市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第18回
hideと付き合った濃密な日々 市川哲史が綴った「18年目のラブレター」
最後に私がいちばん好きな、hideの「なんじゃそりゃあ!?」話を――。
ヴォーカルのブラッキー・ローレスが骸骨を盃にして生き血を飲み干すライヴ・パフォーマンスが人気の、WASPを観に行った<サーベルタイガー>時代のhide。もちろん「なんじゃそりゃあ!?」絶好調である。
ローレスが血をすすり客席に放り投げたその夜の骸骨は、hideの目の前に飛んできた。咄嗟に摑むと当たり前の話だがその骸骨はプラモデルで、底にはまだ血糊がべっとり。次の瞬間「すいません、その血を分けてください」と横の女性から丁重に頼まれ、「いいですよ」と快く手渡したら「ああー♡」とやたら悦ばれたらしい。
「もういたく感激しちゃってるから、『これだ!』と。ウチのバンドのライヴで――血を吐きました、肉屋で買ってきた生肉を食いちぎりながら(失笑)。当時はメンバー皆お金全然ないんだけど、豚だと身体に悪いからってんで牛にしたの。くくく」
なんじゃそりゃあ。
■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)