くるり『アンテナ』『ジョゼと虎と魚たち』は、2016年に演奏されることを待っていた

くるり、『NOW AND THEN vol.3』レポート

 くるりが2004年にリリースしたアルバム『アンテナ』は、まるで2016年に演奏されることを待っていたかのようだった。そして、くるりのライブの最後の最後では、驚きとともに今後の展開が予測できなくなったのだ。そんな体験をさせてくれたのが、「くるり 20th ANNIVERSARY『NOW AND THEN vol.3』」のツアー・ファイナルである5月31日の神奈川県民ホールでのライブだった。『アンテナ』、そして2003年にリリースされたサウンドトラック『ジョゼと虎と魚たち』の楽曲群を再演したライブだ。

 メンバーは、ボーカルとギターの岸田繁、ベースの佐藤征史、ギターの松本大樹、キーボードの野崎泰弘、ドラムのクリフ・アーモンド、バックグラウンド・ボーカルの加藤哉子とアチコによる7人編成。

 ライブは叙情的な「グッドモーニング」で幕を開け、MCでは2016年でくるりが結成20周年であることに触れた。続く「Morning Paper」では、一転してラウドなサウンドとなり、クリフ・アーモンドのドラムがサウンドのトーンを決定づける。それは「ロックンロール」でも同じで、ドラムの音圧が高く、リズム・セクションの骨格が太い演奏を堪能させた。まさに「アンテナ」というアルバム象徴するストレートな楽曲だ。「Hometown」、そしてメロディーの展開にソングライターとしての岸田繁の妙味を感じさせる「花火」「黒い扉」とロック・ナンバーが続く。その流れにこそ、「アンテナ」が2016年の再演を待っていたかのようだと感じたのだ。「花の水鉄砲」もまたラウドなサウンドだ。

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 そして、「アンテナ」最後の楽曲として、クリフ・アーモンドとイギリスのグラスゴーで録音した「How to Go」が演奏された。「How to Go」のサウンドはクリフ・アーモンドのドラムありきだと感じたし、彼を迎えた今回の再演によって、パズルの最後のピースがハマった感覚すらした。

 MCでは、制作当時を振り返って「20代の若者たちとしては相当渋い音楽を作っている、趣味に走りましたね」と語っていた。この時期のくるりは、2001年の『TEAM ROCK』、2002年の『THE WORLD IS MINE』とエレクトロを導入したアルバムが続いていたが、それを2003年の『ジョゼと虎と魚たち』で一旦リセットし、2004年の『アンテナ』でバンド・サウンドへ回帰することになる。今回の「くるり 20th ANNIVERSARY『NOW AND THEN vol.3』」での演奏は、そうした「アンテナ」というアルバムの性質をクリフ・アーモンドを迎えて引き出したものだった。

 『アンテナ』再演パートで、異色だった楽曲も紹介したい。「Race」では、イントロの段階でアラブからカントリーへと展開してみせた。日本民謡っぽいメロディー・ラインといい、岸田繁の雑食性が顔を出した楽曲だ。

 また、メンバーがバンジョーや12弦ギター、アコーディオンなどに楽器を持ち替えて演奏した「バンドワゴン」には少しアイリッシュな香りがした。これも、ひとつの音楽性にとどまれないくるりというバンドの性格が顔を出した演奏だった。

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