くるり『アンテナ』『ジョゼと虎と魚たち』は、2016年に演奏されることを待っていた

くるり、『NOW AND THEN vol.3』レポート

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岸田 繁
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佐藤 征史

 『アンテナ』全曲の演奏が終わると、岸田繁は「精魂込めてお茶を濁していきます」と会場を笑わせて「ジョゼと虎と魚たち」のパートへ。ところが、それは「お茶を濁す」どころではなかったのだ。

 「ジョゼのテーマ」は、ドラムとベースが非常にダビー。生で演奏されるダブに陶酔した。途中でギターがうなる熱演になってから再びダブになる展開は、『アンテナ』前の試行錯誤あるいは前哨戦を感じさせる。

 そして、「飴色の部屋」を経て名曲「ハイウェイ」へ。このストレートなロック・ナンバーが『アンテナ』へとつながるわけである。

 「さよなら春の日」のメロディーはアイリッシュ・トラッドを彷彿とさせる。「地下鉄」は終盤の緊張感が強烈で、演奏が終わるとメンバーが「酸欠になる」と笑っていたほどだ。ライブ本編は、シンプルなロック・ナンバー「さっきの女の子」で幕を閉じた。

 アンコールでは、物販紹介を経て最近のくるりの楽曲へ。

 「Hello Radio」は、もともとは岸田繁が作詞作曲、tofubeatsがアレンジして、「ザ・プールサイド(岸田繫、大橋卓弥(スキマスイッチ)、木村カエラ、KREVA、DEAN FUJIOKA、藤原さくら、YONCE(Suchmos))」によって発表された楽曲だ。くるりによる「Hello Radio」は、アメリカ南部の匂いがする演奏に変貌していた。「かんがえがあるカンガルー」はNHK『みんなのうた』で放送された楽曲。2015年のシングル「ふたつの世界」は、キーボードがニューオリンズのセカンド・ラインを連想させた。

 そして、この日のアンコールの最後、問題の楽曲が演奏された。「この先の指標となる楽曲」と紹介されて演奏されたのは、7月6日に発売される新曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」だ。驚くほどソウル色が濃く、くるりの楽曲の中でも珍しいレベルだ。そこに、岸田繁がラップが乗り、サビでは「シティー」と繰り返す。これは巷に溢れる「シティ・ポップ」へのアンチテーゼなのだろうか? そんな疑問を解く手がかりもないまま終演となった。

 「くるり 20th ANNIVERSARY『NOW AND THEN vol.3』」は、2003年から2004年にかけてくるりが出した「回答」を、2016年に改めてフィジカルな演奏で鮮烈に提示したものだった。そして、それを反芻する間もなく、最後に謎かけのような新曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」が披露されたわけだ。

 くるりは現在のスタイルで過去の作品を再提示しながら、予測不可能な新たな展開までを予感させた。現在のくるりの好調さを感じさせられる。今年の夏のくるりは、ますます面白くなりそうなのだ。

(撮影=五十嵐一晴/Kazuharu Igarashi)

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■セットリスト
くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN vol.3」
01. グッドモーニング
02. Morning Paper
03. Race
04. ロックンロール
05. Hometown
06. 花火
07. 黒い扉
08. 花の水鉄砲
09. バンドワゴン
10. How To Go
11. ジョゼのテーマ
12. 飴色の部屋
13. ハイウェイ
14. さよなら春の日
15. 地下鉄
16. さっきの女の子
EN1. Hello Radio
EN2. かんがえがあるカンガルー
EN3. ふたつの世界
EN4. 琥珀色の街、上海蟹の朝

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