年かもしれない。それならば、「音楽そのもの」はどこにいくのか。そう考えると、モノ=グッズとして作品が消費される一方で、サブスクリプションによって楽曲が手軽に届くことで、「音楽そのもの」が担保されるという、ポジティブな材料になるのではないかと思いました。

柴:先ほど「海外と日本を分けなきゃいけない」と言ったのは、まさに金子さんの言う状況が、すでに海外で生まれているからです。海外ではSpotifyがフリーミアムのモデルとして定着しており、ヒットチャートを見てもテイラー・スウィフトやアデル以外はほぼほぼ聴くことのできるくらい、網羅率が高いという状況なんです。ここまで配信環境が整っているからこそ、それをあえて選ばなかったアデルが『25』でブロックバスター的にヒットを叩き出していて、それが2015年の世界的な音楽シーンにおいて、最大のトピックになっているのではないかと。

ミト:あれは<XL RECORDINGS>にすごく頭の切れるブレーンがいるんだなと感じさせる出来事でしたね。前作の『21』であのセールスを叩き出した時点で、<XL RECORDINGS>はただのインディーレーベルから、いわば上場企業になったわけで(笑)。でも、彼らはインディー的なスタンスを見失わずに、アデルがテレビ出演する際もあえて大人数にせず、アコースティックセットで披露させたり、ツアーも最小限の編成で回っていたりと、良い意味で遠くへ行った感がない。戦略としてかなり巧いと思います。

柴:アデルはここ5年、10年で最も巨大な成功を収めたミュージシャンといっても過言ではないでしょうね。もちろん、周到な戦略は彼女自身の才能があった上でのことなので、誰にでも当てはまるわけではなく、両者がうまくかみ合ったからこそできたことかと。

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