風男塾はなぜ他アイドルからの支持が厚い? その“カジュアルな虚構性”を読み解く
風男塾(ふだんじゅく)が8月31日、ニューシングル『NOIR~ノワール~』をリリースする。音楽クリエイター集団・Elements Garden制作による表題曲は、風男塾が“男装ユニット”として表現し続けてきた独自の虚構表現の幅をさらに一歩広げるものになっている。
“男装ユニット”として活動する彼女たちは、現在の女性アイドルの中でも際立ってユニークな立場にある。女性が演じる男性性だからこそ表現できる、ある種の理想化された虚構的な男性像は、女性ファンを中心に支持を広げながら、今日のアイドルシーンの多様性の一翼を担っている。一般のファンのみならず、他の女性アイドルからも風男塾の支持は厚い。それは、同業のパフォーマーとしてのみならず、彼女たちの表現する理想化された男性像に憧れるからでもあるだろう。女性アイドルシーンで活躍する者同士でもありつつ、他のアイドルとは明らかに違った「虚構の男性」として憧れの存在にもなりうる風男塾は、イベントや番組のMCなどを通じてそうした他の女性アイドルと関わるとき、その関わり方そのものを絶妙のバランスでエンターテインメントにしてしまう。これが風男塾が体現する面白さのひとつだ。
エンターテインメントの中で理想化された異性が表現される場合、虚構性が高くなるために、「リアル」なものというよりは特定のステージの上で完結するものも多い。けれども風男塾は虚構的な男性像でありながら、その立ち振る舞いに独特のカジュアルさを持っている。だからこそ、楽曲のパフォーマンスを離れたトークの場などでも、パフォーマンスとしての男性性は十分に表現しながら、同時に日常の世界と地続きであるような気安さも発揮できるのだ。他のアイドルと同じ空気感を共有しながら、同時に現実からは少し離れた憧れの対象にもなれる。そんな「カジュアルな虚構性」が、彼女たちのオリジナリティであり強みである。
風男塾のコンセプトをみれば、現在の女性アイドルグループの中では異端なものにも見えやすいし、それはある程度、間違いではない。けれどもまた、風男塾は2010年代のアイドルシーンにとって決して周縁的な存在ではなく、重要なポジションを担ってきたグループであることも忘れてはならない。その象徴が、『TOKYO IDOL FESTIVAL(以下、TIF)』における活躍だろう。風男塾は『TIF』初開催の2010年から今年まで毎年ラインナップにその名前を連ねている。単に多くのアイドルがパフォーマンスをするばかりでなく、ステージ上にアイドル同士が集って横の繋がりを築く、シーンのシンボル的な場が『TIF』である。その中で、アイドリング!!!やPASSPO☆、バニラビーンズらとともにMCなどを主導し、アイドル同士の連携に一役買ってきたのが風男塾だ。先ごろ行われた今年度の『TIF』は開催日程が3日間に拡大し、出演者の顔ぶれにも2016年現在のアイドルシーンのトレンドや時の流れが如実に映し出されていた。その中で、カジュアルな男性像の表現を各所で活かしながらパフォーマンスし、それまでと変わらない、そしてこれからも続いていくであろう『TIF』の空気を作る、重要な役割を風男塾は果たしていた。