ニューアルバム『カタルシス』インタビュー
SKY-HIが明かす、エンターテインメントの強度を追求する理由「階段をおりたところに真のポップミュージックはない!」
「自分のファンがどのアーティストのファンよりも幸せじゃないとダメだ」
ーー今さらこういう話をするのは無粋だと思うんですけど、AAAのメンバーとしての日高光啓のパブリックイメージを、ラッパーであり音楽家としてのSKY-HIはどんどん刷新して、プロップスを得てきたと思うんですね。
SKY-HI:俺にとってそこにあるダブルの偏見というのはものすごいストレスで。『カタルシス』の1曲目の「フリージア〜prologue〜」で〈皮膚の色や目の色 色眼鏡に映ったまま 決めつけるのは止めてよ窮屈だから〉というラインは、最後の曲「フリージア〜Epilogue〜」にかかる最初の伏線でもあって。若者ってすぐ「もう死にてえ」みたいなことを言うじゃないですか。
ーー今は特にカジュアルに「死にたい」とか「死ね」って言葉を吐く子が多い印象がある。
SKY-HI:ですよね。俺もそんな言葉を軽く口にしたら親にすげえ怒られるんですよね。でも、本気で死にたいと思ってる人に「世界的な視野で見たら恵まれてるほうだ」とか言って、つらさの度合いを天秤にかけることなんて横暴だとも思うんです。本人のつらさを第三者が比較することなんてできないと思うから。最近、俺自身もプライベートで信頼してる人に裏切られて、本気で死にたいという思いが頭を過ぎったことがあったんです。でも、だからこそ、「生きていることがつらい、死にたい」という思いを、「生きていてよかった」に変換できるストーリーとしての音楽を生み出したいと思った。それが『カタルシス』の大きなテーマで。そのテーマに沿って、〈皮膚の色や目の色 色眼鏡に映ったまま 決めつけるのは止めてよ窮屈だから〉ってラインも書いたんですけど、そこで自分自身がいかに偏見に曝される日々を送っていて、鬱憤が溜まっているのかも自覚したんですよね。
ーー死生観と向き合ったら、自然と自分の立ち位置や状況が浮き彫りになるラインが出た。
SKY-HI:そう。いわゆるヒップホップヘッズが、俺がAAAのメンバーというだけでSKY-HIの曲を聴かないという偏見があるとします。逆に 「AAAの日高のファンです、でもSKY-HIはラッパーなんでしょ? じゃあ聴かない」という偏見もある。さらに「日高ってすごいよね。AAAなのにがんばっていて」という偏見もある。ツイッターでプチ炎上することも多いんですよ。今日も「出自上、人に曲を作ってもらってるお人形さんアイドルだと思われることを払拭したい」とツイートしたら、プチ炎上して(苦笑)。俺はアイドルに対してネガティブな思いなんて全然なくて。でも、これだけのアルバムを作って歌詞も曲も自分で書いてないと思われる状況はやっぱり心外なんですよね。そうすると「じゃあAAAはお人形さんアイドルなんですか?」ってリプライがくる。
ーーなかなか本心を汲みとってもらえない。
SKY-HI:そうですね。もちろん、ナーバスになってるAAAファンの気持ちもすごくわかるんです。俺はAAAというグループも、このグループを作った松浦(勝人)社長のこともすごくリスペクトしてるし、感謝もしてる。本当は野球の4番でエースではあるんだけど、サッカーも上手にできるからサイドバックを任されてるという感覚なんです。
ーーグループのサイドバックを務めてる矜持もあるし。
SKY-HI:もちろんです。すべてをひっくるめて、俺がいろんな角度からの偏見と向き合ってまっすぐにいられる方法はひとつしかなくて。それは、 SKY-HIの作品にたどり着いてくれた人、聴いてくれた人の判断を毎回正解にするということ。偏見と100%真摯に向き合ったうえで、ヒップホップがどうとか、AAAがどうとか、ラップがどうとか、歌がどうとかではなく、自分が作った曲と自分が書いた言葉をその人たちに与える――あえて与えるという言葉を使いますけど、そうやってその人たちの人生に直接タッチするしかない。その数が1人でも10人でも100人でも1000人でもそれをやり続けることでし か、俺は満たされないんです。
ーーそれはかなりタフなことですよね。ある種の執念がないとできない。
SKY-HI:執念ですね。俺に「これくらいでいいや」は絶対にないので。それは執念としか言いようがない。俺は自分のファンがどのアーティストのファンよりも幸せじゃないとダメだと思っていて。それくらい、俺の自意識では世界一偏見の目で見られているという勝手な被害妄想があるんです(笑)。その分、自分が歌うたいでいられる証明をくれる人に対してひとつも裏切りたくないんですよね。そこに俺の執念があって。逆になんでそこまで思えるのかといえば、俺が俺自身の熱烈なファンだからなんですよ。
ーー反骨精神と自己愛が渦巻いている。
SKY-HI:そうですね。自分に対してすごく可能性を感じてるし、だからこそもっとがんばってほしいと思うし、自分が生み出すメッセージが世界中に広がってほしいと思ってる。今はまだ広がるべきところまで全然届いてないという自意識があるので。歌うたいである自分のファンとして「SKY-HIはなんで こんなに評価されてないんだ!?」って思ってる。