SKY-HIが明かす、エンターテインメントの強度を追求する理由「階段をおりたところに真のポップミュージックはない!」

SKY-HIが語る“真のポップミュージック”

 自身の生き様や死生観を最高級のポップミュージックでありエンターテインメントに仕立てあげる――SKY-HIのニューアルバム『カタルシス』は、彼のそういった“執念”がドラマティックに結実した作品である。緻密なストーリーテリングを意識しながら楽曲をクリエイトし、DJ WATARAI、Mr.Drunk(Mummy-D)、KREVA、蔦谷好位置、夢幻SQUAD、SONPUBなど、豪華かつ多様なプロデューサーを迎え紡がれた全13曲。AAAのメンバーとしてスターダムにのし上がる一方で、ときにフリースタイルバトルにも出向きラッパーとしてのスキルを現場で磨き、ソロデビュー以降は音楽家としての視点や楽曲制作のクオリティを高め続けている。SKY-HIはインタビュー中に念を押すように何度も言った。「このアルバムのライバルは、映画やマンガなんです」と。SKY-HIが本作を生み出さなければいけなかった理由の源泉は、音楽表現に身を投じる者として満たされない渇望と譲れない矜持にある。そのせめぎ合いが、SKY-HIをとめどなく向上させる。(三宅正一)

「テーマ性のあるアルバムを作りたかった」

ーー先日の「フリースタイルダンジョン」(1月12日OA)でのゲストライブパフォーマンス、見事でした。フリースタイルバトルがメインの番組で、ゲストライブとして曲をしっかり聴かせるという意味でもかなりハードルが高いと思うんですね。

SKY-HI:確かに。ゲストライブの撮り方とか音の環境も徐々に向上していて。俺が出たのはRec-4ですけど、Rec-3くらいからお客さんもライブのテンションになっていたし、番組自体も盛り上がっていて。そういう意味でも空気を作りやすかったです。番組収録が始まるときにゲストが紹介されるんですけど、俺の名前が呼ばれたときに思ったよりお客さんが歓迎してくれて。まあ、エンディングテーマ(「Enter The Dungeon」)を歌っていて歓迎されなかったらアレなんですけど(笑)。

ーー「Enter The Dungeon」もあの番組特有の緊張感にバッチリハマってますね。

SKY-HI:キングギドラの「フリースタイル・ダンジョン」の世界観を踏襲して書こうと思ったんですけど、それと同時に今“ヒップホップ”と口にしたときにいろんな人がいろんなイメージを浮かべる時代になってると思うんですけど、そこでバトルに直結しそうなイメージが浮かぶように意識したところはあります。でも、緊張感を強めすぎて曲に面白味がなくなるのはイヤだったから、ダンジョンというキーワードからRPG感を出したりとか。

ーー終わりの見えないドラクエ感みたいな。

SKY-HI:そうそう。あとは、あの番組にチャレンジャーとして出ているラッパー――それこそ収録で一緒になったTKda黒ぶちとかは、俺が内緒でバトルに出まくってるころによく現場で一緒になってたんですよ。

ーー番組内でも言ってましたよね。

SKY-HI:そう、うっかり言っちゃったんですよ(笑)。今、強いラッパーは、年齢的に俺がフリースタイルしまくってたころに一緒にやってた人たちがほとんどで。なので、世代的に俺が知らないのは「R-指定」以降ですね。そういう意味でもあの番組に出演できて超楽しかったんですけど、正直に言うと、それと同時にラッパーの悲哀みたいなものも感じて。

ーーそれはどういう部分で?

SKY-HI:フリースタイルは水物だし、いくらフリースタイルが上手くなろうと、バトルで強くなろうと、楽曲制作の力は蓄えようのない部分があって。

ーー使う筋肉が違いますよね。バトラーと音楽家の視点の違いというか。先日、KREVA氏ともそういう話にもなったんですけど。

SKY-HI:そう、筋肉が違う。たとえばバンドだったら、メロの構成力とか作詞のセンスとか歌唱力とかいろんなポイントがあるじゃないですか。ラッパーにもキーコントロールとかピッチとか外しちゃいけないポケットとかあえてビートから外れるポイントがいっぱいあるし、それを追求するとキリがないんだけど、現状はそういう細かいポイントはなかなか注目されない。楽曲制作でそういう細かい部分に労力をかけたらいくら時間があっても足りなくて。もちろん、音楽家であるか、フリースタイルバトラーであるか、どちらが正しいということもないんですけど。でも、たとえば「フリースタイルダンジョン」で名前を上げたラッパーが――焚巻みたいに自力のあるラッパーは別だけど――また別のステージに上がろうと思ったらモンスターを倒したあとにこそ次があるというか。

ーー別次元のダンジョンが待っている。

SKY-HI:そう。次は対社会というダンジョンや音源制作というダンジョンが待ち構えていて。どこの階段を選んであがるのかという違いもあるし。そこに正解はないんだけど、「Enter The Dungeon」の〈戦って勝ってみせたって終わりなんて見えやしないダンジョン〉というラインはそういう思いも込めて書いたんです。もちろん、番組的にも「R-指定」に勝っても最後にラスボスとして般若さんが出てくるという意味合いもあるんですけど。

ーーその話を踏まえても、SKY-HI氏がこの『カタルシス』というアルバムを作り上げた意義は大きいですよね。

SKY-HI:そうですね。ちゃんとテーマ性のあるアルバムを作りたかったという思いが一番デカかったですね。できた曲をただ並べただけのアルバムには絶対したくなくて。それこそヒップホップに特化した話だったら、ミックステープの文化もあるし、ノリでバーッと作った曲が30曲くらいあって、それを何ヶ月単位でリリースすることもできるんだけど、それとはある種真逆にあるアルバムというか。

ーー長くじっくり聴いてもらうことを想定して作ったという意味でも。

SKY-HI:そうですね。作品性の高いアルバムを作りこみたかったし、このアルバムのライバルは映画でありマンガであり、そういった娯楽だと思ってるんです。フルアルバムの価格って、CDだったらだいたい3000円で、iTunesで2500円くらいじゃないですか。映画だったら2回分と考えると、けっこうな金額を払っていただくわけで。そのお金と時間と労力を考えたときに、『スターウォーズ』を観ないで、SKY-HIのアルバムを買ってよかったと思ってもらえるようなものにしなかったら、リリースする意味はないなと思ったんです。それくらい作品性の高いアルバムを作ろうと最初から思ってました。

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