SKY-HI×猪又孝、LINE MUSICとプレイリストの重要性を語る「ユーザーは"入口"がすべて」

SKY-HI×猪又孝対談

 2015年の音楽シーンは『Apple Music』『AWA』『Google Play Music』『LINE MUSIC』と、定額制ストリーミングサービスが続々登場し、時代の大きな転換点となっている。この事象について、アーティストや音楽作家、ジャーナリストなど、様々な関係者が思いを巡らせており、「ストリーミングを有効活用するには?」「どのサービスを使うべきか?」といった疑問が散見される。今回リアルサウンドでは、アーティストと音楽ジャーナリストがプレイリストを作成し、その選曲意図について激論を交わす企画がスタート。第一回はSKY-HIこと日高光啓(AAA)と音楽ライターの猪又孝に出演してもらい、サブスクリプションサービスについての提言も飛び出すなど、有意義な議論を繰り広げてもらった。

音楽を"プレイリスト"で聴く時代 キュレーションされた情報を効率よく

日高プレイリスト:「ヒップホップ入門曲(かつ二枚目) By SKY-HI」

日高光啓(以下、日高):今回、僕は「ヒップホップ入門」というテーマのもと、LINE MUSICで配信されている楽曲から10曲、選んでみました。

猪又 孝(以下、猪又):事前に日高くんのプレイリストを見せてもらえるかと思っていたんだけど、実はこれが初見なので楽しみです。(日高のプレイリストを眺めながら)これは......いわゆる "二枚目なヒップホップ入門"っていう感じのプレイリスト?

日高:その通りです。二枚目感の強いラッパーを中心に選曲しました。"入門"という言葉から、クラシックを選曲することも考えたんですが、それよりも"ラッパー自身"がかっこいいと思えるアーティストで、たとえ初めて聴いた人でも興味を持てるようなアーティストの楽曲をチョイスしました。かつ、あまり自分のエゴがプレイリストに反映されないように......

猪又:一曲目からSKY-HI名義の「F-3」を持ってきているあたりに、壮大なエゴを感じるんだけど......(笑)。

日高:ええ、もうそこは壮大なフリです(笑)。

猪又:この選曲を見ると、二枚目というより、"イケメン"であったり、"イケてる"という意味合いが強いのかな?

日高:モテる感じですね。

猪又:急に軟派な感じになったね。

日高:でも、二枚目的なキャラであることが大前提ですね。もしかしたらルックス的に「二枚目か......?」と思う人もいるかもしれませんけど、男気などの視点も踏まえて、ナズなども選曲しました。

猪又:具体的な選曲はどんなポイントで?

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日高:選んだアーティストのどの曲を選ぶかがポイントで、「"代表曲"って何をもって代表曲なのか?」という部分もありますよね。ナズならクラシックと言われるデビュー・アルバム『Illmatic』から選ぶのが妥当かもしれないけど、あえて「Hip Hop Is Dead」を選ぶ。同じようにエミネムなら「Lose Yourself」ではなく、「My Name Is」を選ぶんじゃないか? という見方もあるけど、あえてそういう自分を出さずにフラットに考えた結果です。言うなれば、2015年の自分の感覚、ですかね。

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猪又:なるほど。僕は「入門」という前提で、サンプリング・ヒップホップと、その元ネタになってる曲を並べた「ド定番」プレイリストを作成しました。

猪又孝プレイリスト:「知らなきゃマズい定番DISCOネタRAP By 猪又孝」

日高:猪又さんらしい、なんとも教養に長けたプレイリストですね。

猪又:今の時代、音楽を聴いて元ネタを探す、という行為は少なくなってきているんじゃないかなと思いつつ、たとえ元ネタに興味がなくても、「あれ、どこかで聴いたことあるな」と思える、わかりやすい大ネタと、それをサンプリングした耳馴染みの良いヒップホップ曲を選びました。それらを順番に並べてます。とはいえ、そもそも若い世代の人たちは、"大ネタ"って何を指す言葉なのかわからないかもしれないけど。

日高:ネイティブ・インターネット世代だと、もしかしたらそうかもしれませんね。僕はネット以前の人間だから、とにかく気になった曲に関しては、本で調べてお店で聴くスタイルでしたから。それに「知らないとヤバい」という風潮もあったので、その強迫観念のようなもののおかげで(笑)、いろいろ勉強できました。今はネットで簡単に検索できるし、簡素化されたからこそ、知る必要性もなくなってきているのかもしれませんよね。

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猪又:そうなると、僕のプレイリストは、すでに説教じみているような気がしてきたな......(笑)。

日高:それは大袈裟だと思いますけど、世代によってはそう感じることもあるんですかね......? 音楽に対する探求心は薄まっているのか、それとも濃くなっているのか。でも正直、濃ければいいというわけでもないのが、今の時代を象徴しているような気もします。

猪又:言葉で説明すると説教くさくなってしまうけど、"プレイリスト"で音として聴けば、そういったもの抜きで簡単に楽しめるのは間違いないよね。百聞は一見にしかず、みたいな。

日高:僕がア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)を知ったきっかけって、ファレル・ウィリアムスだったんですよ。彼のプロデューサー・ユニットであるザ・ネプチューンズ全盛期の頃が、まさに僕の青春で、ファレルは「僕の音楽的ルーツはATCQにある」って話していたんですね。すぐにトライブの音源を買って聴いて、当時のネプチューンズが作り出すサウンドとはまったく異なるものだったけど、ファレルがどのようにしてトライブから影響を受けたかが、すごく気になっちゃうわけですよ。日本盤の対訳を読んでみても、さっき話したように、「知らないとヤバい」時代だったからこそ、「ご存じネイティブ・タンのATCQは~」とか書かれていて、「なんだよネイティブ・タンって! 存じ上げないよ!」と。でも、それを独自に調べていく作業がとにかく楽しくって、僕はそこに音楽の楽しみ方、醍醐味があると感じました。

猪又:日高くんは能動的になれたからこそ、そう思えたんだろうけど、受動的になった場合、さっき話したような"説教"くさくなってしまうのかもしれない。難しい境界線だけど、教養や知識があったほうがエンタテインメントをより楽しめる場合もあるし。

日高:音楽を発信する側(プレイヤー)からの意見として、それは"歌詞"にも影響が見られると思うんですよね。伝わりづらい言葉を選ぶより、誰にでも伝わる言葉で歌詞を構成する。それって敷居を下げているようで、実は現代の発明のひとつでもある。「誰にでも理解できる歌詞=言葉が衰退している」という結論を導き出すのは短絡的というか。もちろん、反論もあるとは思うし、明確な答えはないかもしれないけど、すごく考えさせられますよね。

猪又:要は"使い方"だよね。

日高:つまり、エデュテイメントと説教くさいという行為は、紙一重のような気がするんですよ。プレイリストに曲が並び、無作為に曲が流れるというシステムは、完全受け身のような形だけど、そこには発見も必ずある。言葉で説明するのが説教くさいから、聴くことで学ぶ。わからない言葉を並べ立てられたら、それこそ拒絶してしまうこともあるし、そういった意味で、サブスクリプション型音楽サービスのプレイリストって、新しい可能性は秘めてるんじゃないかなって感じるんですよね。

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