“転売ヤー”取り締まりはなぜ難しい? ネット上のチケット高額転売の法的論点を弁護士に訊く

“転売ヤー”はなぜ規制できないのか

 一般社団法人 日本音楽制作者連盟(FMPJ)、一般社団法人 日本音楽事業者協会(JAME)、一般社団法人 コンサートプロモーターズ協会(ACPC)、コンピュータ・チケッティング協議会の4団体が多くの国内アーティストやイベントの賛同を得て、8月23日に発表した『チケット高額転売取引問題の防止』を求める共同声明。新聞全面を使ったその表明は、世間に大きなインパクトを与えた。9月14日にはさらに賛同アーティストとイベントを追加し、再び意見広告を掲載。その試みは各メディアに大きく取り上げられることとなった。

 以降、団体関係者がメディアに露出する機会も増えており、声明を発表するにいたった経緯として、ネット上のサービス・システムを使った「ネットダフ屋」「転売ヤー」の存在に危機感を抱いたことが背景のひとつとして随所で語られている。しかしながら、それらを抑止する明確な糸口は見出されておらず、雑誌『MUSICA』(2016年10月号)の意見広告に登場した株式会社ヒップランドミュージック/有限会社ロングフェロー野村達矢氏は「転売そのものが今法律でも条例でも規制できない状態」であると、転売を取り締まることの難しさについて述べていた。

 今回、この高額チケット転売問題について音楽の著作権法に詳しい弁護士・小杉俊介氏に話を聞いた。まず、先述の「転売そのものが規制できない状態」が意味するのは、具体的にはどのようなことなのか。

「これは、インターネットを介してチケットを高額で転売する行為を取り締まる法律がないことを意味しています。現状は、別の目的で立法された条例や法律に当てはめて規制している状態。たとえば、迷惑防止条例は公衆に著しく迷惑をかける行為を防止するもので、コンサート会場の周りにたむろするダフ屋行為を規制していますが、インターネット上での取引には適用は難しい。また、先日嵐のコンサートチケットをネットで転売した人物が古物営業法違反で逮捕されました。古物営業法は、古物商を許可なく営むことを規制しており、盗品等の売買の防止が本来の立法目的です。嵐の例は、個人でも1000万円ほど利益を得ていたため、古物商の免許取得が必要となる業としての取引だと判断されたのだと思われます。さらに、物価統制令が適用された事例もまれにありますが、本来この法律は終戦直後の経済混乱期に、生活必需品を買い占めて高値で売りつける行為を規制するためのもの。要はすべてチケット高額転売そのものを取り締まることを目的とする法律ではない。問題のある転売行為について、本来は別の目的のために存在する法律に引っかけて規制しているのです。簡単に売買ができるツールが劇的に増え、個人でも営利目的で売買しやすい環境が増えているのに、規制が追いついていない。転売ヤー、ダフ屋がその中に紛れて活動しやすくなっているということも事実です」

 4団体は法改正についても検討していくという意向を声明により明らかにしているが、小杉氏は海外の事例を挙げながら、その難しさについて以下のように解説する。

「高額転売は全世界的な問題。アメリカでも転売行為を取り締まる規制がある州もあり、たとえばニューヨーク州では定価の一定割合を超えた価格での再販売を禁止していますし、本来のチケット売り場から一定の距離内での再販売を禁止するなどの例もありますが、高額転売行為は蔓延しています。チケットが取れないことで有名な超人気ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』のチケットの転売で、転売屋はこれまでに60億円以上の利益を挙げているとの試算があるほどです。最近、連邦議会で「The Better Online Ticket Sales Act」、通称BOTS法案という規制案が審議されているとの報道がありました。これは、チケットが売り出されると同時に転売目的でTicket Botと呼ばれるある種のソフトウェアを用いて一気に買い占めを行う行為を禁止する法案です」

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