橋本徹が『Good Mellows』シリーズを通して伝えたいこと「音楽を空間と一緒に楽しみたい」

旅をするようにいろいろな時代、国、ジャンルの音楽を楽しみたい

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橋本徹(SUBURBIA)

――橋本さんご自身の中で、現在進行形の音楽への関心と、幅広い年代の音楽への関心はどれくらいの割合でお持ちなのでしょう。

橋本:あまりその分け隔てはないですね。ただ、今はとにかくアナログもCDアルバムも現在進行形の音楽が充実していると思っていて。現在進行形の音楽を聴いている時間のほうが圧倒的に長いですが、そこから連想ゲームのように「今はこういう音楽が気持ちいいから、70年代のものだったらこういうものがよく聴こえるんじゃないかな」とか、「これとこれは何かつながっているな」というように古い音楽も聴いたりします。そうすると、今のアーティストが過去のアーティストをリスペクトしたり、熱心なファンだったりすることも多くて、その音楽の遺伝子を受け継いでいると感じることができるんです。国や地域や年代やジャンルを超えたつながりを感じるような音楽体験が僕は好きなので。だから基本的には常にそのときの“今”の音楽を起点にして、そこから旅をするようにいろいろな時代、いろいろな国、いろいろなジャンルの音楽を楽しめたらと思っています。

――この『Good Mellows For Sunrise Dreaming』にはいろいろなセクションがあると感じました。流して聴くと自然ですが、実はいろいろなジャンルの音楽が入っています。

橋本:そうですね。ダンス・ミュージック一辺倒になりたくないという意識が自分の中にあって、やっぱりチルアウト・フィーリングも大切にしています。リスナーとしても、コンパイラーとしても振り幅やダイナミズムを感じられる選曲が好きなので、自然とそうなっているのかと。ただ、自由にいろいろなものを行き来したいという気持ちはあるのですが、“ジャンルを超える”とか、“音楽スタイルを超える”ということ自体が目的になってはいけないとは思っていて。自然に「ああ、ここからこう行ったら気持ちがいいな」と思えることをやっているつもりなんですけどね。

――中盤からはバレアリック・サウンドがだんだん色濃くなってきますね。バレアリックという感覚について、あらためて教えてください。

橋本:いろいろなイメージがあると思いますが、カントマに聞いた話だと、1993年以前と以降ではかなりイビサの音楽は変わったみたいで。それはハワイの音楽が観光化されて変わっていったのと同じような意味だと思うんですけど。“イビサの原風景”みたいなものは1993年以前にあって、すごくざっくりと言ってしまえば、商業化される前ーーイギリス・ドイツ・フランスのプロモーターが、大物DJをイビサにブッキングし始める前の状態です。コンピレーションの前半では、そういう部分も表現できたらいいなという意識がありました。アンビエントっぽいものや、ミスター・フィンガーズのちょっとしたバリエーションのようなメロウ・チルアウト感覚も含めて。一方で中盤以降は、高揚感というか、バレアリックな中でもダンサブルで開放的なテイストから生まれる気持ちよさも出せればという気持ちで選曲しました。空間BGMでもコンピCDでも、僕は音楽が好きな人間として選曲をするので、少しでも聴き手のストライクゾーンを広げていけたらいいな、というふうに思っているんですね。普段はそういう音楽はあまり聴いていないひとに、「この流れの中で聴いたらなんかいいな」と思ってもらえたら一番うれしいです。

――その後は、ロバート・グラスパー以降を象徴するような、新世代のジャズ系の楽曲へも繋がっていきます。

橋本:最近はジャズ方面でいいレコードがたくさん発表されているので、自然と自分もそういうものを選曲していきますね。それはジャズとエレクトロニクスの融合ということだけではなくて、フォークトロニカ的な部分もあるでしょうし、ブレイク・ビーツとピアノの組み合わせでもそうだろうし。僕のコンピレーションで『Free Soul ~ 2010s Urban』というシリーズがあって、その中でもこうした楽曲を紹介しています。今夏には『2010s Urban』の新作も出そうと思っています。アンダーソン・パーク、キング、BJ・ザ・シカゴ・キッドなど、今年に入って出たジャズとソウルとヒップホップの蜜月から生まれた、2010年代のアーバン・メロウな音楽を中心にしようかと。それと比較すると、『Good Mellows』は、もうちょっとクラブ・カルチャー、ハウス・カルチャーを通過したチルアウトーー両方とも現在進行形の音楽なんだけども、前者は都会寄りで後者は海辺寄りというイメージですかね。ヒップホップ×ソウル×ジャズと、ハウス以降のメロウ・チルアウト。シリーズごとに微妙に色分けしているつもりです。でも、今回の『Good Mellows』1曲目のミゲル・アトウッド・ファーガソンは、どっちの1曲目でもいい存在感ですが(笑)。

――人脈を考えると、ミゲル・アトウッド・ファーガソンはたしかに『2010s Urban』寄りですね。

橋本:でも、音だけを聴くと『Good Mellows』でOKなんです。だから音だけで感覚的に判断する人たちだったらこっちだと思うだろうし。音楽に詳しいリスナーで「ビルド・アン・アーク、ドクター・ドレー、いろいろやっている人だよね」と思えば『2010s Urban』のほうのイメージがしっくり来るかもしれない。

――最近のそういった音楽は、90年代のフリー・ソウル的な音楽に通じる部分を感じますよね。

橋本:そうですね。ミゲルも結局、カルロス・ニーニョとのJ・ディラへの追悼から始まっているわけですし、ディラ以降のビート感や心地よさみたいなものというのは当然、踏まえています。ちゃんとつながっていますよね。チルアウト・ハウスのアンビエント感というところでいうと、ミスター・フィンガーズの系譜を受け継いでいるわけだし。こうしてルーツが作られていくのかなと。

Cantoma For Good Mellows 試聴用トレイラー

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