青柳翔の歌声にはなぜ説得力があるのか 活動遍歴から“歌手”としての実力を読む
特攻隊の若者たちを描いた舞台『あたっくNo.1』で2009年に俳優デビュー。近年だけでも、そのセクシーなヴィジュアルポスターも話題となった『美しき罠~残花繚乱~』(TBS系)や、EXILE TRIBEのキャストが数多く出演し注目を集めた『ワイルド・ヒーローズ』(日本テレビ系)など、様々な作品に重要な役で起用され、活躍する俳優・青柳翔。2017年初夏公開の映画『たたら侍』では主演をつとめ、第40回モントリオール世界映画祭で「最優秀芸術賞」を受賞。着実にそのフィールドを前進させ、役者としての地位を築いてきた。その青柳翔が歌手デビューを果たし、10月26日に1stシングル『泣いたロザリオ』をリリースした。
彼の芸能界へのスタートは、2006年の『EXILE VOCAL BATTLE AUDITION』。実は、歌手を目指しての第一歩だった。「優勝してやるぞ、という強い気持ちで挑んだ」ものの、夢は2次審査でついえてしまう。数カ月後に、事務所のスタッフから「俳優としてやってみないか」と声が掛かり、“歌”から“芝居”にその進路の舵を切り、地元北海道でレッスンを続け、その後、上京。舞台作品から、劇団EXILEメンバーとしてドラマ、映画へと活躍を広げる。
俳優として、各作品に臨むその思いを何度か取材させていただいているが、例えば主演ドラマ『下町ボブスレー』(NHK BS)の時の先輩俳優からのアドバイスを丁寧に咀嚼しつつ、その有難みを語る姿や、主演映画『渾身KON-SHIN』の際、撮影場所となった地元のみなさんへの思いやりや、作品が持つメッセージをどう届けるかを熱く語る姿は印象的で、1作品1作品にまっすぐにぶつかっていく熱が強く伝わってきた。
当時の思いを振り返り、「俺はもう歌わないという気持ちはありました。個人的にカラオケで楽しんで歌ったりすることもありましたが(笑)、大人数で“オーディション出身なら”と歌を求められるのが嫌だった時期もありました」とオフィシャルインタビューで語っているが、まさに俳優としての「表現」に全身全霊でぶつかっていく時期だったということかもしれない。
そんな青柳翔が、今年6月、自身も出演のドラマおよび映画『HiGH&LOW』の楽曲を集めたアルバム『HiGH&LOW ORIGINAL BEST ALBUM』の収録曲「Maria」で歌手デビューを飾ることとなる。歌手を目指してスタートした思いが10年の時を経て結実するのだ。
「歌手デビューをすると聞いたときには“このチャンスは逃さないぞ”という気持ちと、HIROさんやATSUSHIさんをはじめ、今まで支えて来てくださった方々への感謝の気持ちでいっぱいでした。10年前の夢が戻ってきたのかなと感じました」というその言葉は率直で、その思いがそのまま歌声に反映される。ATSUSHIがプロデュース、作詞・作曲そしてコーラスも担当したこの曲は反響も高まり、ついに1stソロシングル『泣いたロザリオ』のリリースにつながった。
「大量のデモの中から自分の声にマッチする曲を選んだ」という「泣いたロザリオ」。せつなくもどこか熱さも感じさせるこの楽曲は、これまで芝居などで見せてきた「青柳翔」が持つパーソナリティにもつながっているように感じる。
「芝居をやってきたという強みは活かしたいなと思っています。これは自分の役者としての姿勢の話ですが、外よりも中身に価値を見出したいんです。歌でも中身の伝わるボーカリストになりたいです」と語るように、歌による「表現」は間違いなく、積み重ねてきた俳優としての日々が活かされている。音が“言葉”として響き、聴く側にしみこんでくる。
実際、「泣いたロザリオ」では、低音の厚みのある響きからサビへの包み込むような歌声が、じっくりとメッセージを届け、その言葉に説得力を感じさせる。「説得力」というのはそう簡単に出せるものではないだけに、「歌手・青柳翔」の大きな強みになっているのは間違いない。