嵐『Japonism』は80年代後半のアップデート? ジャニーズが重要視する“ジャポニズム精神”
ジャニーズのアイデンティティの中心はアメリカにある、ということは、拙共著『ジャニ研!』(原書房)や本連載でくり返し指摘してきたことだ。ジャニー喜多川の経緯を踏まえるなら、ジャニーズとは、戦後日本に流入するアメリカ文化のひとつとして捉えるべきだ。ジャニーズにしばしば見出すことのできる、妙ちきりんな〈和〉のセンスも、アメリカの視線から構成された日本像だと思うと納得がいく。漢字とアルファベットが入り乱れる「光GENJI」など、いかにも外国人の発想だ。ジャニーズにおける〈和〉のセンスは、アメリカにおける日本趣味――言わば、ジャポニズムなのである。
さて、嵐の新作アルバムは、その名も『Japonism』である。アルバム名に示されるように、「miyabi-night」「三日月」「暁」などといった曲が並んでおり、(ともすれば安易な)日本趣味が貫かれている。面白いのは、アルバム冒頭を飾る先行シングル「Sakura」が、こうやって他の曲と並ぶことで、見事にジャニーズ的ジャポニズムとして解釈されることだ。先行シングルかつジャポニズム成分もある「Sakura」は、本作のオープニングにとてもふさわしい。「Sakura」に続くのは、「心の空」という曲である。「We Are サムライ 大和撫子」と歌われるこの曲は、和太鼓とエレキギターの音が印象的だ。歌詞といい、サウンドといい、やはり露骨なまでにジャポニズム志向である。続く「君への想い」も、イントロから篳篥(ひちりき)が鳴り響き、漠然と〈和〉のイメージを演出する。篳篥がストリングスのように機能しているのがとても面白く、個人的には、本作でいちばん楽しんだ曲である。「miyabi-night」は、琴や尺八や太鼓の音が使用されつつも、全体的には、キャッチーな打ち込みのポップスになっている。音数と展開が多いジャンクなサウンドに、耳が離せない。大野くんが歌う「暁」も、尺八の核にしつつ、上品なR&Bのようなたたずまいをしている。
このように『Japonism』は、そのタイトル通り、ジャニーズの核とも言えるジャポニズムのセンスを爆発させた作品である。ジャニーズの歴史において、その不思議なジャポニズムが台頭するのは、「スシ食いねぇ!」、光GENJI、忍者あたりが並ぶ80年代後半~90年前後あたりである。今回嵐が「よいとこ盤」でカヴァーした少年隊「日本よいとこ摩訶不思議」は、その時期の名曲としてある。「日本よいとこ摩訶不思議」という曲名は、まさにジャポニズムを言い表している。だとすれば、本作『Japonism』とは、〈和〉のセンスが花開いた80年代後半のジャニーズをアップデートする試みに他ならない。これもつねづね言っていることだが、ジャニーズは、自分たちが達成したものやその蓄積を軽視しない。どころか、それらを積極的に引き継ぎ、再利用する。『Japonism』は、その引継ぎと再利用のひとつのかたちである。とは言え、当のジャニーズ側が、自らの80年代後半におけるジャポニズム精神について、これほど自覚的だったとは正直驚いた。「日本よいとこ摩訶不思議」カヴァーのアレンジはほとんど当時のままだったが、そこには、自分たちはジャポニズムが台頭した80年代後半という時代を重要視しているのだ、という強いメッセージを感じる。加えて言えば、「心の空」や「miyabi-night」なども、80年代的な音色(おんしょく)で作られている。ジャニーズの歩みを考えると、とても考えられたサウンドの選択である。