橋本徹『Good Mellows』シリーズ インタビュー
橋本徹が『Good Mellows』シリーズを通して伝えたいこと「音楽を空間と一緒に楽しみたい」
橋本徹(SUBURBIA)が、自身が監修したコンピレーション・アルバム『Good Mellows For Sunrise Dreaming』と、バレアリック・シーンを代表するアーティスト、カントマことフィル・マイソンのコンピレーション・アルバム『Cantoma For Good Mellows』を2016年春、『Good Mellows』シリーズとしてリリースした。『フリー・ソウル』や『カフェ・アプレミディ』をはじめとした名盤コンピレーション・アルバムを数多くリリースしてきた彼が、新たなシリーズを通して表現したいこと、“今”コンピレーション・アルバムをリリースすることの意義などについて語ってもらった。(編集部)
『Good Mellows』のシリーズは、“外に持ち出しても心地よい音”
――コンピレーション・アルバム・シリーズ『Good Mellows』は、どういった経緯で始まったのですか。
橋本徹(以下、橋本):2015年の春、ディスクユニオンからお話をいただいて<Suburbia Records>というレーベルをスタートさせました。これまでいろいろなメジャー・レコード会社からリリースしてきた『フリー・ソウル』をはじめとするコンピレーションがすでに300枚近くあるうえに、<Apres-midi Records>という、カフェ・ミュージックの延長線上で聴ける心地よい音楽を出すレーベルもすでに立ち上げていて。新しいレーベルをディスクユニオン配給で始めるというお話をもらったとき、何が今いちばん自分の中でやりたいことなのか、ということを改めて考えました。
ディスクユニオンはご存知のように、アナログ盤をたくさん扱うお店を持っているので、自分のリスニング・ライフの中でとても大きな位置づけにある、毎週新譜の12インチをたくさん買って聴いているという部分、しかも結構幅広いジャンルを聴いているという部分を自分のコンピレーションCDというフォーマットで、自分のフィルターを通して表現ができたらいいなと。
『フリー・ソウル』『カフェ・アプレミディ』『メロウ・ビーツ』『ジャズ・シュプリーム』など、これまでもいろいろなテイストのコンピを作らせていただいてきたのですが、いちばんかたちになっていないのは、ハウスをはじめとしたクラブ・カルチャー以降の音楽だったんです。そういった音楽の中にも自分なりに好きなメロウであったりチルアウトなテイストのものがたくさんあるので、うまくまとめてリスナーにプレゼンテーションできたらいいなと思ったのが、今回のシリーズのきっかけですね。
――『Good Mellows』というタイトルは?
橋本:2014年の夏に海辺でDJをする機会が何回かあって。特に鎌倉の由比ヶ浜の「good mellows」という素敵なハンバーガーショップがあるんですけど、そこでDJをやったときの気持ちのいい感じーー海辺でくつろいでいて音楽が心地よく鳴っている感じを、今まで僕のコンピCDを聴いてきてくださった方、あるいはもっとクラブ・ミュージックにどっぷりの方、アウトドアが好きな方など、好きな音楽を共有できそうでまだあまりできていなかった方たちに届けられるようなシリーズにしようという思いがあって。あとはやっぱり「good mellows」というお店の名前、この言葉の響きにすごくインスパイアされたところもあります。「フリー・ソウル」という言葉に20年以上前にビビッときたのと同じくらいの何かを感じました。
それで2015年の春から3枚、春、夏、秋とコンピを出して。それが日本だけでなく、海外のリスナーやアーティストからも好評だったので、とりあえず今年も引き続きリリースすることになりました。もっといろいろなことをやるつもりで始めたレーベルでしたが、今年も『Good Mellows』を推していこうということで、この春にコンピを2枚リリースしてます。
――その2枚は具体的にどのような作品なのでしょうか。
橋本:ひとつは今までと同じようなオムニバス盤で、「シーサイド・ウィークエンド(海辺の週末)」と「サンセット・フィーリング(夕陽と音楽)」、それに「ムーンライト・ランデヴー」という月夜の輝きを感じさせるロマンティックなテイストを受け継いでの続編で、時間設定的には今回は「サンライズ・ドリーミング」ということで、目覚めて、まどろみの中から徐々に爽やかな1日がスタートしていくようなシチュエーションをイメージしたことによって、グルーヴィーな曲を混ぜ込みやすくなりました。“サンシャイン”的なものを感じる部分って、クラブ・ミュージック以降の12インチの中にもたくさんあるんですよね。
あともうひとつは、初めての単体アーティストのコンピレーション『Cantoma For Good Mellows』です。『フリー・ソウル』シリーズもオムニバスと単体アーティストやレーベル別のベストが存在するのですが、この『Good Mellows』シリーズでも、核となるアーティストのコンピレーションを編んでゆくことは、僕にとってとても楽しい作業でした。ちょうどバレアリック・チルアウトの伝説的存在であるカントマことフィル・マイソンの新譜の日本盤を出せないかという話をコーディネーターの方からいただいたこともあって。ディスクユニオンとも相談して、新譜だけだとなかなかセールス的に今は厳しいので、全キャリアからセレクトした『Good Mellows』のコンピと合わせてリリースすることになりました。
――海外からの好反応は、ヨーロッパが中心なのでしょうか。
橋本:『Good Mellows』に関してはヨーロッパだけではなく、西海岸やニューヨークもですね。いろいろなレーベルの担当者と連絡を取りながらコンピは作られるので、SNSを通して絶賛していただくケースも多くて。「こういうのがあるんだけど、<Suburbia Records>で出せないか」というオファーもたくさんあります。なかなかフィジカルを出せる環境が世界でもあまりないので、「ここは出してくれるんだ」という期待感もあるのかもしれません。カントマも、まさにそういったケースでした。
――さきほどお話の中で“サンセット”というキーワードが出てきましたが、改めて選曲の細かなポイントがあれば教えていただけますか。
橋本:『Good Mellows』のシリーズは、“外に持ち出しても心地よい音”という意識があって。最初の『Good Mellows For Seaside Weekend』から波の音、鳥のさえずり、そういった効果音が含まれるピースフルな音楽を少しでも入れていきたいと思って選曲しています。いわゆるアンビエント・ミュージックと言われるエレメントを必ず入れていることはシリーズに共通しています。リビングで聴いても、ベッドルームで聴いても、自宅のテラスで聴いても、ドライブのときに聴いても素晴らしいんですけど、どこか“海辺感”というか、そういう心地よさを感じることができると思います。ダンス・ミュージックでも密室のダンス・ミュージックではなく、太陽の光や風の匂いを感じられるようなブリージンなダンス・ミュージック、そういうものを自然に選んでいると思います。